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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第七章 運命の導き
61/80

STEP58 空白の存在

☆☆☆


――――???年前



 ――きら、きら、ひかる……おそらのほしよ♪


 悪臭の立ち込めるゴミ捨て場で、少女は独り歌っていた。

 月は一つもない惑星だったが、星空は綺麗だった。

 

 ――まばたきしては……みんなをみてる♪


 丁寧に、剣にこびりついた血を洗い流す。

 ゴミに埋もれていて判然としないが、かつて人だったものがそこにはあった。

 きれいに二等分され、急所を突かれて息絶えている。それらに目もくれず、彼女は“相棒”の手入れをしていた。


 ――きら、きら、ひかる……おそらのほしよ♪


「……上手な、歌」

「――挑戦なら、今日は受けないぞ」


 夜なのに日傘を差している女性が、どこからともなく現れた。


「……私はシヴァ。あなたは?」

「セイレーン」

「……本当の、名は?」

「知ってて聞いたのか……ネリーだ」


 ネリーは血を拭いていた布切れを放り捨て、切っ先を相手に向けた。


「用件は?」

「……仲間に、なってほしい」


 大きく踏み込んだ勢いで突きを放とうとしたが、その手前で動きを止める。その後で喉元に錐が突き付けられてることに気付く。

 見れば、日傘の身が消え、それが錐となっていることが分かる。


「ハッ! あたしの近くに来て、寝首でもかこうってのか?」


 虚勢をはるも、力量差があるのを感じ取ってしまった。弾道ミサイルと輪ゴム鉄砲くらい実力が違う。次の瞬間に、命が刈り取られていることもありうる。恐怖で腰が抜けそうになるのを必死でこらえていた。


「……私は独りしかいない」

「…………当たり前だろ」

「……だから、仲間が欲しい……私の、目的のため」


 シヴァは錐を下し、くるりと背を向けた。まるで、襲われるのを気にしていないように。

 脚に力を込め、もう一振りの相棒に手をかけ、距離を詰めた。

 ――横からの圧力を感じ取り、咄嗟に受け身を取ってゴミ山に突っ込む。

 みぞおちを踏みつけられ、身動きが取れない。何より苦しくて息ができない。


「ぅっ……神の、手か……最新兵器を、よく手に入れたもんだ」

「…………」


 この状況を逆転させ、逃げる手を考える。

 だが、できないことが想像できてしまう。


「わかった、降参だ……」

「……ありがとう」


 相手との格が違いすぎる。

 今のところは、だが。


「っ忘れんなよ! いつか、あんたの首を取ってやるからな!」

「……威勢のいい男の子、私は嫌いじゃない」

「――あたしは女だッ!」













☆☆☆


――――現在


「んっ……」


 頭をぶつけたことにより、ネロは目を覚ます。どうやら気付かぬうちに寝てしまっていたようだ。

 バイタルサインのモニターには変化がない。

 M.I.C.の手際は名医に匹敵するほどで、意識が戻らない事を除けば元通りだった。


「なぁM.I.C.」

【どうされましたか?】

「“ネリー”って人のことを調べてほしい」

【ヒット数が多すぎます。もう少し詳細な条件を】

「なら“セイレーン”もセット、だ」


 しばらく間が空いた。


【該当はございません】

「ない、のか……?」

【はい】

「なら……母さん、“シヴァ・カムイ”との組み合わせは?」

【それも、ございません】


 なら、あの夢は何だったのだろうか?

 ネリーという少女の夢。まるで自分が彼女そのものになったかのような錯覚もあった。


「じゃあ、“セイレーン”で調べてほしい」

【一件のみ、ヒットしました】

「俺たちを襲ったやつを除いて、だ」

【はい。都市伝説のような噂なのですが、いわく――古代の民謡を口ずさむ始末屋、の名だと】

「――それなら私も聞いたことがあります」


 突如、医務室にデビーが侵入してくる。下着にバスタオル姿の風呂上りスタイルで。


「服を着てくれ……目のやり場に困る」

「……まさか、あなたは男性?」

「皆まで言わせるな」

「そうですか」


 と、言いつつ服を着るつもりは無いようだ。


「それで、さっきの話は本当なのか?」

「ええ……」


『――クルーズ船を襲った犯人は、連盟政府指定犯罪者のエミリア』


「彼女はすでに、議長殿の手にかかっていると考えていいでしょう」

「洗脳、ってことか……?」

「それは知りません。ですが人心掌握は彼の十八番ですから」


 あの、エミリアに限って人に支配されるとも思えない。が、昔言っていた天敵の最後の一人が連盟議会の現議長。それを考えると……。


「最悪、だな……」

【マスター、進路を変更しますか?】

「いや、このままでいい……」


 目指すのは惑星ユグドラシル。エミリアが囚われようと、そこにはラズワルドとアポロンの炎があるはずだ。方やエミリアの師匠、方やありとあらゆる病を治せる秘宝。


「なあ、あんた、まだ連盟の特別捜査官なんだろ?」

「今のところは、ですけど」

「それなら、いい……そういや――聞いたことがあるって言うのは」


 彼女が入ってきたときに言った、聞いたことがあると。情報の少ない“ネリー”なる人物も、知っているかもしれない。


「どれの話ですか?」

「古代の民謡を口ずさむ始末屋、の話だ」

「裏の界隈では有名です。そこのポンコツAIは知らないでしょうが」


 ぶちっ、という音が聞こえた気がした。


「教えてくれてもいいか?」

「……いいでしょう。乗せてくれたお礼です。ですが――」


 デビーは盛大にくしゃみをして言った。


「服を着させてください。湯冷めしました」




















☆☆☆


 背筋が凍えた。そして体が動かない。

 頭を打ちぬかれたはずだ。まだ息を吸うことができている以上、生かされているのか……。

 目をゆっくり開いてみた。光が強く、目に痛みが走る。どうやら椅子に座らされているようだ。

 恐る恐る頭に触れてみる。傷一つなく、手術跡もない。


「目が、覚めたみたいですね。サラ王女」

「議長、さん」


 ずっと前から変わらない姿。艶のある黒髪のオールバック。彫の深い穏やかな表情。不老不死と言われても信じてしまいそうだ。


「そう、固くならないで。あなたに危害を加えるつもりはありませんよ」


 傷を跡形もなく無くしたのは彼のはずだ。

 つまり、理由もなく助けているはずはない。


「1つ、聞きたいことがありまして……なに、ちょっとした雑談ですよ」


 じっと、目を覗きこまれる。その奥に、吸い込まれていきそうだった。

 心の底から、彼に従ってしまいたくなるかのような――


「“ブラディオニキスはどこにある?”」

「それは……」


 言ってはいけない。命を張ってまで守ろうとした情報なのに、口がひとりでに動いてしまう。


「船の、中に――」

「ありがとう。素直で、助かるよ」


 ああ、言ってしまった。

 どうしてだろう、逆らえない。言葉の一つ一つに強制力があるかのようだ。

 このままでは、ネロが危ないッ!
























☆☆☆


「あなたの思い通りにはさせないよ……」


 その瞬間、連盟政府の全ネットワークシステムがダウンした。


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