体内の龍を感じとりました。
……世界はそんなに甘くなかった。
というわけで再びやって参りました、クラリスです。
覚えているだろうか?
そう、三大欲求の抑制試練で使われた、あの寺院です。
今回は場所を変えてエインズワースの街の東にあるもう一つのクラリスで行うことになっているんですが……。
正直、キツイ。
魔力の使用は不可。
もし魔力を使った場合、警報が鳴って、監督が突入。
挙げ句の果ては、なんか木の棒のようなものでお尻をバチコオォォン!と二発。
食事は一日に二回。
今回の食事は、この国で取れるもっとも苦い野菜──名前は確かオクブリっていったっけ?──の入ったおにぎり。
睡眠時間は一日三時間までであり、おまけに出される水には睡眠薬が投入されている。
連続で一月……つまり二十八日間、この生活に耐え抜き、かつその間で体内のロンを知覚できるようにならなければ、追加でもう一月。
「地獄かよ!?」
思わず叫んでしまった。
瞬間、赤いライトと共に鳴り響く警報。
しまった。
これは体内のロンを知覚するための修行だ。
そのために“瞑想”を行うわけだが、この修行中は、決して喋ってはいけないのだ。
失念していた。
警報が鳴り響く中、黒子のような衣装を着た監督が、木の棒を片手にやって来る。
黒子は俺を立ち上がらせると、着ていたジャージを脱がせて尻を出させる。
その瞬間、盛大な音を響かせて、俺の尻は叩かれたのであった。
さて、そんな生活も早いもので、四ヶ月が経った。
苦しかった。
もう、本当に苦しかった。
そう思えていたのは最初の二ヶ月だけだった。
俺は、その生活に慣れてしまっていた。
慣れてからは早かった。
慣れてしまえばこちらのもの。
あとは一心不乱に、体の中を巡るロンを探るだけ。
そして、慣れはじめてとうとう一ヶ月経とうという所に、ようやく俺は、それらしきものを感じとることができた。
魔力とは違う、何かのエネルギーの流れの様なものが、意識を掠めていった。
見つけてしまえばもうすぐだ。
俺はそのエネルギーの流れに全ての意識を向ける。
するとそれは、身体中を巡っていることに気がつく。
頭の天辺から、真っ直ぐに下に降りて、骨を伝って全身を巡っていく。
暖かくもなく、冷たくもなく。
例えるなら、それは音のようなイメージだった。
意識している内に、龍の流れを強く認識することができるようになってきた。
体内でコントロールすることはできないが、それが体内で力強く脈打っていることは理解できるようになっていた。
──これが、ロン。
生命が持つエネルギー。
ライフエナジーとでも言うのだろうか?
そして、それに意識を集中すると、あるとき、それが意識の集中したところに溜まっていくことを理解した。
それを続けていると、監督がやって来て、それを止めさせられた訳だが。
後で聞いてみると、ずっとそれをしているとロンが枯渇して死に至るのだとか。
あれは身体中のロンを一点に集めていたらしく、下手をすれば部分的に壊死したりする可能性もあったらしい。
それほどにロンの扱いは難しいのだとか。
それから、ロンの流れを認識できるようになったことで、俺はようやく最初の修行を終了したのだった。
「おめでとう、ロットちゃん。ちゃんとロンを認識できるようになったみたいだな」
クラリスから出ると、ミッドさんが俺に労いの言葉をかけてきてくれた。
「はい、お陰さまで。なんだか尼さんになった気分でした」
「そうかそうか」
笑いながら、彼は俺の背中を叩いた。
久しぶりに魔力を動かしてみる。
すると、俺はある異変に気がついた。
「あれ……?」
「どうしたの、ロットちゃん?」
一緒に迎えに来てくれたメープルが、心配して尋ねてくる。
「いや、なんか……ロンの動きが魔力に同調しているような……?」
今や俺の体は、半分は魔力でできていると言ってもいい。
最初の三大欲求の抑制試練の時、魔力喰いを覚えたことで大量に魔力を摂取した結果、体内に魔核が構築されているのだ。
