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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
62/80

STEP59 ネリー

ごめんなさい、タイトル詐欺です

☆☆☆


 デビー・ドロシーはどこにでもいる普通の女の子だった。何事もなければごく普通の人生を歩み、間違っても連盟政府の特別捜査官になるはずもなかった。


 ある日、彼女は誘拐された。


 元々、彼女の種族は宇宙を探しても珍しい、体内でエネルギーを生成・保持できるという特性を持っていた。故に、犯罪者からしてみれば喉から手が出るほど欲しい存在であったのだ。


 拉致されて数か月後、突如として犯人は死亡した。

 その辺の事情は関係のない話なので割愛する。経緯はどうであれ彼女は解放され、実行犯だけでなく、黒幕まで逮捕されてしかるべきだった。


 黒幕はアスール社の先代社長、スティーブ・アスール13世の息子だった。

 連盟政府のなかでも強い権限を持っていたため、お咎めなし、という結果となってしまった。


 それ故、彼女は特別捜査官になることで――






「――って何の話をしてるんだよ」

「おや、私のバックグラウンドに興味はないのですか? 男としてどうかと思いますが」

「……気が向いたら口説いてやるよ。早く話してくれ」

「そうですか。では――」








 彼女の種族は成熟がとても速かった。地球人換算での20歳が14をすぎるくらいで迎えてしまう。通常、特別捜査官になるのには厳重な審査が必要とされる。それを待っていれば死ぬ方が早くなってしまう。

 

 そこで行ったのが裏家業だった。

 聞けば、他人の恨みを金を受け取り、晴らす組織があるという。

 まずはそこで己の力を磨くこととした。


 彼らには他人に決して知られることのない暗器を持ち合わせていた。特に、ボスは殺しのエキスパートで、数多くの殺し技を会得しているそうだ。学ばない手はない。











「――ちなみにそれが彼女です」

【生憎ですが、すでに周知の事実です】

「そうですか――」
















 多くの“仕事”をこなすなかである噂を聞いた。もうすでにボスは存在せず、今は別の人物が仕切っている、と。そしてその人物は、ボスの弟子であり、最強の始末屋である、と。バレるリスクを考慮せず、歌いながら対象に近づき、仕事を終える。


