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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
64/80

STEP61 くろやぎさんから

☆☆☆


【まもなくユグドラシルに到達します】

「ああ……」


 ここからは連盟の警戒網を突破しなくてはならないから時間がかかるだろう。

 ネロは形見を見つめ、考える。


「センターオブユニバースは、神の権能を与える、か」


 言ってしまえば、すべての秘宝の完全上位互換、なのだろうか?

 ブラディオニキスには感情のエネルギーを運用することができた。ラズワルドの持っていたフェニックスライトには、恐らく生命のエネルギーを扱っているはずだ。本人の話を信じるならば、だが。

 そしてそれらを始めとする秘宝を集めなければ手に入らないセンターオブユニバースなら、それらすべての力を備えていてもおかしくはない。


「もし、仮に……こいつにもあらゆる病を治す力があるとしたら」

【興味深い仮説です。マスターの考察通りなら、母君を治癒することも可能かもしれません】

「やってみる価値は――」

【しないことを推奨します。秘宝の持つリスクに対し、成功の見込みは限りなく低いです】

「そう……だよな」


 適合しない人間を殺めてしまうこともある物を、試しもせずに使うのは危険か。

 このまま目が覚めるまで、待ち続けることしかできないようだ。


「――いい知らせと悪い知らせがある」


 セキュリティーの攻略作業を行っていたコードマスターは渋い顔で言った。


「まず、いい方だ。向こうのシステムがダウンしていて目的地までひとっ飛びできるぜ」

「で、悪い方は?」

「特殊部隊にユグドラシルからの撤退命令が出ている。つい2,3日前の話だ。つまり、お目当てのブツは無いかもしれないな」


 守るべき宝を前にして逃げ出す間抜けはいないだろう。となるとアポロンの炎と共に移動していると考えるのが筋だ。


「無いにしても、痕跡くらいはあるはずだ」

「――特殊部隊はへまをしないものです」


 折られた腕を吊っているデビーが言う。乗船した時よりも何歳も老け込んでしまっているように見える。


「何も、残っていないはずです」

「そう……か」

【マスター、どうされますか?】


 秘宝はなくとも、ラズワルドがいるはずだ。


「変更なし、だ」































☆☆☆


 左胸の傷は、やはりある。

 体の調子は普段通りだ。

 しかし、心臓は動いていない。

 初めて自分の体に恐怖心を覚えた。


「――くろやぎさんからおてがみついた……♪」


 なぜこの口は勝手に歌いだす?


「しろやぎ、さんたら、よまずにたべた!」


 なぜこの腕は自然と剣を振れる?


「しーかたっがないので、おーてがみかーいた……♪」


 機械兵の銃弾が背中に命中した。

 痛みは感じたが、体には全く異常がない。

 

「さっきの、てがみの、ごよおじなあに!?」


 この一角の“掃除”は終わった。しかし、この軍団全てを制圧するのは骨が折れそうだ。


「はぁ……」


 セイレーンの心に、感情らしきものが芽生える。

 怖い。

 自分自身が、怖い。

 本当に、自分は人間なのだろうか?

 目の前で火花を散らしている、物言わぬ機械と同じなのではないだろうか……?




















☆☆☆


【――予想上陸ポイント上空に到着しました】


 かつて、軍の施設があったと思われる島。

 配線が飛び出し、骨組みがむき出しになっており、すでに跡形もない。


「それじゃ、俺様はここで失礼するぜ。運が良かったら、また会おうぜ」


 廃棄予定だったシャトルをコードマスターに与えた。彼なりに相乗りの礼はしたつもりなのか、そのまま飛び立っていってしまった。


「あんたは、どうするんだ?」

「ついていきます。やられっぱなしは性に合わないので」


 デビーは仕返しをしたいようで、ネロについていくようだ。


【周辺に電波障害地帯が存在しています。十分お気を付けください】


 連盟軍の特殊部隊には最先端兵器を配備されている。

 中には実験段階の、出鱈目な性能を持つ武器も存在する。


 ――嫌な予感がした。


 ネロは首筋に寒気を感じ、咄嗟に脇へ跳んだ。

 さっきまで背中のあった所を銃弾が通過する。


【ま…zz…zzzすか・・・・・zzz?】


 よりによって障害地帯。サポートを受けられない。

 向かってくるのは、全身に武器が搭載されているアンドロイド。両腕はマシンガン、足にはスパイクとチェーンソー、胸部にはミサイルポッド、頭にもレーザーの砲門が見えている。