言わば、俺の現在の体は半分魔物、つまり半魔であると言っても差し支えない状態なのだ。
それに新しくロンという魔力とは違うエネルギーを知覚できるようになって、先程の瞑想という名前の訓練を受けて、その動きを操れるようになった。
前に言っていたが、龍とは生命エネルギーのことである。
俺の体には血管と同じように、魔力を体内に循環させる管がそこかしこに通っている。
それがどうしたことか、ロンが通る道筋に結合していることに今気がついたのだ。
「あぁ、もうそこまで行ったのか。思ったより早いな」
そう答えたのはミッドさんだった。
「どういうことですか?」
「あー、これはロンを認識できた後、そのまま使うとヤバイからあとで教えようと思ってたんだけどな?」
ミッドさん曰く、ロンは魔力に溶ける性質がある。
ロンをそのまま使うと早死にするということで、先代はそれに自身の魔力と混ぜ合わせて使うことを考えたらしい。
「──というのが、神気っていうエネルギーなんだ。無論、これにはロンが混ざっているわけだから、あんまり使いすぎると枯渇して死ぬからな」
「はあ……」
つまり、こういうことか。
魔力→魔法を使うためのエネルギー。
龍(又は気)→生命エネルギー。使いすぎると死ぬ。
魔力+ロン→神気
神気→ロンを魔力で薄めて使いやすくしたエネルギー。
言ってみれば魔力は水で、ロンは純粋なカルピスか。
カルピスはそのままだと味が濃すぎて飲みづらいから、水という魔力で薄めて使うと。
神気にもロンが混ざっているため、使いすぎれば当然ロンは尽きる。
……あ、もっと分かりやすく説明する方法を見つけた。
魔力はMPでロンはHPだと思えばいいんだ!
ロンだけだとMPは減らないが、使いすぎるとHPが尽きてゲームオーバーになると。
神気を使うと両方減るから、同時にHPも尽きて死ぬと。
うん、分かりやすい!
ゲームに例えると俄然分かりやすくなった!
俺は納得した風に頷いた。
邸に戻ると、その日はご馳走だった。
「「「ロットちゃんのお帰りを祝って!!乾杯!!」」」
祝辞と共に、グラスのぶつかる音が部屋に木霊する。
森の中にいる全員、というわけでもないのだが、それなりの人数が集まって、一階の食堂でわいやわいやと騒いでいた。
まだ慣れないもので、ブエルの実家でのホームパーティーを思い出す。
六歳の誕生日の頃も、小学校の入学祝の時もこんな感じだったっけ。
そんなことを思い出しながら、俺は真ん中の空いている空間で剣舞を舞っている四人組を眺めていた。
「あの銀色の狼の人、私のお父さんなんだよ!」
器用に尻尾に皿を乗せながら、メープルが話しかけてきた。
「へぇ。お父さん、何やってる人なの?」
「えっと、ダンサー?」
「ダンサー!?もしかして、剣舞専門のとか?」
「うん。たしかそんな感じだったよ。二百年くらい前からプロなんだって~」
へぇ、二百年も前から……ん?
二百年?
おいちょっと待て。だとしたらあの人何歳なんだ!?
「……な、なぁメープル。お父さんって、今何歳?」
「えーっと、今年で三百五十三歳って言ってたっけ」
さ、三百……五十三!?
いや、確かにエルフビーストは長命だ。
ワービーストでも最長五百年近くは生きるって話だし、それに無限とも思えるほど長生きなエルフが組合わさると、そりゃ、更に寿命は延びるだろうけど……。
実際に聞くと、驚きを隠しきれないな……。
「どうしたの、ロットちゃん?」
そんな俺の様子を心配したのか、こちらの顔を覗き込んでくるメープル。
相変わらずかわいらしい顔をしているが──
「い、いや。何でもないよ」
──実年齢を考えると、多分発狂しそうな気がするので、聞かないでおこう。
うん。これ以上考えると、精神衛生上よろしくない。
俺はそう言って誤魔化すと、俺は物凄く巧妙な動きを繰り広げる剣舞に目を戻した。
次回、そうだ、服を買いにいこう!→どうしてこうなった……。




