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香霖堂

遅ればせながらやっと投稿できました。

それではどうぞ...


俺は河城と共に山を下りている。向かう先は人里だ。

ほら、幻想郷に来てから人見てないモン。

人間に近い姿の妖怪にしかあってないモン。

そろそろ人肌が恋しい...意味が全然違うけど。

まあ、ある意味では俺も人外だが...

というわけですからして、俺は人里に下りたいと思います。

人里まではそんなに時間がかからなかった。河城の研究所が比較的人里に近いってだけなんだが。


「そういえば河童って人間と友好的なのか?」

「ううん。あまり良くないかな」

「なんで?」

「僕以外の河童は人間を見下しているんだ」


お前も十分見下してると思う。初対面で超侮辱されたの忘れてないからな。

しかし、俺はそこまで心は狭くない。だから気にしないでおこう。


「河城はなんで人間を盟友と呼んでるんだ?」

「...昔、僕は空腹で死にそうになったんだ。その時、ある人間が僕に食料を分けてくれて、恩返しをする形で関係を取っていたら盟友と呼ぶようになったのだ」

「いい人間だな」

「僕もそう思うよ。その盟友のおかげで人里の人間と友好関係を取れてるんだ」


河城のように人間と接すればいい関係を築けるのに自分達からその関係をなくしてるように見える。

河童という種族は見下していると言ったが、人間を恐れてるように思える。特に確信はないが...

こいつの話だけでは事実を知る術はない。後で河童達のいる場所に連れて行ってもらおうかな。

そんなこんなで歩き続けて数十分...

山の麓あたりにある森を抜けると建物が密集している場所が見えた。


「あ、見えてきた。新月、あれが人里だよ」


どうやらあそこが人里のようだ。

遠くからでは何も見えないがきっと人間が沢山いることだろう。

...なんか山から下りた人喰いの何かみたいなセリフだな。

馬鹿げた発想を思い浮かべていると河城に手を引っ張られた。あれ?そっちは人里に向かう道ではないですよ?


「人里は見ただろう?今度は僕の用事に付き合ってくれ!」

「人っ子一人見てもいないのに!?」

「後でまた来ればいいだろぉ!行くぞ!」

「待って!一目だけでいいから!人を!人を見せてぇぇぇぇ!!」


その日、人里の近くで聞こえた新月の叫びは空腹に苦しむ妖怪の声として少しの間騒ぎとなったらしいが...当の本人は気付く余地もなかった。





△▼△





結局、目にすることなく人里から離され河城の目的の場所にまで連れて来られた。

その場所は少し古風なお店と言えばいいのか。いい雰囲気が出ていて俺は好きだ。

入り口の上にある看板には香霖堂と書かれていた。どうゆうお店だろう?


