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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第六章 デンジャラスクルーズ
58/80

STEP55 永遠の苦しみを

びっくりするくらい長くなっちゃった

☆☆☆


 シヴァ・カムイ。年齢は推定76(地球人換算38)の女性。出身惑星はスラ。連盟の記録に登場するのは50年ほど前、とある星域で発生していた紛争地帯に暗殺者として現れた。連盟政府が軍事介入しようとも終わらなかった争いを、彼女はたったの数カ月で終結させた。

 だがその活動は長くは続かなかった。

 僅か2年後、突如として表舞台から姿を消した。

 

「理由は知られているのか?」

【不明です。しかし、あくまで表舞台からということであったようです】


 第二の島に下り立ったネロはそこで化粧品の調達を行っていた。


 ――あくまで不確定な情報ではあるが、一部の界隈では恨みを晴らすことを専門とした殺し屋が存在しているという噂が流行っていた。少数精鋭の集団で、額に関係なく金を払えばそれを実行していた、らしい。


「それを率いていたのが――」

【彼女であった、ということでしょう】


 そして20年ほど前、彼女は完全に消息を絶つのだった。


「俺が生まれたかもしれないくらいってことか……」

【きっかけであったことには間違いないでしょう。マスターを身ごもったのを機に一線を退いた】

「だが、俺を捨てて殺そうとしたのは事実だ」

【不明です。データが不足しています。時に、マスター】


 ネロは会計を終えると船室へ戻る。


【どうして化粧品を大量に購入したのでしょう?】

「……足りないデータの収集だよ」


 彼は長い髪をヘアピンで留め顔を洗う。

 化粧台の前に座ると、化粧品を並べ、メイクアップを行った。


「怪盗らしく、変装の一つをしてみて、な」





















☆☆☆


 シヴァはまた酒場に来ていた。

 酒を頼んだはいいが、結局飲まずに中の氷をただひたすらに回していた。


「隣、よろしいですかな?」

「……ん」


 初老の男性が隣に座ってくる。怪しまれないように酒を一なめしておいた。

 

「ふふ……あんた、いったい何をしたっていうんです?」

「……は?」


 恐怖で身が固まった。この男は、いったい何を知っているというのだろうか?


「べったりと、くっついてますぞ。その両手、手のひらに、怨念や怨霊、恨みの籠った落とせぬ汚れが」

「っ!?」


 言われて手を見ても、何もない。だがうっすらと、何かが付いているように思える。

 彼女は数多くの人を殺してきた。

 善人も悪人も、大人も子供も。

 初めて手についた血を洗い流した時のことを、今でも覚えている。何度こすっても、こすっても、落ちてはくれないものがあった。


「どうして……?」


 気が付けば涙が零れ落ちていた。

 心が苦しい。


「私は殺したくはなかった……父も、母も、妹も、友も、誰も……っ」

「知り合いに手をかけたのですかな?」

「そうしなくてはならなかった! 誰もが――家族も友も、それを望んだ……っ! 私にはその才能があったから!」


 歯を食いしばり、慣れない大声をあげていた。鼓動がしぜんと速まり、涙はとめどなくあふれ出てきていた。


「あの子だって……っ手にかけたくなかった! あいして、あげたいっ……!」

「そうしてやればいい。誰もそれを止めやしませんよ」

「……人に代わって、恨みを晴らす、のに、しないのは……!」


 自分の感情よりも、人の感情を優先する。誰かに乞われれば、殺しも行う。恨みを晴らしてと言われれば、晴らしてあげる。


「誰かのためを、おもってた……! でも、だれかをしあわせにすれば! だれかがふこうになる! 私はっそれが、たえられなかった……っ!」

「……儂の知り合いの話なんですがね」


 グラスの中の氷が崩れる。


「そいつは生まれて間もなく捨てられ、長いこと生まれの親ってのを知らなかった。儂にはそいつの気持ちはわかりませんが、否定だけはされたくなかったみたいでね。誰にも望まれず、生まれてきたわけじゃないって、必死に自分に言い聞かせ、誰かのために生きようとしていた」


