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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
63/80

STEP60 不思議な夢

☆☆☆


――――???年前


 ネリーは標的を始末し、剣を収納する。

 これで今日の仕事は終わり。

 あれ以来、言われるがままに殺しをしてきた。誰であろうと、何も考えずに。

 一切の抵抗は無かった。そういうものだと、割り切っていたから。


 帰り道、人のあまり通っていない道を選んで歩いた。見られることをためらうわけではないが、誰とも会いたくないときもある。


 ――おお、きな、のっぽの、ふるどけい♪


 特に、一人で歌っているのを聞かれたら、恥ずかしい。歌っているときは一人がいい。


 ――おじい、さんの、とけい……♪


 眩い光を感じた。見れば、暴走車がこちらへ突っ込もうとしていた。よけようと身構えたが進路を変えたので立ち止まってやり過ごすことにした。

 が、ふと目に入った。小さな男の子が、暴走車に気付かず道路を渡ってるのが。身なりから、ストリートチルドレンなのだろう。“戦利品”を抱えて必死に走っていた。


 ――ひゃくねん、いつも、うごい、ていた♪


 気が付けば体が動いていた。男の子までの距離と、突っ込まれるまでの距離。そんなことは思考から抜け落ちている。反射的に手を伸ばしていた。


「――――ッッ!」


 まさに紙一重、すれすれで助け出す。

 彼はそのまま逃げていく。命を張ったにしては、感謝もされず、無駄骨だった。


 ――ごじま、んの、とーけいさ……♪


 寝転んだまま続きを歌う。

 反射の力にはいつも助けられているが、こうなると邪魔でしかない。


「うた、じょーずだね」

「ん?」


 さっきの男の子だ。


「これ、あげる」


 といって小さな石ころを落としてくる。

 磨けばきれいに輝きそうな宝石だ。


「どーして、うたってるの?」

「……歌ってるとな、辛い気持ちを忘れられるんだ」

「ふーん……」


 男の子は薄暗い路地へと消えていく。


 彼女はそれを拾って眺めた。くすんでいるが、きれいだった。


「……人助けも、悪くないな」


 






















☆☆☆


 頭の痛みで目を覚ます。

 また、あの夢だった。ネリーという少女の夢。

 それに、あの石。エミリアの死んだ相棒が持っていたはずのものだ。つまり、ネリーはエミリアの元相棒で、すでにこの世にはいない。


「M.I.C.……エミリアの元相棒の情報をよこせ……」

【マスター、お体の方は……】

「いいから早く!」


 もうブラディオニキスは奪われているはずだ。ならば、急いだって無駄だ。追いつけやしない。


【残念ながら、プロテクトが掛けられ、情報を閲覧できません】

「誰がそんなことを」

【エミリア氏以外には存在しないかと】

「――そのプロテクト、解除してやろーか?」


 物陰からひょっこりとコードマスターが現れる。


「いや、危なかったぜ……あの姉ちゃん、俺様の命を狙ってるかもしれないからな。運が良かったぜ」

「見てたなら、止めてくれたっていいだろ」

「オイオイ! 負ける勝負吹っ掛けるバカがどこにいる!? 勝てないときは逃げるのも、必勝のコツだぜ」


 と、いいつつ彼は端末を利用しプロテクトの解除にとりかかる。


「俺様は人生で3回負けたことがある。連盟政府のコンピューター、お前の仲間、そして――俺様自身の運だ」

「ご自慢の運じゃないのか?」

「……お前も、死んだ方がましって思えることに、出会えるかもな――ほら、できたぜ」

【ご協力感謝します。エミリア氏の元相棒の情報を開示します】


 名前は――ネリー。夢で見たとおりだ。出身惑星はスラ――シヴァと同じ惑星だ。詳しい年齢は不明だが、30~40(地球人換算15~20)であると推定される。容姿は――薄紫色の肩にかかるぐらいのセミロングの髪、死んだ魚のようなけだるそうな瞳。口元は髪色と同じ色のマフラーで隠されている。

 そう、歌う殺し屋、セイレーンと瓜二つの見た目なのだ。


【亡くなったのは――ちょうど20年前、マスターが誕生されたのと同時期です】

「原因は……?」

【エミリア氏の記録によると、“センターオブユニバース”なる秘宝を得ようとした際、命を落としたのだとか】

「なぜ、そんなことを? 秘宝を全てそろえなきゃ」

【彼女の遺品――マスターが預かっている品が、きっかけだそうです】


 あの、くすんだ石が何だというのか。あれは、子供が拾ってきたきれいな小石ではないのか?