「お〜い!いる〜?」


河城は間の抜けた声で店の人を呼ぶと奥の部屋から一人の眼鏡をかけた白髪の青年が現れた。


「いらっしゃい。なんだ。にとりじゃないか。どうしたんだい?おや...?そちらの方は?」

「初めまして、俺は新月黄泉っていいます。ここで言う外来人です」

「外から来たのか。僕は森近霖之助。よろしく」


森近霖之助と名乗る男は河城とどこか似た気配を感じた。森近さんの方が気配は弱いけど。


「それにしても黄泉君は不思議な右手をしているね...」

「流石森近!お目が高いね!新月はなんと幻想郷では珍しい改造人間なんだ!」

「改造?サイボーグと言う奴かい?」

「まあ、右胸から右手にかけてだけですけど」


袖をまくり右腕を見せると興味深そうに見つめていた。


「確かに...幻想郷には無い性質でできているね。これは君が自分でやったのかい?」

「そうですよ」


そう言うと、森近さんはふむ...と呟き一つ間を置いてある疑問を口にした。


「一つ聞いてもいいか?改造を一部部だけで止めているのはなぜだい?」

「そう!僕も思ってたんだ!どうせなら全身を改造した方がかっこいいのに!」

「かっこいいって...確かに全身を改造した方がいいと思いますが、俺は絶対にしませんよ」

「えー!!なんでだよぉ〜!」

「...長い話になるがいいか?」


河城は首を傾げるが言葉の意味を理解し元気に頷いた。森近さんも聞きたいらしく了承してくれた。


「これは俺がまだ自分の力に気づいて間も無い頃の話だ」


確か、中学生になりたての頃だったかな。能力もちょっとした拍子に使えるようになったんだ。

授業中に自分の持っていたシャーペンの芯を見つめて、何気なく思った。

《もっと頑丈になればいいのに》

その時だ。シャーペンの芯に青い電流が流れ、黒かった芯は少し光沢を放ってる気がした。

突然持ってた物に電流が走ったことは目の錯覚として無視した。だが、字を書こうとしたら字は書けず、さらにはなぞったところが切れていたんだ。

焦った俺はシャーペンの芯を取り出して折ろうと試みたが驚いた事にシャーペンの芯は折れず曲がった。

まるで細長いワイヤーのように頑丈。

俺は試しに脆くなれと思った。すると今度は赤い電流が走り、光沢は消え少し黒ずんでいた。

触れてみるとボロ...ボロ...と簡単に崩れ落ちてしまう。触れた指を見ると黒く汚れていた。今度は脆い炭に変化。

どう考えても異常な光景に少し驚くが、すぐにそれは喜びに変わった。

俺にはすごい能力がある!そう過信していた。


「十分すごい能力だと思うよ?」

「...最後まで聞けば意味がわかる」

「??」


能力を自覚し始めて数ヶ月が経ったある日、俺は事故にあった。右腕を失うような大事故さ。


「それで右腕は全部改造していたのか」

「そうだ」


病院に搬送され一ヶ月後に退院した俺はそこらへんの機材や鉄くずを掻き集めて今の右腕を造ったんだ。それを義父さんに見せたらこう言ったんだ。


『黄泉の能力は十分凄いよ。けれど...軽々しく使ってはいけない。凄い力にはその分の対価が問われるんだ」


その時の俺は意味を理解せず軽く流していた。

だが、その数日後に悲劇が起きた。

俺は能力を使って家の庭で遊んでた。家には一匹の犬がいた。名前はノラ。大きな秋田犬だ。

右腕をさらに改造して指先を尖らせ鉤爪のようにしていた。試し切りをしようと振り回した右腕が不意に飛び出したノラを切り裂いた。

改造された右腕の威力は凄まじく、出血は止まらずノラの息は荒々しかった。

急いで俺は病院に連れて行ったけど、傷は想像以上に深く内臓にまで達していたらしい。

獣医も手を施してくれたがそのままノラは病院で息を引き取った......

その時になって義父さんに言われた言葉の意味を理解できた。

だから俺は...能力を極力使うのを避けてるんだ。


「そんなことがあったのか」

「ノラはきっと俺を許さないだろうな」

「......新月」

「ん?どうし...た!?」


河城の目からはポロポロと涙が溢れていた。そして、唐突に頭を下げた。


「ごめんよ...新月...」

「ど、どうして泣いてるんだ!?それになんでお前が謝る!」

「だって...新月の気持ちもわからず...僕は無神経なことを...」

「なんだ。そうゆうことか」

「そうゆうことってなんだよぉ!僕は本当に!」


ポカポカと俺の胸を叩く河城の頭を優しく撫でた。


「わかってる。河城は優しい奴だって、だから悪気はなかったのも知ってる」

「で、でも....!」

「優しいからこそ俺のことで泣いてくれるんだろ?ありがとう河城」

「う、うぅ......新月はなんでそんなに強いんだよぉぉ...!」


強い...か。

違う。俺はただ自分が許せないんだ。

過信した自分の力を不用意に使ったバカな自分を......ノラを殺してしまった自分を......ずっと自分を恨んできた。

だから泣く事も出来ない。俺にはなく権利はないんだ。


「新月...?」

「ん?」

「泣いてるの?」

「は?そんなわけーーー!」


ツーっと右目から涙が頬を伝い、ポトッと音を立て床に落ちた。


「ふふふ...実は強がってただけ?」

「ち、違う!強がってなんか!!」


ギュッと自分の胸に引き寄せるように河城は俺を抱きしめた。背中のリュックから飛び出したアームで無理矢理ではあるが......


「うん...わかってる。けど、泣きたい時は泣いていいんだよ?」

「俺は...別に...」

「ずっと我慢してたんでしょ...?愛犬が死んで、自分を追い詰めて、泣くこともできないままずっと我慢して償ってきたんだよね」

「......おれ...はぁぁ......」

「もう泣いてもいいんだよ...?」


俺は泣いた。女の子の胸で子供のように泣きじゃくった。

今まで心の奥に閉じ込めてきた悲しみを吐き出すように......泣き続ける俺を優しく河城は撫でてくれた。それがとても心地よかった。





△▼△





それから数分が経過して俺は泣き止んだ。ただ、河城の事を見ることができなかった。

だって...恥ずかしいだろ?あいつに抱き寄せられたとはいえずっと抱きついて泣いていたんだ。顔なんて見ることができねえ...

その気持ちを察したのか、半ば存在を忘れられていた森近さんが口を開いた。


「そうだ。黄泉君は物も復元できるんだよね?」

「え?は、はい」

「一つ直してもらいたい物があるんだ。今持ってくるからちょっと待っててくれ」


店の裏へと入っていくと数分してボロっちい物を持って来た。


「なんだいそれ?」

「これは《てれび》と言うものらしい。外の世界から流れてきたんだ」


森近さんが持って来たテレビは古くしかもブラウン管だった。相当古いな...老人の家に行ってもあるか疑わしいレベルだぞ...


「これを直せばいいんですか?」

「うん。お願いできるかい?」

「楽勝ですよ!こんなもの1分で直せます!」


パチンッ!と指を鳴らし、青いサークルでテレビを囲み復元を開始した。

復元をしている最中の俺を森近さんは微笑んで見ていたが何故だろうか?





たまにはこんな展開もいいよね。

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