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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
最終章 吾輩は怪盗である。故にキミを盗む
77/80

STEP74 最後の予告状

☆☆☆


「――後部エンジン消失しましたッ!」

「ん、回路を切り替えて。最悪コクピットだけでもたどり着くぞ」


 エミリアは全神経を視覚と腕に集中する。

 計器に表示される引力の数値とにらめっこしながらハンドルを繰る。

 後ろではサラがあわただしく右往左往している。

 次々と切り替えなければエンジンが停止、即死だ。


「右舷27左舷90」

「はいっ!」


 ハンドルだけではできない調整もやってくれている。

 だが機体は軋んでいく。

 こんな裏技のような方法は上手くいくはずもない。


「あっ! 気密が――やぶれ」

「知ってるッ!」


 船内の気圧がどんどん下がっていく。最悪彼女は息を止めていれば30分は生きながらえることができる。

 サラはそうもいかないが。


「G-ドライブ起動ッ!」


 このまま何もせず死ぬよりは――


 どっかの誰がやったのかわからないが、惑星に向けてワープをすると、そこを通過できるらしい。

 それゆえ星の回避とかの七面倒くさい計算は行わなくて済むのだ。

 とはいえ、ブラックホールで試した馬鹿はエミリアが初めてとなるだろう。


「目標座標は――宇宙の中心!」


 計器に000と入力する。

 警告灯が点滅し、エンジンが崩壊寸前であることを示していた。


「っ――ワープ実行!」
































☆☆☆


 眩い光に包まれている。

 体中が心地よく、とてもリラックスした状態だ。



「ここが、噂のあの世か……」


 それにしては体の感覚がリアルだ。

 焦げ臭いにおいも――


「ん?」


 エミリアは上体起こして見回す。

 空は暗く閉ざされている。

 だが大地は宝石のように輝いている。


「……起きたか」


 声の方を向く。

 背中を向けて、ネリーが座っていた。


「なんだ、やっぱあの世か」

「んなわけあるか。ここは現実だよ。限りなくあの世に近いけどな」


 見れば、船は大破して散らばっている。


「まさか、ゲートにワープ航法で突っ込んでくる馬鹿がいるとは思ってなかったけどな」

「ふん! 馬鹿で悪うございましたね!」


 ネリーは笑って立ち上がる。


「で、どうするつもりだ?」

「そうはいっても……盗もうと思っていたネロくんは、お前の中にいるしなぁ」

「いない……あたしはネロじゃない――いや、まちがっちゃいないけど」


 彼女は困ったように頭を掻きむしっている。


「今のあたしはネリーだよ。前と逆だ、ネロの記憶を引き継いでるんだ」


 彼女の腕の一部が消えかかっている。


「あいつは終わることに肯定的だ。でも否定的な感情もある。その部分をひきはがして今のあたしがいる。でもほとんどは取り戻せていない」

「時間制限付きの復活ってことか。残りは?」

「分からない……だが、奴の気分次第だ。消えるときには消える」


 エミリアはそれを聞くや否や船の残骸を漁る。

 カバーを取り去ると、生活空間だった部分が現れる。


「んじゃまー、お前が消えるまえにサクッとネロ君盗んじゃいますか♪」


 残っていたエドとマフラーを放った。


「それが無きゃ殺し屋ネリー、ボクの相棒って感じがしないよな」

「ふん! 一刀流は、得意じゃないんだけどな」


 もう一振り――ヨミは破壊されてしまっている。

 彼女は諦めて、それを背負い、マフラーを巻いた。


「それじゃ――行こう」

「……なんか、忘れてないか?」

「ん? ……あ」


 まずはサラを探さねばならないようだ。






















☆☆☆


 そのサラはよだれを垂らしながら眠っていた。


「起きろ」

「うぇっぷ」


 頬をはたかれて目を覚ます。

 ボケっとした眼でエミリアとネリーを見つめる。


「……あれ、ここは?」

「宇宙の中心さ。何とかたどり着けたんだ」

「ここ、が……?」

「詳しい話は、宇宙が滅びなかったらにしてくれ」

「あ、あなたは……?」

「それも後だ」


 ネリーの姿を見て、サラは至極当然な反応をしたが時間の関係で説明はされなかった。


「サラちゃん、船の残骸から使えそうなものを探すんだ」

「え、はいっ!」


 船はあらかた大破してしまっている。

 だがそれでも無事なものも多い。


「ゲートを通るときに、すべての物質は再構成される……セルニウムを除いて、な」


 計器類を見るが、うんともすんとも言わない。端末も、電源すら入らない。


「あたしたちは全員――人も物も設計図を持ってる。だが宝石や、セルニウムは違う。ないものは作り直せないだろ?」

「ってことは――ボクのコレクションは……?」


 エミリアは青ざめた顔で残骸の中を探す。

 かつてコレクションルームだったであろう部屋は残っていたが、中身は一つ残らずなかった。

 唯一あったのは“飛び上がる猫”――シャルリア・グレイとの取引で盗んでいたお宝だけだった。


「ま、無いだろうな」

「最、悪だ……世界なんて、滅びちまえばいいんだ」

「何言ってんだよ」


 かつて苦労して盗んだ宝の数々が、今はもうない。

 泣きそうだった。


「――ありましたッ! 使えそうなもの!」


 サラに呼ばれ、二人は瓦礫を乗り越えていく。


「これなら――まだ動かせますよね?」

「うん、多分動くだろ」


 それはもう一つの――意味もないコレクションの一つだった。


「だが、通じるか?」

「やってみなきゃわからないだろ――」


 準備は整った。

 後、すべきことは1つだけ。


「んじゃ、最後の予告状でも書こうかね」

「……縁起でもない事を言うなよ」

「ん、これがボクの――怪盗としての最後の大仕事だよ」


 エミリアは、どこかを指して言った。































「宇宙の管理者をの乗る傲慢な人――今からボクの大切な人を盗ませてもらうぜ!」

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