STEP73 運命との闘い
☆☆☆
惑星、???
衛星数、?
生存域 不明
居住域 不明
No data.
――――エミリア特製の惑星データファイルより抜粋
「え、エミリアさん」
「騒ぐな。宇宙の中心なんだからな」
計器には警告が表示されていた。
ブラックホールが近くに存在することを。
「これの、間を縫っていけば進めるって寸法さ」
「だ、大丈夫ですか……?」
「何とかする」
エミリアは操縦桿を握る。マニュアル運転だ。
「――捕まってな!」
☆☆☆
ネロは、自分の後ろに誰かがいることに気付く。
振り返ってみるも、何も見えない。
だが確かに人の気配を感じる。
――何やってんだ、お前
聞き覚えはあるが、聞いたことのない声が聞こえた。
――誰だ
ネロは声の主に問いかける。
――お前だよ
そんなことを言える人物はこの世界で一人しかいない。
――初めまして、だな。ネリー
――けっ気持ち悪いな
悪態をつかれて苦笑――できているわけではないが、そんな感情だ。
――妙な気分だ……自分と話してるってのは
――あたしだってそうだ。死んだのに、死んでないんだからな
背中に重みを感じる。甘酸っぱい、いいにおいがする。
――死んで、どんな来世があるかと思ったら、お前でがっかりだよ
――なん、だって?
乾いた笑い声が聞こえた。
――いっつも、自分の生まれた理由を考えて、そのくせ考えたくないから何も考えないようにしてるくせに結局考えて、悩んでる
――お前こそ、冷酷になりきれない、甘ちゃんじゃないか。切り捨てようとしても、それができない、口先ばっかのお節介さんだ
――あたしに何言ったって、それはお前にも言えることだ
――そのセリフ、そっくりそのままお返しするよ
二人同時に笑った。息がぴったりと合っていた。
――結局、あたしはお前
――俺はあんた、って事だよ
――だったら、この燻りはどうすりゃいい? あたしは、こんなもどかしい気持ちを抱えていたくはない
――仕方ないだろ。それが俺の運命なんだ……逆らえない
――あたしもそう思ってた。でも、運命なんて所詮は結果論だ。理不尽をこじつけるための正当化だよ
――すべてはシヴィラの書が決めることだ
――違う
――そうだろ。俺はこうして体を乗っ取られた
――違う! 乗っ取られるはずだったのはあたしだ! 運命は確実に狂ってきてるんだ!
強い熱を感じる。
二つが混じりあって、一つになっていくような感覚だ。
――お前なら、あたしたちならできるっ! お前は、運命の子じゃないッ!
見えないはずのものが見えた。
神々しい装備を纏った、自分の姿だ。
――運命を変えるために、エミリアが生んだ特異点だッ!
「――っぅ!?」
肺が一気に縮こまった。急に気道に入り込んできた大気にむせかえる。
「えほっ! こ、こは?」
眩い光だ。
地面は煌々と輝き、空は一切の光を閉ざしていた。
『なぜ抗う。運命の子よ』
自分と――ネロと瓜二つの何かが語り掛ける。
「抗っちゃいけないのかよ。誰だか知らないが、そこの高飛車野郎」
『全ては我の導く通り。貴様らが抵抗したところで無意味だ』
ネロは大地を踏みしめた。
薄紫色の髪が目にかかる。かぼそく華奢な、少女の肉体だ。腰の辺りが疼く。
そっと触れると、弾痕があるのが分かる。
「……知らないようだから、教えてやる」
『?』
「人間てのは――諦めなかったから今も生き残ってんだよッ!」
一歩、大きく踏み込んだ。
ネリーは剣術や棒術、得物を使った戦闘に秀でている。
ネロは、徒手格闘――素手での戦闘を得意とする。
余裕綽々な自分の顔面に拳を叩きこんだ。
衝撃がすべて炎の衣に吸収される。
『初手は右のストレート。お前のくせだ』
「知ってるよ!」
王杓に手を掛ける。
空間に固定されているように動かない。
「!?」
『愚かな――貴様は世界の管理者となる権利を、放棄したのだ』
正面からハンマーで殴られたように感じた。
意識がまばらになり、光の中を滑空していく。
『貴様に与えていた権能は全て剥奪しよう』
「な……にっ?」
ネロも念動力を発動させようとしたが、失敗する。
周りの力の流れが分からない。
『さらばだ……愚者よ』
光に飲まれ、ネロは意識を失った。




