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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
最終章 吾輩は怪盗である。故にキミを盗む
79/80

LAST STEP 予告通り、お宝は頂戴します♡

☆☆☆


『っざけるなァッ!』


 ネロを操る者は、怒りの声をあげる。


「へへん! いい気味だな。自分の計画を邪魔された気分はどうだい?」


 宇宙の再構成を阻んだ者の相棒は、馬鹿にするように笑う。


『宇宙は滅び、再び形成される――それこそが、この世界のルールなのだぞッ! 貴様はその理を崩壊させ、あろうことかこの器の感情を弄んだッ!』

「へっ! それをキミが言うのか? 笑っちゃうね」

『な……に?』


 “ネロ”の感情を弄び、いいように利用したのは、他ならぬそちら側。

 彼の持つ迷いに付け込み、自らを利するように誘導した。


「ネロはな、見た目以上に繊細なんだよ! パッと見がさつで天然で感情の機微なんかこれっぽちもわかっていないように見えるけどな! ちょっとした一言に傷つきやすいデリケートな感性の持ち主なんですよッ! ちょっとへこみだしたらこっちがドン引きするくらいにとことん落ち込みやがるんだッ!」

「う、うるさいっ――黙れッ!』


 恥ずかしい暴露話にネロが主導権を取り戻しかける。


「ほんっと、女々しくて傷つきやすくて、本当に女の子なんじゃないかって、何度思ったことか!」


 それは、禁断の一言。

 彼が一番気にしているところ。

 どっちでもいいと割り切れず、ついカッとなって言い返してしまう言葉だった。


「おっ俺は――――男だよッ! 正真正銘、男だよッ!」


 体の支配を取り戻すが、半分また奪われる。


『やめろっ! なぜ抵抗するのだッ!?』

「それがネロって男の娘だからさ。いつもどこか達観してるっぽくスカしてるけど、甘っちょろいしカワイイ子には弱いしお節介だし傷つきやすいし――やっぱ女の子だろって思われるような……ボクの相棒さ」


 いつもより、誰よりも優しい声だった。

 誰にも見せることのない、穏やかな表情だ。


「っだったら――なんなんだよッ! 俺は……この世界を終わらせるために生まれたんだッ!」

「はぁ……これだからネロくんは」


 エミリアはわざとらしく呆れて見せた。


「ボクが昔言ってやったこと、もう忘れたのか? 生まれた意味は、自分で考えろって言ったじゃないか」

「考えた! その結果が――」




「全部押し付けられてるだけだろッ! お前を操ってる訳の分からない連中にさッ! そんなのお前の意志で選んだ“生きる意味”じゃないだろッ!」





『全て――運命だ!』

「お・ま・え・は・だ・ま・っ・て・ろ!」


 エミリアはネロの頬を叩いて黙らせる。


「運命なんて訳の分からない言葉で思考停止してんなッ! 何をして生きていくのかを考えるのが、人間て生き物なんだよッ! くっだらねぇこととか! 生きるためになんも必要のないこととか! 誰にも理解されないこととかさ! 考え続けることが、人間の生きる意味なんだッ!」


 かつてエミリアは、ただ生きるだけだった。

 効率的に栄養を摂取し、快適な環境を探し、できるだけ長く生きることを目指すだけだった。

 他の獣と、何ら変わることもなく。


「結局、ボクのこの考えだって、あの男に与えられただけかもしれないけど……ボクのこの気持ちだけは、誰にも奪えないし変えられないんだ――あの日、空に輝くキラキラが欲しいって考えさせた、この気持ちはなッ!」

「俺だって――操られようが、変わらない気持ちだって、あるが……それは生きる意味とは関係ないッ!」

『生きる意味など必要ない。人は運命に従って生るのみ』


 ネロを操る意志は虚無のように繰り返す。


「関係ないって、なんでわかるのさ?」

「そ、それは――体が、勝手に動いてるだけなんだ。困っている人を見ると、たまらなく助けたくなる。助けてあげたいって気持ちで、胸がいっぱいになるんだ」

「あるじゃんか、生きる意味」

「は……?」




「人助けをする。それがお前の生きる――生まれてきた意味なんじゃないのか?」




 ネロの体がうごめく。

 エミリアは慌てて飛びのく。


『な、なぜだっ』

「人助け……か」


 彼の体から光が分離し、彼と瓜二つの人物が姿を現す。

 体を支配する力を自力で振り払ったのだ。


「そういうことに、しといてやるよ! 今のところは、な」


 誰かを助けたい。

 困っている人を見捨てることはできない。

 体の奥底に染みついている、ネロという人物の感情だ。


『やめろっ! お前も運命に抗うというのか!?』

「……結局さ、人の心なんて自分でもわからないんだよ」


 エミリアは言った。


「分からないから、考えて、考え続けて――結局わからないまま動くんだ。そんなものをわかっている気でいるなんて……ほんっと、笑っちゃうよ」

『貴様に笑われる筋合いはないッ!』


 もう一人のネロは、右手を前に突き出した。


『このような狂った世界など、破壊してやるッ!』

「え……な、何してんのさ?」

「ビッグバンの真逆――大収縮さ」


 宇宙はかつて、一つの点でしかなかった。

 その状態に戻されようとしているのだ。

 この宇宙の中心に、すべてを引き寄せて。


「わわわっ! それは反則じゃないかッ!」


 エミリアは止めようと掴みかかるが、実体のない体は捉えようもない。


「俺がやる――っ!」


 ネロは中央の祭壇まで跳び、ネリーの残したマフラーを巻いた。

 極限まで意識を研ぎ澄ませる。

 いつも無意識的にやっていた瞑想。

 それは――このためだ。

 究極の集中状態、無我の境地。

 それに至ることで人間が持ちうる能力すべてを引き出せる。


『!?』


 もう一人のネロは目を見開いた。

 左胸に深く、深くエドが突き刺さっている。

 そこは、実体のない体の核となる場所。

 体を構成するための重要な部分だった。


『人を、助けるのではなかったのか……?』

「お前は人じゃないし、なにより俺は、多くの人を助けられた」


 もう一人のネロは消滅していく。

 エミリアはそれに向かって慇懃無礼に宣言した。


「自称、宇宙の管理者さん。予告通り、ボクの相棒は盗ませてもらったぜ」


 最後に、こちらを睨む目を残してすべてが消滅した。

 だが勝利の余韻に浸ることはできなかった。

 地面の光が消えていく。


「え、ちょっ……!?」

「そりゃそうだよッ! この場所は、もう必要ないんだからなッ!」


 ネロは人間離れした跳躍でサラを救い出す。

 だが、周りの空間は徐々に消滅していっている。


「さーて……どうやって生き延びるか、考えよっか♪」

「ったく! あんたはいつも無計画なんだからなッ!」


 エミリアは楽しそうに笑った。

 これが人生の最後になってもいいと思って。

 死ぬときは笑ってやろうと、考えていたから。








 ――――宇宙の中心部は、完全に消滅してしまった。


 


エピローグは話数にカウントしてないかった。

あともう一回だけ続きます。

もう少しだけお付き合いください。

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