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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
古代の魔女
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アルト・ヘクセ

 異国、ウルバーンのとある場所にて──。


「何、全滅!?」


「はい。文字通り、全滅しました」


「……それは、軍事的な用語とか、そういうことではなく……?」


「左様にございます」


 雨の降り注ぐ暗い路地裏。

 傘をさした二人の男が、そんなやり取りを交わす。


 一方は苦渋の表情を、もう一方は、驚嘆の表情を。


「それも、たった一人の、軍人と呼ぶにはまだ幼すぎる女児によって、か……」


 もはや、笑いさえ込み上げてくる、異常事態。

 彼の話ではまだ齢八つほどの子供が、不可能とされていた人為飛行魔法でくうを飛び回り、我らが誇ってきた空戦部隊を、見たこともない魔法でものの五分ほどで壊滅させ、挙げ句逃げても追ってくる魔法弾で殲滅──いや、蹂躙していたという。


 それはまるで、神話や逸話に聞く“古代の魔女(アルト・ヘクセ)”ではないか。


「まるで、御伽おとぎの国だな、彼処あそこは」


 嘆くように、しかしその口許に笑みを浮かべる観測魔導官。


「馬鹿言え。あんなものが実在してたまるか」


 “古代の魔女(アルト・ヘクセ)”──。


 それは、小さな少女の姿をした悪魔、もしくは魔神として描かれる、災厄の魔女。

 現代の魔法技術でも不可能とされる人為飛行の魔法を使い、指向性をもつ追尾弾の魔法を放つ。

 数多の“見えざる手ウンズィヒバランズ・ハンド”を用い、人の知覚せぬ間に殺戮を行う、鬼神。


 幼きながらも妖艶な美しさをもった金色の髪をもち、蒼い瞳で下臈を見下すように戦下を覗く。


 それは魔神、鬼神、もしや死神とさえ言われた。


 そんなものを、帰らぬ五十万の兵を足しても今残る戦力で対抗できるとは到底思わない。


 今まで優位とされてきた空戦部隊が、同じ上空の敵に為す術もなくやられてしまったのだから。


「……まさかとは思うが、奴ら。こちらがスパイを送ったことを見越して、この作戦を出した訳じゃあるまいな……もしそうだとしたなら──」


 次に出るこちらの動きも、概ね予測されているだろう。

 アルト・ヘクセが敵方にいる以上、こちらも無闇には攻撃できないわけだから。


 例え火で囲んでも、ヤツなら簡単に消し飛ばせる。


「……王に伝えろ。この戦は負け戦だ。戦って勝てる敵じゃない」


 男は観察魔導官にそう伝えると、ある準備のためにその場をあとにした。


 そして、そのまま振り返りもせず、移動しながらこう呟くのだ。


「戦って勝てぬなら、戦わずに勝てばいい」


 ──と。



















 煉瓦でできた、大きな家が、ギト王国の東にあった。

 その家は、ギト王国東方を治める、“金属の覇者マイスター・オス・メタル”スズリ・マーキュライト一等特級魔導武官の所有する広大な森の中にあった。

 その森は“始まりの賢者”エインズワースが曾て中心的に治めた街の郊外に在り、エルフビースト──耳長族エルフ戦獣人族ワービーストとのハーフ──が管理していた。


 エルフビーストとは、エルフと獣人の間に生まれたハーフであり、亜人種の一種である。

 個体数は少ないが、エルフの強大な魔力と獣人の強靭な肉体を持つため、非常に戦闘能力の高い種であるとされている。

 彼らはその希少性と能力の高さで、人身売買に目をつけられることもあるが、大半は返り討ちにしてしまう。

 人間の方が能力的に劣っているからである。

 というのも、人間が操れる魔力には限度がある。


 魔物しかり、肉体がその魔力の本流に耐えられなくなったとき、その肉体は弾け飛ぶからだ。

 だがエルフの場合はそれと異なる。

 エルフは精霊に近い種族である。

 言うなれば亜精霊と言った方がより正確なのだ。


 精霊とは、この世の基礎である魔力を生み出す概念生命体である。

 故に、彼女らは精霊の使徒とも呼べる存在なのだ。


 エルフビーストの個体数が少ないのは、ここに起因する。

 エルフとは、精霊が肉体を得た姿である、というのが通説である。

 そんなエルフには寿命というものが存在しないと言えるほど無限に長い。

 故に、子孫を残す能力が劣るため、またその強い魔力に対抗できる肉体が少ないため、ワービースト等獣人種と交わっても子をなす確率が低いのである。


