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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第六章 デンジャラスクルーズ
56/80

STEP53 裏カジノ

☆☆☆


「あの……本当にこの格好でないといけないんですか?」

「ええ、もちろん」


 サラが目を覚ますと、なぜかメイド服に着替えさせられていることに気付く。恥ずかしさを感じる前に、なんでこの服があるのかとか、なぜ自分のサイズをくまなく調べたのか……疑問だらけだ。

 しかも首輪付き。


「私の任務は――詳しくは言えませんが、スティーブ・アスール14世と面会する必要があります。そのためにも、彼が最も訪れるという裏カジノに潜入する必要があるのです」

「……それでカジノの近くにいたんですね」


 だが、サラほど悪目立ちはしていなかったようだ。

 目立っていたのなら、真っ先に挑んだからだ。


 昨日のように、にぎやかなカジノにやってくる。昨日の女ギャンブラーはサラを見かけた瞬間、逃げるように消えていった。あんな大負けしても懲りていなかったようだ。


「それでどうやって、裏に入るんですか?」

「こうします――」


 デビーは近くの従業員の襟をつかみ、針を突きさしこう言った。


「社長を呼びなさい。さもなくばこの針に2万ボルトの電流が流れることになります」

「ちょっ――――何やってるんですか!?」

「脅していけば入れるはずです」

「んな末端の末端の末端の人脅したって何の意味もないですって!!」

「そうですね……」


 引き抜いて別の人物を襲おうとしたので後ろから羽交い絞めして止めた。


「止めなさい。感電させますよ」

「そんなことしたって出てくるわけないでしょっ!?」


『――レン・オールナット様ですね?』


 白の仮面をかぶった従業員に話しかけられる。


「はい……」

『昨日の対戦を拝見させていただきました。実に鮮やかで見事でした。ですので、特別エリアにご招待いたします』


 それを聞いて大人しくなったデビーは改めてサラを見つめる。


「顔に似合わず、強いのですね」

「それほどでも……」

『お連れの方もこちらへ――』


 その言葉に針が輝いたが、やはりサラが止めた。

 紅いカーテンの奥、従業員専用室に見える場所が“裏”へ繋がっていた。


『もちろん、この先に進むのはあなたの自由です。特別エリアは完全な違法ギャンブルが繰り広げられています。お連れの方が連盟の特別捜査官であったら、私の首だけでなく社長もタダでは済まないでしょうが』


 その言葉を聞いてサラの背筋が凍った。何の気もなく言ったようではあるが、実に的を射ているのだから。


「私は元から、この奥に用があるので」

「愚問です」

『それは何よりです。どうぞ……』


 扉に暗証番号を入力し、ゆっくりと開かれた。

 眩い光が入り込んでくる。その瞬間、血と硝煙の匂いがした。


『文字通り、命を懸けておりますので』


 一歩踏み込んだ瞬間、銃声がした。

 振り向くと、とあるテーブルでこめかみに銃を突きつけたまま固まっている男性がいた。


「ひっ……」

『あちらは“デッド・オア・アライブ”という、ロシアンルーレットをベースにしたゲームです。やってみますか?』

「やめておきます……」


 ロシアンルーレットということは運の要素が高い。サラがどんなに努力したところで負ける可能性は高い。


「気に入らない……なぜ私たちが覗かれているのですか」


 そう言われ、上を見てみると、ガラス張りの観覧席から身分の高そうな人間がこちらを見下ろしていた。


『いい見世物なのですよ、こちらの賭け事は。それで、何を賭けます?』

「お金以外にも、ですよね?」

『はい。体の一部から身の回りの物、記憶や命も賭けることができます。例えばあちらの男性――』


 示された人物の顔を見た瞬間、慌てて顔を隠した。

 あれはデーク・タイター元将軍だった。どうしてここにいるのかは検討もつかないが。


『ご自身の血液を賭けております。受ける側も同様の物を受け取るのがルールです。血液は400mlで1万に変えることができます』


 彼は負けが込んでいるのか、苛立ったように貧乏ゆすりをしている。


「ぐぬぅぅぅぅっ! なぜ勝てぬのだッ!」

「いや、そりゃ……ぷふっ」


 あれは負けるだろうな、とサラは感じた。元将軍は表情をコロコロ変えており、いい手の時や悪い手の時、微妙な手の時がまるわかりだ。

 相手もそれが分かっているのか、笑いをこらえながら対戦していた。


『もし仮に、相手の所有財産以上の負債が発生した場合、相手はいかなる手段を用いてでも支払っていただきます。身体の一部、命、すべての権利を換金して支払う義務が生じます』

