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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
65/80

STEP62 さっきのてがみのごようじなあに?

ラストスパート!

いや、まだまだ続くけど

☆☆☆


――――20年くらい前


 シャトルの中が、まばゆい光で満たされている。

 何の明かりもついていない、窓も開いていない。それでいて光が満ちている。


「ははっ! あれが――センターオブユニバース……これは、想像以上だな」


 エミリアは夢があと少しで叶いそうで興奮していた。

 彼女の求めていたキラキラが目の前だった。


「あの時の石が、まさかこうなるとはな……」


 ネリーの掌の上で、小石が共鳴するように輝いている。


「さーどうやって盗ろうか……まぶしすぎて本体が見えないし――!?」


 機体のきしむ音がした。

 計器盤がエラーを告げている。機内の空気が漏れ、温度管理もできていなくなってきている。


「まさか……」

「やーっぱ、無理だったみたいだな」


 予想できていたのか、エミリアは諦めたように笑う。

 気圧の低下で意識も少しずつ朦朧としてくる。重力操作も切れ、次第に無重力になってくる。


「逃げるしかないか……」

「つっても、どうやって?」

「脱出ポットを発射する。逆方向に飛ばせば、助かるだろ」


 失敗することも想定していたのか、彼女は手際よく脱出の準備をしている。だが、ネリーは二人では助かれないことを直感していた。

 勿論、脱出ポッドは二人乗りだ。計算上は二人とも脱出できる。速度は遅くなってしまうが。

 その遅れは、致命的だ。石がそう告げてくる。生半可な力を引き寄せんとする力を感じ取れる。


「ほら、お前も乗れよ、ネリー」


 助かりたい。死にたくない。


「……ネリー?」


 体が自然と動いていた。石をいつもの巾着に入れ、ポッド内に放り込む。

 そのまま、決心の鈍らないうちに、ドアを閉めてしまう。


『おい! 何バカなことしてんだ!?』

「……二人じゃ、無理なんだ…………最大出力で発射するためには、外からの操作が必要だ」

『できる! 中からでも――』


 少しずつ機体が吸い寄せられていく。ブラックホールに捕らわれてしまったかのように。


「…………あとは、任せた――お前の夢、絶対に叶えろよ!」


 発射レバーを引いた。

 通信の途切れる音が聞こえた。

 窓から、脱出ポットがふらつきながら、危なげなく離れていく。

 直感の通り、最大でも速度が危うかった。


「はは――――っぐ!」


 体から空気が抜けていく。

 全身が痺れ、意識が混濁してくる。


「なに……やってんだ、あたしは」


 苦しい。体中が凍えるように寒い。頭は焼けるように痛む。

 死が着実と迫っているのが分かる。


「ぁ……っ」


 歌って気を紛らわせたいが、声が出ない。ネリーは辛さを誤魔化すように笑った。

 次の人生は、かわいらしい女の子に生まれたい、と恐怖を紛らわすことを考えて。

 それでも、耐えきれずに、涙を流す。

 死にたくない。

 まだ、死にたくない。

 生きる意味を見つけられないまま――見つかりそうだった時に、死にたくない――





















『まだ――運命の時ではない』




















 消えゆく意識の中、最後にそんな声が聞こえた。































☆☆☆


「……もう、死んでいるようですね」


 傷だらけのセイレーンの体を見てデビーは言った。呼気を確認し、脈がないことを調べている。


「いや、生きてなんかいなかったんだ」

「え?」


 ネロは彼女のマフラーを取る。その首には悪趣味な首輪が付いていた。

 連盟政府の紋章が刻まれている。位置情報を持ち主に知らせるものだろう。それを破壊し、自由にしてやる。


「死んだ体が、秘宝の力で生かされていたんだ。センターオブユニバースの力で、な」


 全てがわかる。秘宝の役割も、対となって制御するものの存在も、何もかも。


「くそっ……なんで()()()がやらなきゃいけないんだ……ふざけんなよ」

「……あたし?」

「いや、なんでもない……」


 記憶の整理ができてきている。