「まさか……スローター、ですか。実用化されたとは聞いていましたが」

「知ってるのか? あの全身武器ロボット」


 相当厄介な相手なのか、デビーも初めから手袋を外し、放電の用意をしている。


「上陸戦を視野に作られた戦闘アンドロイドです。当初の設計では非人道的であると、幾度となく再設計がなされてきたと言われています」

「特別捜査官の紋章とかで止められないのか?」

「不可能です。連盟政府のネットワークがダウンしているのならば、あれは自衛モードのはずです。見境なく攻撃してくるはずです」


 スローターのミサイルポッドが開き、弾頭が姿を現す。


「何でそんな兵器(もの)作った!?」

「私に質問しないでください!」


 二人は瓦礫の山へ逃げる。無数のミサイルが発射され、次々と遮蔽物を破壊していく。

 ネロはコンクリート片を放り投げ、デビーは放電でミサイルを誤爆させ、何とかやり過ごし、物陰に隠れる。


「ぅっ……今ので充電していた分は無くなりました。ここからは、あなたが何とかしてください」

「発電とかできないのか?」

「出来ます。体細胞が劣化し、寿命が減ってしまいますが」

「……なんとかするよ」


 モーターの駆動音と、砂利を踏みつける音が聞こえる。まだまだ遠くだ。

 しかし、また嫌な予感がした。今度は考えるより先に体が動いた。デビーを押し倒し、息をひそめる。


「っ!? な、なにを――」


 次の瞬間、後ろの壁が吹き飛んだ。あのままいたら死んでいたかもしれない。


「透過スキャンもできるみたいですねっ!」

「うぐっ!」


 ネロは股間を蹴りあげられ、悶絶する。助けたというのにひどい仕打ちだ。


「助けるなら別の方法にしなさい」

「わ、分かった……」


 続いて飛んできたミサイルをデビーが迎撃する。自家発電の影響か、彼女の鼻から一筋の血が垂れる。


「隠れることができない以上、戦うしかなさそうですね」

「ならっ……人の股間を蹴るなよ!」


 下の一物を蹴られれば5分くらいは痛みで動けない。女性にはわからない痛みだが。

 ふと、顔をあげると大きめの砲身が目に入る。

 それを引きずり出すと、それが小型化されたレールガンであることが分かる。


「レールガン……なんで?」


 エミリアから、レールガンは小型化に失敗し、お蔵入りになったと聞いていた。しかし、それがなぜ?