「権利?」

『連盟の法律が保証している全部の権利です』


 話しているうちにまた負けたのか、テーブルの壊された音が聞こえた。


「貴様ッ! イカサマをしているのだろうッ!?」

「いや……そんなことしてないって――」

「黙れッ!」


 なんと喚こうと負けは負けだ。両脇をスタッフに抱えられて連れられて行く。


「ええい! 離せッ! 離せェッ!」


 引きずられながらサラの脇を通ったとき、顔をそむけたが目が合ってしまった。

 嫌な笑みを浮かべた元将軍はこう言った。


「待て! 私をそこの女と戦わせろッ! 必ず金を返してやるッ!」

『勿論、挑戦は断れますが』

「……受けます」


 彼の目論見は、自分をカモにして搾り取る。かつてのように何もできないと踏んでいるのだろう。

 だが、それはいつの話だか、理解できているのだろうか?

 あの日、恐怖におびえ竦み上がっていた、無力なオヒメサマだった自分はもうすでにいないのだ。

 

 ――返り討ちにしてやろう。




















☆☆☆


【調査、完了しました】


 M.I.C.の機械音声が無性に腹立たしかった。

 心の整理がついていないのに、母親を名乗った女の情報を聞くだけの冷静さなどない。


【連盟外の出身であるため信憑性は低いです。彼女は惑星スラの生まれ、かつて連盟中を震撼させた伝説の暗殺者です。存在そのものが戦争の――】

「うるさい……」

【――ですが、ある日を境に前線を退き――】

「黙ってろ……ッ!」

【マスター、事実から目を背けたところでなくなるものでは――】

「いいから黙れッ!」


 ネロは耳から通信機を取り、壁に投げつけた。音も立てずに壁にぶつかり、床に転がった。


「結局俺は、何のために生まれてきたんだよ……っ!」


 生まれて間もなく捨てられ、再び出会ったかと思えば殺しに来た。

 つまるところ、望まれずに生まれた。それが自分。


「っこんなことで、悩んでいる暇はないか……!」


 ネロは胸を押さえつけ、今の虚しさを忘れることにした。

 自分を育ててくれたエミリアを助ける。それが真っ先にやるべきことだ。

 投げ捨てた通信機を再び耳に入れ直した。


































☆☆☆


「――っバカな!」

「どなたと勘違いしているかは知りませんが、これが現実です」


 サラは引いた札と自分の手札を合わせて捨て、勝利を宣言する。

 二人が行っているのは“ババ抜き”

 言わずと知れたゲームである。

 シンプルではあるが、それでいて奥の深い伝統のあるゲームだ。


「ふざけるな! どんなイカサマを使った!? こんなにも負け続けるわけ――」

「ただ、あなたが弱いだけですよ」


 再び両脇から抱えられた元将軍は、呆然としたまま引きずられていった。

 彼女は一息つくと、辺りを見回す。誰もこちらに関心を払っておらず、あるテーブルに最も人だかりができていた。


「――オイオイオイ! もう終わりかよ!? 俺様を満足させてくれる奴はいないのか!? 俺様の――コードマスターの力が欲しい奴はいないのかっ!?」


 仮にも、伝説のハッカーがあそこまで目立ってもいいのだろうか? 

 疑問に思いつつ、サラは人ごみを押しのけていく。


「すいま、せんっ! 私も挑戦したいですっ!」


 前の挑戦者はもうすでに息絶えていた。やはり、このカジノでは平気で命を落としうるのだ。

 覚悟を決めたサラは自称コードマスターに言った。


「もちろん、受けてくださいますよね?」

「当たり前だ!」


 失敗すれば命のない、決死の勧誘が始まった。


そろそろエミリアを出してあげたい。

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