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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
古代の魔女
13/82

そうだ、服を買いにいこう!→どうしてこうなった……。

 翌朝。目が覚めると、いつの間にかメープルがこちらを覗き込んでいた。


「おはよう、ロットちゃん」


「おはよう、メープル」


 俺は上体を起こすと、ぐっと伸びをする。


「そういえばロットちゃん。いつも下着で寝てるけど、パジャマとか持ってないの?」


 唐突にそう問いかけてくるメープルに、俺はそういえばと答える。


「ブエルの実家には、メイドたちの趣味でいろいろ着せ替え人形にされていたからそれなりに服はあったんだけどな。依頼が終わってすぐにこっちに来たから、今持ってる服は軍服か、もらったジャージくらいしかないな」


「へぇ。じゃあさ!」


 そう言うと、メープルは俺の両肩をつかんで、こう言った。


「今日は街まで服を買いに行こうよ!」
















 と、いうわけでやって来ましたエインズワースの街です。

 エインズワースの街は、その名前からもわかる通り、魔法道具が盛んに売買されている街である。

 魔法道具を作る技術を世界に誇るギト王国の、全体の2割はここ出身の匠の製品と言っても過言ではないほど、ここは技師が多い。

 故に、ここではちょっとだけそういった道具を安く買えるのだ。

 儲かる話である。


 安い、といっても、俺のような小学生が買えるような値段ではないし、カードとか存在しない世界では、後払いなんてできない。


 もっとも、今回は服を買いに行くわけだが、それにしたって子供の小遣いでは足りるはずもない。

 俺のところは金持ちだったから、そういうことに不便しなかったのだが、いざとなるとそうともいかないわけで。


 だから今回は、ジーナさんに奢ってもらうことになった。


 それなりに人が多いエインズワースの街。

 その中でも二番目に人の出入りが激しい場所が、今いるこの少し大きめの店。


 服飾品を専門に扱う、中流のブランドを取り揃えている。


「人拐いに気を付けてくださいね?」


「わかりました!じゃ、ロットちゃん、行こ!」


 ジーナさんの注意を受けながらも、大はしゃぎで俺の手を引くメープル。

 犬のような尻尾が左右にブンブン振れていて、声からも態度からも、その楽しさがにじみ出ている。


「うん!」


 俺も、とりあえず年相応に振る舞って、メープルの後をついていく。


 そんな二人の後ろで、ジーナは笑顔を浮かべていた。















 目の前に並べられているのは、メープルが選別した俺の試着予定の洋服。


 現在の季節のこともあり、長袖がメインに選ばれている。

 デザインの幅も広く、フリフリしたゴスロリドレスから、大人しい丈の長いワンピースや、普通のTシャツやポロシャツと、ジーンズのスカートやズボン。長さも長いものから短いものまである。


「こういう、派手なのはちょっとなぁ……」


 今も向こうで、アレと、それからコッチもいいかなーと、実家のメイドたちを彷彿とさせる勢いを見せている。


 とりあえず片っ端から着ていくことにした。


 まずは、白ティーシャツにジーンズのスカート。


 長い金髪と白い服が合ってる。

 動きやすくていいな。

 普段着には持ってこいだ。


 次に、短パンに変更。


 うん。

 スカートより断然マシだ。

 スースーしないし、短いから長い靴下とかニーソを合わせれば、それなりにいいんじゃないか?

 でも、これは普段着だな。やっぱり。


 普段着を探しているのだから、それで問題ないんだけど。


 そこから色んなタイプの普段着を試着していく。


 そして、試着する度にメープルがよくそれだけ思い付くなという、膨大なバリエーションの賛辞を吐き続けた結果。


 いつの間にか人が集まっていた。


「……えっと……」


 数学的帰納法、っていうんだっけ?

 簡単にいうと、ハゲ頭のパラドクスだな。

 髪の毛0本のハゲと、髪の毛1本のハゲは大して変わらない。

 それが髪の毛一本増えたところでと、ずっと繰り返していくと、不思議なことに髪の毛がふさふさである人と、髪の毛が0本の人の髪量は大して変わらないという結果が出てくるのだ。

 これをハゲ頭のパラドクスという。


 今現在のこの状況は、それに準じるところがあると思うのだ。

 一気にドンと増えたならいざ知らず、徐々に徐々に増えてきたものだから、こんな大人数が集まったことに気がつかなかったのだ。


 まさにハゲ。

 ハゲとはすべての真理を物語っている。


 一瞬、そんな思考に囚われかけて、はたと自我が戻ってくる。


「ロットちゃん、どうしたの?」


 不思議そうに尋ねてくるメープルに、俺は一瞬、おかしいと考えているのは自分だけなのかと錯覚した。


(いや、これは集団心理とかたぶんそんな感じだ。たぶん)


 集団心理がはたしてどういうものだったのかは記憶にないが、俺はおかしいのは俺ではなくお前らの方だと断言できる。


「いつの間に、ファッションショーになってるの?」


 メープルの言葉で、ざわりと人々が声を立てていたものが、其の一言でシンと静まり返った。


「知らない!気にしないで続けてよ、ロットちゃん!」


 そんな無責任な!


 あちらこちらからそうだそうだというざわめきが聞こえ始める。


 あー、どうしてこうなったんだろう?


 ……そうか、俺がかわいいのがいけなかったんだ。

 俺がかわいいから、みんなこんなに集ってくるんだよ。


 ……かわいいって、罪だな。


 そんなことを、ふと思うのであった。
















 結局、メープルの言葉に乗せられて、試着予定のものを全部着たあと、なぜか店員さんまでやって来て


「よければこれも着てみてください!お願いします!」


 と、追加で服を出された。


 それがきっかけで、どんどんとファッションショーという名前の着せ替え大会は続けられることになった。


 閉店間際まで続けられ、結局俺が一番気に入ったシンプルなTシャツと短パンの数セットを、半額で購入し、その日は終わった。


 途中から、カメラを持ってきていた人が、撮影を願い出てきたが、俺はさすがに却下した。


 生前はそんなこともなかったので、少し調子に乗るだろうかと懸念していたが、実際にやられてみると、嬉しいというより、その人に引いた。

 もう、正直引かない方がどうかしている。


 そんな感想やらなんやらをメープルと話していると、前方からある人物がやって来た。


「ねぇ、キミ。ちょっとモデルとかやってみない?」


「嫌です」


 即答して、俺たちはその隣を通りすぎようとする。

 しかし、その人は執濃く勧誘してくる。


「じゃ、じゃあさ?体験だけでもいい──」


「結構です。そういうの間に合ってますから」


「間に合ってるってことは、どこかの事務所と既に契約を?」


 ここでしていませんと言った場合、では、ちょっとでもとまた執拗に追ってくるだろう。だが逆に答えても、それがどこかとか聞いてくる可能性がある。


 本当に面倒だ。


 ということで、俺はスルーすることにした。


「いいの?」


「いいんだよ」


 前世では有名人というものに憧れたこともあった。

 だって、それだけ人に必要とされているのだから。

 だが、それも考え様である。

 みんなから必要とされるのは嬉しいと思うだろう。だか同時に、それはストレスとなりうるのだ。

 みんなからの期待ほど重い負荷はない。


 考えても見てほしい。

 誰からもいろんな期待を背負わされて、しかし自分にはそれを達成する能力なんてない。

 それにかかる精神的負荷ははかり知れず、それで死んでしまう人だっているのだ。


 そういうことをメープルに話すと、彼女はキョトンとした顔でこう返した。


「ロットちゃん、何があったの?」


「……」


 俺はそれに答えることができなかった。

 次回、原石と宝石

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