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改造少年の秘密



俺は夢を見てる。はっきりと夢だとわかるぐらい鮮明な夢だ。

なぜなら、目の前には赤ん坊の俺を抱き抱えている紫さんと見知らぬ女性がいた。赤ん坊が自分だとわかった理由はわからない。ただ、自分だと思った。

これは想像から生まれた夢なのか、それとも無意識下にあった俺自身の記憶なのか。それがどちらかわからないが...不思議なのは紫さんが俺を抱き抱えていることだ。

なんで紫さんがいる? やっぱりただの想像からの夢なのか?

俺の思考がグルグルし始めた時...紫さんが側にいたもう一人の人物に話しかけた。


「本当にいいの?」

「......私も辛いですよ。けど、この子には普通に生きて欲しい」

「あなたがそう言うのなら私は何も言わないわ。ただ、最後はこの子次第」

「わかってます...もしこの子がこっちの世界で生きたいと言ったら...その時はこの子をお願いします」


もう一人の女性らしき人物は紫さんに頭を深く下げた。その目に涙を浮かべながら...

俺はただその光景を黙って見ていた。纏まらない情報と動かない思考の中、ただ漠然と思い浮かんだ言葉があった。

それは...《母さん》という言葉だった。

なんとなくだ。そう理由も確証もない。なんとなくで思い浮かんだ言葉。それでも俺はこの人を見て母さんと思った。

この夢は一体なんなのだろうか。この夢は俺に何を知らせたいのか。全くもってわからない。けど、一つ知り得た事実がある。それは紫さんが俺の過去を知っている可能性があるということだ。

夢の通りに行けばの話だが...確かめる価値はある。まあ、この夢が終わればの話だ。なぜか夢から覚めれる気配がない。何故だ?


「それは簡単。あたしが君を夢に閉じ込めてるからさ」


背後から聞こえた声に俺は即座に振り向くが、そこには誰もいない。


「あはは! そう簡単に姿を見せるわけないじゃない」


また声の方に視線を移すが誰もいない。

気づけば目の前にいた紫さんや赤ん坊の俺も消えていた。どうやら、この夢は何者かによる意図的な夢だったようだ。

ということはさっきの夢は空想か?


「悪いけど今の夢は君の意識下にある記憶から作った夢。過去に起こった出来事だよ」


......なぜこんなことをするんだ? お前は一体何が目的なんだ?


「強いて言うなら君には自分自身をよく理解してほしいってことかな」


自分自身を理解だと? それがお前に何の得がある。どちらかといえば俺だけが得するんじゃないか?


「自分を知ることが何も君自身の幸せに繋がるとは限らないよ? もしかしたら絶望かもね」


どう言う意味だ?


「さぁ? あたしは言わばメッセンジャー。君が自分自身を知った時に何が起こるかは代理人のあたしには知り得ないことだよ」


代理人? メッセンジャー? 何を言ってる?


「秘密。まぁ、いつか君とあたし達は現実で出会えるよ。それじゃあ、いつか出会えるその時まで...さようなら」


パチン! という音が聞こえると共に俺は夢から覚めた。現実の俺の視界に入ったのは知らない天井。起き上がって部屋を見渡すとこの部屋は俺が寝ている布団以外何も置いていない。

この部屋は何だ?そして、俺はなぜここで寝ているんだ?

少し混乱しつつある頭を抱え込んでいると後ろの扉が開いた。


「よう新月少年。目が覚めたようだな」


扉のところにいたのはアルマさんだった。

相変わらず何を考えているかわからないが優しそうな笑みを浮かべている。


「気分は?」

「最悪です...」

「なるほど。確かに精神的疲労が見られるな」

「わかります...?」

「精神も感情のようなものさ。能力でなんとなくわかる。しかし、どうしてそんなに精神が参ってるんだ?」


精神的疲労の原因は大体わかる。さっきの夢だ。

記憶にない夢を見たと思えば意味不明な人物が現れて意味深な言葉を残して、しかも俺が理解する前にどんどん話が進んでいくもんだからもうアレだね。疲れた。なんで寝てる間も疲れなきゃいけないんだ...!


「まあ、あえて聞かないが...あんまり悩み過ぎても無駄に疲れるだけだぜ?」

「アルマさんって気楽ですね...」

「パルスィによく言われるぜ!」

「なんで嬉しそうなんですか?」


この人ってパルスィさんがいればもう幸せって感じだよな。なんか羨ましい。

俺もこの人みたいに一緒に居るだけで幸せだと思える人と出会えるだろうか。いや、多分出会ってる。まだハッキリと認めたくないがきっとそうだろう。


「それよりも新月少年。さとり様からの伝言だ。さっさと帰れ! だとよ」

「最後まで俺に辛辣ですね...」

「元々嫌いな人間であるお前が怒らせるようなことを考えた結果だ。諦めろ」


古明地さんの気にしている単語を思ってしまったことは謝る。だが、その前から俺に対して失礼な態度だったことには不満を抱いている。

人間だってだけであそこまで言うか? 寛容な態度を見せないから幼稚だって思われるんだよ!!


【そんなに死にたいのですね?】


パーソナルスペース広すぎんだろ!?