 ネロとして生きてきた約20年とネリーの人生43年分、膨大な情報が一人の人生として統合される。

 同時に、抜け殻として活動していたセイレーンの記憶も、同時に。


「ちゃんと、弔ってやらないとな……自分の体だし」


 彼女のマフラーを巻き、地面に転がるヨミとエドをを背負う。

 ここからが、ネロとしての本当のスタートだ。

 ようやく自分が何者か分かった。

 何のために生まれたのか、その理由が。


「ったく、お前がそんなじゃ、おとなしく死んでられないな」


 最後にもう一度、自分の体だったものを強く抱きしめた。



























☆☆☆


 控えめに言っても、ひどい牢獄だ。

 サラはそう感じた。

 手足は自由に動かせる。強化ガラスの二重窓からは、わずかながら外の様子をうかがうことができる。

 唯一の出入り口であるドアは固く閉ざされて、他の独房がどうなっているのか知ることはできない。

 食事は基本的に液体だけだ。栄養のあるスープを飲まされる。定期的に固形物も食べることはできるが、大したものは出てこない。

 娯楽は無い。ただひたすらに退屈な時間を過ごすしかない。

 脱獄を考えてみたが、何の道具も情報もないのに、するのは愚かでしかない。

 運動のため、外を歩くことはできるが目隠しをされ、一本道を何往復かさせるだけなので構造を把握することもできない。

 暴れたり精神の狂ったふりをしても、麻酔ガスを注入されたり食事に睡眠薬を混ぜられるだけで効果は無かった。


「――――っ!」


 むしゃくしゃして壁を蹴りつけた。ただただ足が痛くなっただけだったが、今ではその痛みさえありがたく感じてくる。何でもいいから刺激が欲しい。

 ここの囚人は、皆そう感じ、遂には命を絶ってしまうのかもしれない。

 そんなことするつもりは、もちろんない。必ず、ネロが助けに来てくれる。正気に戻ったら、エミリアだって助けてくれるはずだ。

 そっと、頭に手を触れる。何度確かめても傷一つなかった。


「ネロさん……エミリアさん……早く、助けて…………」

『何を迷っている? 逃げ出せばいいだろう?』

「へ……だれ、ですか……?」

『俺わしぼく私ワテクシオレあたし僕――――』


 問いかけると、複数の人物の声がエコーのように鳴り響く。頭がおかしくなりそうだ。

 この声は、ブラディオニキスの声と同じ。血を求め続けていた声と同じだ。


「う……るさいっ! うるさいですっ!」


 錯乱の兆候とみられたのか、麻酔ガスが注入される。

 意識が途切れた。




















 ――――あたりが騒がしい。

 ――嗅いだことはないが、懐かしさを思わせる匂いがする。

 おいしそうな、料理の匂い――――


「はっ……!」


 目の前には無数の大皿料理、食べたいと願っていたごちそうがあった。


「い、いただきますっ!」


 サラは夢中でそれを頬張った。しばらくぶりのごちそうに我を忘れていた。あまり好きではない肉料理も、得体のしれない昆虫食も、普段なら敬遠して口にしないものもすべてかきこんだ。形のある料理がこんなにもおいしいものだとは思わなかった。

 が、一気に飲み込もうとして詰まらせてしまい、慌てて胸を叩く。


「慌て過ぎよ、はい」


 隣から渡されたコップを受け取り、勢いよく飲み込んだ。


「っはぁ……ありがとうございま――――!?」


 隣の人物に驚いて椅子から落ちそうになった。

 シェオルの遺跡で見た巫女の映像――少し若いがその本人だったのだ。

 我に返って見回すと、パーティ会場のような所で、老若男女、ありとあらゆる人種の人がにぎやかに談笑していた。


「え……ええっ!?」

「所詮はイメージ、もっと静かなところがいいなら――こうよ」


 一瞬で周りの風景が変わった。

 今度はエクセルシアの大臣議会――昔少しだけ出席したの事ある場所に変化した。先程まで談笑していた人々は、今度は厳かに座っていた。


「あなたは……?」

「私はスピカ。オニキスの管理者。そして、シェオルを滅ぼしたのも私よ」


 スピカはサラの前で頭を垂れる。


「サラ――いえ、レン私たち全員、あなたに力を貸すわ」


 その言葉に、皆が力強くうなずいた。







「お願い……オニキスを、悪しきものの手から取り戻して」


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