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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
69/80

STEP66 ボクは誰?

少し短い


☆☆☆


 剣筋がぶれた。サーベルを叩き折ってやるつもりで打ち込んだのに目標点がずれてしまっている。

 そんなミスを許してくれるほど“エミリア”は甘くない。

 手を返され、天井にエドが突き刺さる。そこが水道管だったのか、水が勢いよく噴き出す。

 ネロの化粧が崩れ、素顔をあらわにしていく。


「懐かしいな……あたしたちが出会ったのも、こんな大雨の日だったな」

「っざけんなよ! ボクの思い出を土足で踏み荒らしやがって!」


 怒りの一撃をヨミで受け止める。単純な力比べでは、勝てる見込みもない。少しずつ、ずり下がっていく。


「ふざけてんのは、お前だろ……!」


 柄を両手で握り締める。


「本当はもう正気に戻ってるんじゃないのか!? 最初から、操られていたふりだったんだろ!?」


 もし洗脳されていたのなら、船に侵入してきた段階で殺されていたはずだ。皆殺しにして、船ごと奪った方が何かと都合がいい。

 少なくとも、こうしてネロが攻めてくるリスクを帳消しにできはずだ。


「いい加減、戻って来いよ! エミリアッ!」

 

 手ごたえが無くなった。手放されたサーベルが宙を舞う。

 判断が遅れる。懐ががら空きだ。


「ああ、そうだよ……」


 ネロの胸倉を掴み、エミリアは短刀を首筋に突き付ける。


「ボクは操られちゃいない……元から、お前の思っているエミリアなんて、いないんだよ」

「……?」

「全部、お兄様に作られた。人格、性格、感情、そういった私を構成する全て、与えられたものだ」


 首の薄皮が切れ、うっすらと血が流れ出る。


「だから、お兄様が望むなら、お前も殺す……」

「……あの時も、嘘だったのか?」


 大量の雫がネロの顔を洗い落としていく。


「あの日――俺に言った、あんたの夢も、嘘だったのか!?」

「あ……っそう、だ」

「あの日――あたしが見た、お前の笑顔も、嘘だったのかよッ!?」


 エミリアの手が震えている。


「やめろ……」

「いいぜ。やれよ」


 ネロはヨミを手放し、抵抗しない事を示す。


「一度は死んだ身だ……お前に殺されるなら、本望だ」

「やめろ……その顔で、言うな!」

「全部嘘だったんだろ? なのに――どうしてやれないんだ?」


 短刀が落ちた。

 エミリアは苦しそうに胸を押さえる。


「できるかよ……っ!」


 泣いていた。彼女は声を殺して泣いていた。


「だって、嘘じゃないから……あの日、キラキラが欲しいと思った、この気持ちだけは――ボクだけのものだから……!」

「ならどうして」


 落ちた短刀を再び手にしたエミリアは、それを再びネロに向ける。


「ここで止めたら、またボクは戻ってしまう! 目的もなく、ただ生きることしかできなかった、昔のボクに!」


 ネロは力を発動し、ヨミを引き寄せる。


「あたしだって戻りたくない。人を殺すことしかできなかった、昔の俺に」


「だから――お前を殺す! お兄様の為に!」

「やれるものなら、やってみろッ!」


 短刀と切り結び、膠着状態になる。

 直後に肩を外した。握力がなくなり、ヨミは地面に落ちる。

 バランスを崩したエミリアの体を突き飛ばし、その首を締めあげる。天井に突き刺さったままのエドを呼び寄せる。


「っててて……肩外すのって思ってたより痛いな」

「……離せ。じゃなきゃ、お前の腹を刺すぞ」

「嘘をつくなら、もっと工夫しな」


 その体に、全く力はこもっていなかった。


「あーあ、お前の演技にゃ負けるよ……本当にネリーが生き返ったかと思ったよ」

「演技じゃない……俺はネリーで、あたしはネロだ」

「はは……冗談はよせよ」


 抵抗の意志が無くなったエミリアを解放する。


「お前が狙ったのは、神様の力を与えてくれるお宝だぜ? 何が起こったって不思議じゃないだろ」

「はぁ……ほんとにネリーと話してるみたいだ……」


 エミリアは顔に張り付いた髪の毛をかき上げた。びしょ濡れだが、涙の跡はまだ残っている。


「ボクは、なんなんだろうな……夢の為に体を改造されて、この気持ちもすべて偽られて、結局――ボクは何のために生まれてきたんだろうな」

「知るか、そんなこと」


 かつて、応えてもらったように返した。


「あんたが何者かって? 殺し屋ネリーの相棒で、怪盗ネロの育ての親だ。それ以上の意味は自分で見つけな」

「けっ! 大人になりやがって――じゃ、見つけるとしますか! ボクが何者か、何がしたかったのか」


 彼女は、漆黒の剣――ヨミを拾うとネロに差し出す。


「ネロくん、お仕事だぞ♪」

「ああ!」





――――議長演説まで、あと15分
































☆☆☆


 静かに瞼を開く。

 優しい光が、眩しかった。

 彼女は呼吸器を外し、体を起こす。


【お目覚めですか、母君】


 そばには誰もいない。

 ずっと感じていた、人の気配が消えている。


「……案内してほしい、我が子の元へ」


 傍らの包帯とメスを手に取った。

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