【曰く、センターオブユニバースは幾度となく削られ、欠片が有力者の手に渡ってきていたそうです。しかし、原石から離れたそれはもはやただの石ころ――のはずだった。彼女の持っていたものを除いて】

「つまり――あれは」



【全ての秘宝を制御し、原石へと導く鍵――まさしくセンターオブユニバースの欠片。と彼女は記録しております】




 ネロは体に湧き上がる不思議な力のことを思い出した。

 思えば、あの石に触れてから使えるようになったのだ。つまり、秘宝の力。


「全ての秘宝を集めるのが正規ルートなら、欠片を使っていくのは裏ルート、抜け道か……あの人らしいやり方だな」


 だがその裏道は決して簡単な道ではなく、険しい道だった。相棒の命を犠牲にしないと生還できなかった。


「なんか、すごいこと聞いちまったな……ま、俺様には関係のないことだったが」


 しかし、疑問は残る。

 なぜネリーとセイレーンの人格は違うのか、ということ。

 夢の内容が確かなら、二人は同一人物のはずだ。

 ネリーはお人よし(多分)で男と間違えられやすい。

 セイレーンは運命論者で、自分の生き死ににすら無頓着。

 全くの別人だ。


「もし、ネリーが死んでいなくて、記憶をなくしているだけだったら……?」

「記憶喪失ってやつか。俺様も見たことあるぜ、驚くくらい人が変わるんだ――別人だって思うくらいにな」


 コードマスターの発言でより現実味が増した。

 セイレーンは記憶を失ったネリー。それが一番あり得る。

 操られているであろうエミリアを助けるためには、死んだ相棒が生きていたというレベルのショックを与えるのが一番手っ取り早い。


「急いでユグドラシルに向かうぞ――アポロンの炎を手に入れる……!」


 もしセイレーンと出会えなくとも、秘宝の力で元に戻れる。感動の再会はその後だっていい。

 現相棒としては複雑な心境だが、悪くないプランだ。


【時に、マスター。なぜ急にエミリア氏の元相棒のことを調べたので?】

「そりゃ、夢を見たから……?」


 なぜ、そのような夢を見たのだろうか?















☆☆☆


「ネットワークを麻痺させたか……無駄なことを」


 議長は突如アクセスできなくなったシステムに舌打ちをする。

 計画はすでに最終段階。連盟政府という隠れ蓑などもはや不要ではあるが……使える手ごまを減らされるのは無性に腹が立つ。

 

「君の行為は全てお見通しだよ……」


 すべての運命を記した書物――シヴィラの書。

 それを閲覧できれば、未来を知るのに等しい。


「君に、成功の秘訣を教えてあげよう……H-58724」


 彼の足下で倒れ伏しているヴィタに向けて言葉を投げかける。彼女は焦点の合わない瞳でどこかを眺めている。


「それは“耐える”事だ。ただひたすらに待ち続けるのだ。なぜなら、時間という概念の前では、強者と言えど無力であるからだ……」

「ぁ……う…………」

「不思議かい? どんな傷もすぐに治す自分の体が、まったく動かないのが」


 彼女の髪を鷲掴みにし、その赤い目を覗きこむ。


「人は、疲れると動きたくなくなるだろう? 眠いと起き上がるのが億劫になるだろう? 君は、今そうなっていると脳が錯覚しているのだよ……」

「う……ぅ」

「君にも、役に立ってもらおうか……“さあ、私の物になりなさい”」


 願いが叶うまで、あと少しだ。



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