ちょっとぐらい愚痴ったっていいじゃねぇか!!


「じゃあ俺もう行きますね!?」

「あ、おいまだーーーーーーー」


アルマさんの呼び掛けを申し訳ないが無視して俺は地霊殿を飛び出した。

もうあんな戦いはこりごりだ!!






△▼△






新月少年が一心不乱に地霊殿から飛び出していく姿を見送ると俺は小さくため息をこぼした。


「はぁぁ...」

「どうしたの?」

「ああ、パルスィ。新月少年に大事なことを言おうとしたんだが...逃げられた」

「なんでまた」

「多分、さとり様をまた怒らせたんだろ」


あいつってバカっぽいし、忠告した事をすぐ忘れてそうだ。どうせ心の中で愚痴ってさとり様から心話ーー心の電話のようなものーーが飛ばされたんだろうな。

全く...危うい奴だよ。


「それで...大事なことって何なの?」

「あいつの出生のこと」

「人間じゃないとか?」

「半分正解で半分間違い」

「半人ってこと?」

「ブッブ〜はずれ〜罰ゲームとして頭ワシャワシャの刑で〜す」


そう言ってパルスィの頭を両手でワシャワシャとした。少し擽ったそうに笑う彼女だったが満更でもない様子。

満足したので手を離すと髪が癖っ毛のようにピョンピョンとはねていた。ちょっと可愛かったからもう一回ワシャワシャする。それを何回か続けながら俺は新月少年が気絶していた時に紫から言われた事を思い出していた。






◆◇◆





気絶している新月少年を看病していると紫がスキマから現れた。なぜ戻ってきたかは知らないが新月少年について言いそびれたことがあるから伝えにきたそうだ。

本人起きてから言えばいいのでは? とも思ったがどうやら本人には内緒のことらしい。仕方ないから聞くことにしたがその話の内容は突拍子もないものだった。


「新月少年は人間じゃない?」

「その言い方は宜しくないわ。人間になった、が正しいのよ」


いや...あんまり変わらんと思うぞ。というか急展開すぎるだろ。


「じゃあ何か? とある何かが原因で新月少年は別の何かから人間に変わったってことか?」

「詳しく説明はできないけど。簡単に言うとそういう事」

「その言い方だと新月少年が人間になった一因はあんたにもあるってことか」

「まあ...古い友人の頼みだもの。断れなかったわ」


紫の古い友人と言えば幽々子か、地上にいるという歴史を書き残す阿求一族の先祖か、それとも俺の知らない友人か。まあどうでもいい。


「しかし、一つ分からないことがある。人間になった新月少年を外の世界に送ったのは十中八九あんただ。それをなぜ幻想郷に呼び込んだ?」


話の流れからたぶん新月少年は幻想郷生まれの何かの種族だ。そして、その親である紫の友人が何らかの原因...まあ想像はつくが外の世界にまだ赤子の新月少年を紫に送ってもらった。そこまではいい。なぜ連れ戻す必要があった。

俺の仮説だが新月少年の親は幻想郷ではあいつが危険な目に合うと思ったのではないか? 一応ここって危ないし。それを理解した上で紫は新月少年を外の世界に送ったはずだ。

友人の息子である新月少年をなぜ連れ戻したのか。俺はそれを知りたい。


「そうね。それぐらいは教えるわ。その友人とはある約束をしてたの。黄泉が16歳になった時、彼が幻想郷に行きたいと願ったら連れ戻すって」

「それであいつは自分の意思で幻想郷に来たいと言ったから連れて来たと...何でそんな約束をした?」


さっきまで優しそうに微笑んでいた紫の表情は一変し、幻想郷の管理者としての雰囲気を感じた。それは大妖怪と呼ばれる紫の本性だったのかもしれない。

ピリピリと鳥肌が立つ感覚。嫌な汗が滲み寒気を感じた。それほどの意思のような殺気のようなものを俺は感じ、少しばかり戦慄させられた。


「私はこの幻想郷を愛してる。幻想郷生まれの黄泉はまだ赤子とは言え、幻想郷という存在を外の世界に露見する危険性があった。それが原因でここが危険に及ぶ可能性を考えた上での処置であり約束よ。本当なら友人の頼みでも外の世界に連れ出すことなんてしない。例え赤子でも殺す気でいたわ。けど、友人の子だもの流石の私も殺せなかった。だから約束を結んだ。たったそれだけ」


俺は紫という大妖怪の本性を今、知ったのかもしれない。

この人は幻想郷を心の底から愛しているんだな。何度か俺のせいで幻想郷に危機的状況及んでるけど...それについてはどう思ってたのだろうか。考えるまでもないか...おお怖い...!


「そんな訳で魔人君。くれぐれも黄泉には言わないでね」

「ちょっとぐらい良くない?」

「ダメ」

「ちっ...!」

「それじゃあ黄泉によろしくね」


そう言って紫はスキマへと消えていった。






◆◇◆






ああ、そう言えば言うなって言われてた。あぶねぇ...もう少しでバラすとこだった。

まあ結果オーライってやつ? しかし、新月少年は面白いやつだ。今度、地上に行く機会があったら様子見に行こうかな?



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