 男は去る間際にこう言った。


「もしあんたに子がいるというなら、愛してあげるべきだ。どんな不義理になろうと、子をないがしろにすることの何倍もましというもの」


 シヴァは、グラスに映る自分の顔を見て思った。

 ひどい顔だ、と。

 涙で濡れ、ぐしゃぐしゃになっている。


「……ゆるして、くれるかな…………?」


 結局何も飲むこともなく、涙をぬぐうとその場を後にした。



















☆☆☆


【お見事です。本物の紳士と見まごうほどでした】

「前に見たドラマのセリフをパクっただけだ……」


 分厚いメイクを落とすと、老いた顔がいつものように戻っていく。相手が酔っていなかったらバレていたかもしれない。


「……うまく、行くか?」

【分かりません】


 着替えも済ませ、当てもなく廊下を歩く。

 どうやら殺しに来たのは自分の意志ではなかったようだ。

 だがそう簡単に許せるものでもない。殺そうとしていた事実は、変わらないのだから。


「あ……」


 考えごとをしていたら、うっかり出くわしてしまった。思わず臨戦態勢になってしまったが、彼女は武器である日傘を壁に立てかけ、交戦の意志が無いことを示した。


「なんの、ようだ……?」

「……私は、あなたの母」

「らしいな」

「……っどうして、ほしい?」


 彼女は困ったようにネロを見つめる。


「……私は母に何もしてもらえなかった、だから何をしてあげればいいのかわからない」

「なら、教えてほしいことがある」


 口を開きかけ、閉じてしまう。

 声に出して言うのが怖かった。

 でも、知りたくて仕方がなかった。自分は、結局何者なのか。


「あんたは、どうして俺を捨てたんだ?」

「……あのとき、私は追われていた。だから見捨てるしかなかった」

「見捨てる……?」

「……機械のゆりかごに入れられ、私の前に現れた。その場で、抱き上げ――」

「おい、何の話をしているんだ?」


 ネロには訳が分からなかった。ゆりかごに入れられていた。それはわかる。

 しかし、それを見捨てたというのはどういうことなのだろうか?


「あんたは俺を産んだんだよな……?」

「……う、む?」

「ってなんでそう、不思議そうに首をかしげるんだよ」

「……子は、神から授かるものではないの……?」

「言い方を変えれば、そうかもしれないが……」

「……? 子供は神が天より与えてくれるもの……うむ、とはどういう意味……?」


 本当にこの人は母親なのだろうか?

 いや、ネロも子供の作り方など詳しくは知らないが、少なくともどこからともなく現れるものではないだろう。だが、この女性、子供はどこからともなく現れるものであると信じ込んでいるようだ。


「な、なら……俺の父親、にあたる人は?」

「……え?」


 シヴァはこれまたきょとんとしている。

 もしや、知らない……?

 伝説の暗殺者サマはどうやら、男女の関係に疎いようである。


「なぁM.I.C.……」

【本来子作りとは生殖行為の事を指します。つまり子を持つ者はセッ――】


 ネロは通信を切ってため息をついた。

 この女性は、つまるところ本当の母親ではなかったのだ。

 