 よって、エルフビーストの個体数が少ないのである。

 しかし、そんな彼らは、その膨大な魔力に耐えうる肉体を持っているため、いえば哺乳類最強ともなりうるのだ。


 俺は資料を閉じると、棚に戻した。


 なるほど、エルフビーストか……。

 一部地域では、神に対する冒涜だとして討伐隊を送り出すところもあるらしく、お陰で彼らの戦闘力が高まる原因ともなり……。


 俺は首を回すと、肩に手を当てて筋肉を揉み解した。


 ここにある色々な資料を見せてもらうことにしたのだが、何しろ量が多い。

 実践的な技術を磨くには、それに伴う知識が必要である。

 知識を蓄え、知恵となし、実力へ反映させる。


 それがエルフビーストの修行方らしい。


 そんな彼らの持つ魔法の指南書の中には、俺が今日使った指向性魔法は存在しなかった。

 魔力喰いも載っていない。


 もしかして、これは新しく俺が発明したと言っても過言ではないのでは?


 ここの資料を漁る度、そう思えてくる。


「くぁ……」


 あくびをひとつ、窓の外を見やると、外は既に夕陽が落ちた後であった。


 もうそんな時間か……。


 俺は椅子から降りると、体を捻って軽くストレッチを始めた。


 そんなところに、一人のエルフビーストがやって来た。


「お勉強は順調ですか?」


「ジーナさん。はい、お陰さまで。新しい魔法の参考になりましたし」


「新しい魔法?聞かせてくれるかしら?」


 問いかけてくる彼女に、俺は首肯する。


「新しい魔法とはつまり、改変魔法です」


「改変魔法?」


 俺は頷くと、適当な紙をジーナさんに用意してもらった。


「これは、ここの錬金術についての資料よりアイデアをいただきました」


 錬金術とは、魔力を使って物質と物質を強制的に混ぜ合わせて新しいものを作り上げたり、形状を変えたり、物体の本質を別のものに移したりする魔法技術の一つだ。


 そこで俺は、これを応用して、魔力と物体を融合させ、新しいアイテムを造る魔法を考案したのである。


「錬金術の場合、魔法の法則のひとつである情報保存の法則が適応されます。しかしこっちの改編魔法は、その情報保存の法則を無視することができるのです」


 情報保存、もしくは情報量保存の法則とは、使用した情報──エネルギーや質量、それが持つ概念や形状などの情報──が保存されることを指す。


 形状の情報とはつまり、それが気体か、液体か、個体か、ゲルかといった状態のことを指すため、よく試験問題に出されたりもする。

 錬金術ではこういった情報の改編には、熱エネルギーを吸収させるか、発生させるかによって操ることによって、情報保存の法則は成り立っている。


 しかし改編魔法は、魔力によってそれらを書き換えることで、情報量の多さ少なさを無視することが可能なのだ。


「実際にやってみればわかると思うので、とりあえずこの紙を改編魔法で二倍に増やしたいと思います」


 錬金術でも、密度などの設定いじれば、情報量をそのままに二枚に増やすことができる。

 しかし改編魔法を使用した場合には、密度も何もかも同じくもうひとつのものを作り上げることができるのだ。


 俺は、目の前に置かれた数枚の紙束の情報を読み取って、魔力で全く同じものを生成する。


 魔力とはエネルギーである。

 物質とはエネルギーの一形態なので、エネルギーを物質に、物質をエネルギーに改編することは可能だ。

 この改編は情報量保存の法則に違反しているため、錬金術よりより高位な魔法と言える。


 俺が改編魔法を使った瞬間、空間に亀裂のようなものが走った。

 それはホンの一瞬だけで、それは渦を描いて質量を形成した。


 次の瞬間には、全く同じ紙が二つに増えていた。


 どうやら実験成功のようだ。


「……アルト・ヘクセの創造魔法の下位互換ですか」


 呟きながら、しげしげとその増えた紙を手にとって、その感触を確かめるジーナさん。


 この魔法には思ったより集中力が必要で、慣れるまではまだ時間がかかりそうだが、自在にできれば、夢の換装魔法も使用できるかもしれないな。


 俺はそう思いながら、口が開いてふさがらないジーナを面白いように見つめたのだった。

 次回、試練


 魔法解説。


 改編魔法:魔力を用いて、情報を改編したり、読み取ったり、対象をコピーしたりすることができる魔法。超高等魔法に分類。

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