 デビーは、姿を現さないボスに出会うためがむしゃらに働き、気が付けば自分がボスと呼ばれるようになっていた。
















「――って結局、お前の自分語りじゃないか」

「ええ、ですから言ったではないですか。聞いたことがある、と」

「本当に聞いただけだったのか……」


 何の進歩もなかったことにネロはため息をついた。

 手がかりは得られずじまい。

 夢の謎は謎のままだった。


『おい、なんか近づいてきたぞ』


 外のモニタリングをしていたコードマスターから報告が入る。


【船の識別コードは連盟政府の物です。撃墜しますか?】

「――乗員を確認しろ。無関係なら素通りさせよう」


 なぜだか、とても嫌な予感がする。

 理由は説明できないが、不吉なことが起こりそうな、そんな気がした。


【完了しました。乗船しているのは一人のみ、女性です。特徴はエミリア氏に酷似していますが……】

「撃墜すべきです。その方が安全です」

「いや、入れろ。本当にエミリアなら、宇宙空間でだってすぐに死にはしない」

【承知しました】


 本物なら、それこそ逃げることはできない。

 少なくとも、いつものエミリアであることを祈るしかない。


「少しの間だけ、預かっててくれ……」


 眠ったままのシヴァに形見を握らせると、ネロはシャトルの発着場へと向かった。
















「――撃ち落とされるんじゃないかって、ひやひやしてたよ」


 降りてきたのは、エミリアとよく似た女性だった。

 血のにじんだワンピースを身にまとい、自身の美貌を引き立てるメークをしている。容姿に無頓着なエミリアには考えられない姿だ。


「なんのようだ……?」

「自分の船に戻って来るくらい、いいだろ」

「あんたが、本物だったら、文句はない」

「やれやれ……いつからそんなに疑り深くなったのかね?」


 彼女が接近してきたので、思わず身構える。


「疑うも何も……サラはどうした?」

「頭を撃った」


 さっきすれ違った、くらいの気軽さで言った。やはり、いつものようではないらしい。


「っ……ふざっけんなよ……!」

「お前も、怪我したくなかったら逆らうなよ、ネロ」


 ネロは力を感じ取ろうとした。勝てる要素があるとすれば、身に着けたばかりの力しかない。


「この場で、動くな」

「……断る、と言ったら?」


 何も感じ取れない。それを悟られぬよう虚勢を張るも、見抜かれていそうだった。


「こうする――」

「!」


 目の前を火花が飛んだ。視界はぐちゃぐちゃになり、何も認識することができなかった。

 あごと額が次第に痛む。同時に二ヶ所殴られたのだろう。


「ぁ……っ」

「ごめんな。ちょっと寝ててくれ」


 辛うじて足音だけは聞こえてくる。このままでは――




















☆☆☆


 心が痛い。内側から引っ掻き回されているようだ。つい泣いてしまいたくなるのを必死でこらえる。すべては兄の為。自分の感情は押し殺さねばならない。


【警告します。それ以上船内に侵入すれば実力を行使します】

「いいよ。やってみな――」


 M.I.C.のセンサーには限度というものがある。それを超える速度で移動を続ければ攻撃は不能だ。

 少なくとも、船の被害を押さえるという観点から見れば。

 一気にコレクションルームにたどり着き、なぜか故障しているドアをこじ開ける。


「やっぱ、きれいだよなぁ……」


 自分で集めた物でありながら、改めて見惚れてしまう。

 あの日見た“キラキラ”には及ばずとも、十分であった。

 だが、本物が欲しい。

 そのためにも、兄の願いを叶える――


 ブラディオニキスの回収容器をセットし、直に触れないように収納する。後は持って帰るだけで任務は完了だ。


「ん――っ!?」


 体中に引きつれるような痛みを感じた。

 感覚がマヒして動かない。


「思い通りにはさせません」


 この声は、デビー・ドロシーのものだ。やはり放電は厄介だ。


「先程のお礼、させていただきますよ」


 首根っこを押さえられ、そこからさらに電流を流される

 痛い、とても痛いが――慣れてきた。

 この電流に体が適応した。


「いったいなぁ……っ!」


 首を押さえる手を握りつぶした。


「あっ……!!」


 この程度の電流、もはや通用しない。見れば、折られた手を押さえながらデビーは蹲っている。その姿は、一気に数歳老けているように見えた。

 この後も妨害されぬよう、ここで始末しておこうか。


「うッ……!」

「抵抗しなければ、長生きできただろうね」


 首をへし折ってやろうと触れた。瞬間だった。


『――見損なったよ』


 死んだネリーの声が聞こえた。脳に電流を喰らいすぎたせいだ。幻聴に違いない、違いないが……。

 胸をぎゅっと締め付けられた。

 目の前に、本当に立っているようにも見える。これは――幻覚?


『――目を覚ませ……また、手遅れになるぞ』


「うるさい……」


『――戻ってこい』


「死んだ奴は黙ってろッ!」


『――チッ……代わりに死んで損した』


 立ちくらみした。頭を振ると、もう幻覚もなければ幻聴もしなかった。

 早く戻らないと、心が壊れてしまいそうだ。

 ケースを拾うと、消えるように退散していった。



















☆☆☆


 混乱よりも強い者はいない。

 四本腕の女性、ヴィタはそれを経験から知っていた。


 故郷では弱肉強食。かつて地球に生息していたという恐竜よりもでかい生物はざらにいる。そして環境は数時間に一回は急変する。前触れもなく火山が噴火し、スコールが降り注ぎ、地割れが起き……と。子供が

思い描く“ぼくがかんがえたさいきょうのわくせい”のようでもあった。

 人間が生き残るためには、知恵を働かせなくてはならなった。

 元来、彼女の祖先は凶悪な殺人者、凶暴性の点で言えば何の問題もない。


「あなたの望み、打ち砕いてあげる!」


 たとえ強大な生物でも、混乱していては本領を発揮できない。

 連盟政府という強者も、混乱していてはその機能のすべてを発揮することなど不可能なのだ。

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