「……もしや、子供とは、その……特別な行為をしなければ授かれない?」

「そっ……それは言わせないでくれ……」

「……やはり私に、人並みの幸せは、望めない」

「いいんじゃないのか? 別に、今更誰が本当の親とか、俺は気にはしない」


 どうせ捨てられた身だから、とネロはひとりごちた。


「……あなたが、よければ――」


 そっと、抱きしめられた。

 経験は無かったが、本当に親が居たら、こんな風にして貰えたのかもしれない。


「私を、母親としてくれない……?」

「…………」

「殺そうとした人が言うことでないのはわかっている。でも……ずっとあなたが我が子だと信じていたから……」

「俺は――」


 答えようとしたとき、背筋に強い寒気がした。

 全身を針でつつかれているような殺気を感じた。


「っ危ない……!」


 くるりと入れ替わるようにシヴァが身を庇った。

 ざくり、と鈍い音がした。


「――誰かに頼るのが間違いだったのだ……!」


 聞き覚えのある声だ。威圧的で、見下されているかのような嫌な声。


「貴様の命はここまでだッ!」


 デーク・タイター元将軍。

 顔は青白く、髪は乱れてぼさぼさで、服は破れてボロボロだ。

 手には料理人の使っていそうな大きな包丁が。それは庇ってくれたシヴァの背中に突き刺さっている。

 彼女の口から血があふれ出し、ネロの肩にかかる。


「っ!」


 元将軍は蹴り飛ばされ、よろめいて倒れてしまう。どうやら、相当消耗しているようだ。


「お、おい……!」

「ぁ……っく……」


 彼女は這うようにして自身の日傘に手を伸ばす。それを見たネロは先回りして彼女に手渡しする。

 後ろで元将軍が拳銃を構えるのが目に入る。今度は自分が守ろうとするも、手で制される。


「――――あなたは、まもる……」


 一発、音がした。彼女の体がのけぞるが、踏んばっている。日傘の持ち手が少し回り、身の部分が落ちた。そして鋭い錐のような暗器が姿を現す。

 二発、三発とさらに銃撃が行われる。踏ん張るようにしてそれをこらえる。決して、背後のネロに銃弾が行かぬよう守っているのだ。


「くっ! 邪魔だっ!」

「……っあ、なたに、わから、ない――」


 血にまみれてもなお、倒れない。赤く染まった錐は、床に一筋の線を描き出している。

 引き金が引かれるたびに乾いた音が鳴る。弾切れなのだ。


「はは、は――こをまも、る、ためなら……なんでも――する……っ!」


 彼女の手が、恐怖に震える元将軍の肩に触れる。


「ど、どけっ!」


 どんなに胸を突かれようとも、決して離さなかった。ゆっくりと錐の先端が腹、左胸、鎖骨と登っていく。


「あなたに――永遠の苦しみをッ!!」


 彼女にとって生きることは苦しみである。生きている限りその苦しみは消えない。死の後のみ安らぎが訪れる、そう教えられてきていた。

 だが、決し許せぬ相手には、常にこう告げていた。

 死してなお、苦しみ続けろ、と。


 錐がゆっくりと心臓に向かって進んでいき、元将軍の体は恐怖で固まってしまっている。

 肩を押さえる手を放し、ゆっくり右手にかぶせる。


 シヴァ・カムイの究極の業は殺しの手際にあった。

 苦しませずに、わざと痛みを与える、恐怖を感じさせる。

 ありとあらゆる方法を使用した。

 だが、気配を感じさせずに心臓を一突きする。

 これこそ彼女が持つ、誰もが恐れた究極の業であった。


「ぁ」


 心臓に錐が刺さった。元将軍は、助けを乞う姿のまま、息絶えた。

 その瞬間、シヴァは自分に襲い掛かる痛みに気付いた。今にも意識を手放してしまいそうだ。


「――っおい!」


 ネロは彼女の体を抱き起した。

 夥しい量の血があふれ出ており、素人目に見ても瀕死であることは明らかだった。


「M.I.C.! 今すぐ迎えをよこせ! あと治療の準備っ!」

【サラ氏はよろしいので?】

「早くしろっ……じゃなきゃ…………母さんが死んでしまう……っ!」


 自分を子だと認めてくれた、この女性を母といわずして何と呼べばいい?

 まだ、その答えを言えていないのだ。決して死なせるものか。


【大至急手配します】


 極力、揺らさないようにしながら甲板まで向かう。

 死なせはしない。脳みそさえ無事なら、死なない限り蘇生は可能だ。

 ネロの頬を涙が伝う。

 ようやく出会えた母を、母になってくれる人を、必ず助けるのだ。

 シヴァはどこか穏やかそうな表情で、目を閉じていた。



参考資料~地球人換算年齢~


・エミリア――18歳付近(実年齢 3XX歳)

・ネロ  ――推定15歳(実年齢推定20歳)

・サラ  ――14歳  (実年齢17歳)


 実は若干サバを読んでるだけのエミリアさん。

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