「それは新開発された連射型です。バッテリーが改善されて、3発までなら電源供給無しで使えるそうです」

「……ないより、マシか!」


 ネロはスローターに向けて銃弾を発射する。

 全弾命中するも、ダメージはあまり与えられていないようだ。


「連射型なので威力も落ちているそうです」

「そういうことは先に言えよ!」


 底から焼け焦げたバッテリーが落ちる。いくら改良されたところで、電池の破損は免れなかったのだろう。

 だが、威力が落ちているとはいえ、本来は戦艦に搭載される兵器だ。それを受けて壊れないスローターが頑丈なのだろう。

 今度は両腕のマシンガンが向けられる。ミサイルポッドも開き、レーザーの充填もされている。


「なにを呆けていいるのですか。もう一度やりますよ」


 デビーはミサイルの弾頭を撃ち抜き、自爆をさせる。一斉射撃はキャンセルされ、煙を吐いてよろめいている。


「やるって……命の危険があるんじゃなかったのか?」

「そんなこと言ってられないでしょう!?」


 彼女は左手をバッテリー部分に突っ込み、力を込める。バチバチと音が鳴り、充電が開始されたことが計器に表示される。ネロは弾を装填し、照準をスローターに向ける。


 レールガンは、本来戦艦に配備される強力な兵器だ。

 完全な威力ならば、敵艦を一撃で鎮める必殺の一撃。半分の威力でも小型艦を牽制できる。

 火薬ではなく電気を必要とするところが、小型化の一番のネックであった。一度に高負荷の電流を流すために、限られたバッテリーしか使用できない。故に威力は劣ってしまう。


 しかし、充電状態ならば、話は別だ。

 小型でも、本来の威力を発揮できる。


「――いくぞッ!」


 引き金を引いた。

 弾丸のプラズマ化やら摩擦熱やらで光と熱が過剰発生する。

 十分踏ん張ったが、反動で体が押される。


 そもそも論として、レールガンを小型化することの方がおかしい。かつての地球の兵器で言うなら、大陸間弾道ミサイルを小型化しようと言っているレベルなのだから。


「もう、二度とごめんだからな……ってて」


 スローターの頭部が転がってくる。

 赤いモノアイが点滅し、消える。内部の弾薬が誘爆されたせいか、他のパーツは跡形もなく吹き飛んでいた。


「っぐ……それは、こっちのセリフです」


 彼女の左手は、老婆のように皺だらけで、顔も数歳老けてしまっている。

 やはり、相当無理をしてしまっていたようだ。


「無理なら帰った方がいい。途中で死なれたら困るんだが……」

「いやです。それに――私は大切な人を取り戻しに行くだけですから」

「俺の知らない間に何をした……?」

「いえ……特別な行為をした覚えはありませんが……彼の為なら、何でもできる気がします。それに胸もなぜか高まっていくのです……病気でしょうか?」

「さあな……」


 二人とも恋心に詳しくなかった。


 ――ガシャン……!


 物音がした。

 爆発音を探知した別個体がやってきているのだろう。

 ネロは足下に転がっているチェーンソーの残骸らしきものを拾い、構える。

 砂埃の向こうから赤い光が見える。が、すぐにそれが崩れ落ちる。


「――しーかたが、ないので、おーてがみかーいた♪ ……さっきのてがみのごようじなあに?」


 セイレーンの歌だ。そして、ネリーの歌でもある。

 透き通るような声は、愁いを帯び、震えている。


「くろ、やぎ、さん、から……おてがみ、ついた……♪」


 歌が途切れた。

 倒れる音がする。不思議に思ったネロは、用心しながら近づいた。

 彼女の体は傷だらけで、生きていることが奇跡のように思えた。


「おい……」


 彼女の肩に触れた。そのとき、かつてないほどの膨大な力を感じ取った。

 何もかもを飲み込み、奪い去ってしまうかのような、力の流れ。

 頭に色々な情報が流れ込んでくる。

 

「ま、さか……?」


 それは、あってはならない事だった。

 人は死んだらそこまで、生命が誕生した時から続く常識だ。


 秘宝にはそれぞれ役割があった。

 ブラディオニキスは、生物の血――遺伝子情報を蓄え、その奥に眠る感情のエネルギーを司っている。

 フェニックスライトは、生命の動力源――ある種の生命エネルギーを司る。

 そしてありとあらゆる運命を記す書物――シヴィラの書。それに記されていない、ネロの運命。

 理由は、単純明快だった。


「俺は――」


 存在していないから。

 女性と間違えられるほどの容姿で、心優しく、どこか天然な少年。そんな人間はいない。

 ネロと名付けられたその少年は、いないのだ。


「俺は……お前だったのか…………?」


 センターオブユニバースは、世界のすべて。森羅万象、ありとあらゆるものを司る――生と死、輪廻転生、そのすべてを。


 ネロは、自分の運命を知った。

 自分は何者で、何をなすべきなのか。






















「俺は……ネリー……だったのか?」

  



【どーでもいい設定集~スローター編~】

 

 虐殺を意味するslaughterから名付けられた最先端兵器。子供が考えたかのような全身が武器で出来ている人型アンドロイド。搭載されたAIが戦況を一瞬で判断し、適切な武器で敵を始末する。初期案では核弾頭を備え、一定以上損傷したら自動的に核爆発による自爆を行う設計だった上に、周囲の生命反応が消失するまで戦闘を続けるようプログラムされていた。


 ちなみに、Googleで“マグナギガ”と検索するとイメージの助けになるゾ。


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