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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第六章 デンジャラスクルーズ
54/80

STEP51 サラの受難

Phantom thievesは健全な小説です。

一応、念の為。

☆☆☆


――――半日前


 サラは困惑していた。

 手錠をかけられ、逃げようとしたら殺す(みたいなこと)を言われ、連行され。

 どんなひどいことをされるのかと思いきや――タオル掛けに繋がれた。

 そして――目の前でデビー・ドロシーは脱衣を始めた。


「きゃっ! ちょ何を」

 

 こんな見た目でもサラは男の娘である。目の前で女性が脱ぎ始めたら慌てるのは当然の反応である。


「体を洗います」

「そ、そうですよねッ! んなもんみりゃ分かりますけど……!」

「シャワーを浴びるなら裸になる。当然のことです。それなのに欲情しているのですか……穢れてますね」

「女の人はみだりに肌を晒しちゃいけないんですっ!」


 真っ赤になりながら顔を覆うが、それでも指の隙間から様子をうかがってしまう。

 上着が落ち、革の手袋が落ち、一枚一枚衣服が脱ぎ捨てられていく。タイトスカートが彼女の足下に落ち、ストッキングで覆われたきれいな脚があらわになる。ブラウスに手にかける前に、プラスティック製の静電気除去パッドに触れている。言っていた通り、見た目以上に帯電しているようだ。

 そして――下着姿が目に入った。

 脱いだらすごい、という言葉を姉から聞いたことがあった。

 女性というのは着衣の状態ではスタイルが判別できない人がいるのだとか。要するに、彼女のお胸は素晴らしく豊かだった。


「…………っ!」

「結局見ているのですね。汚らわしい」

「な、なら外に拘束してくださいよッ!」

「逃げられたら困るので私の認識できる範囲にいなさい」


 理不尽だ。あれを見るなというのは、かなり精神力を消耗することだろう。

 サラは両手で顔を覆ったままうなだれていた。一体、自分が何をしたというのか……いや、悪いことをしたという自覚はあるのだが。

 程なくシャワーの音が聞こえてくる。ふんわりと、湯気に混じった甘酸っぱいにおいが漂ってくる。思わず生唾を飲みこんでしまう。


「……感電死したくなければ心を無にしなさい」


 …………理不尽だ。













 拷問のようなバスタイムが終わり、サラの神経はすり減りに減っていた。死んでもいいから今すぐ逃げたかった。


「さて――これを飲みなさい」


 と、錠剤と水を渡される。


「え……」

「睡眠薬です。あなたの意識を刈り取らねば安心して眠ないので」

「そ、そこまでしなくても――私は逃げませんから……」


 疑われて当然だが、ここまでくるともはや病的である。

 むしろ、とっとと連盟の警察に引き渡してしまえばいいものを。


「早く」

「お断りします!」

「……なら、実力を行使します」


 部屋の電灯が明滅した。

 彼女は、普通の人間よりも何倍もの電気を纏うことができる。いわば、人間スタンガン。その気になれば触れただけでも――。

 サラの首に腕が巻き付き、容赦なく締めあげた。

 脳への血流が制限され、呼吸もままならなくなる。


「最悪、絶命しても……私が捜査の過程で行ったことですので、罪には問われません」

「――――ッッ!!」


 ふっ、と意識が途絶えた。















 腕が動かない。

 足首に何か重い物が付ていて思うように動かせない。

 目をゆっくりと開くと、気絶前といる場所が変わっていないことに気が付く。

 だが――上は拘束衣、下はなぜかおむつに足かせ。大人のイケナイお遊びのようにも思えるが、そんなことはないだろう。

 抵抗する力を奪い、移動する能力を制限し、必要な排泄行為でさえ封じ、羞恥的な格好で動く気力すらもそぐ。この女、恐ろしい。

 当の本人は隣のベットでぐっすりと眠っている。とはいっても、この状態ではささやかな復讐すらできないだろうが。


「――あと10分寝ていなさい。私はもう少し寝たいので」

「そ、そんな無茶な……」


 シーツから手が出てきて指をこすり合わせている。摩擦で静電気を起こそうとしているのだろう。


「分かりましたッ! 10分以上寝させてもらいますッ!」


 サラは固く目を閉じ、数を数えてやり過ごすことにした。











「――誰がずっと寝ろと言いましたか?」

「あぅっ!」


 頬に鋭い痛みが走った。

 寝てしまっていたようだ。それも長い間。


「す、すみません……」

「見た目以上に、カワイイ寝顔なのですね」


 と、見せられた写真にはよだれを垂らして眠るサラの姿が。


「け、消してもらえませんか……?」

「いえ、何かあった時のために取っておきます。もしあなたが逃げ出したら拡散させるので」

「もういっそ一思いに殺してくださいぃ……」


 腕を拘束されているので顔を覆いたくてもできない。

 そんなサラを見たデビーは、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「最初は貴方の行動を制限する目的でしたが……なるほど、いじめ甲斐がありますね」


 どうも、抵抗するサラの姿は“そそる”ようだ。


「私のものになれば、罪は帳消しにしてあげます。多少の自由を許しましょう」

「も、もしそうなったら、いじめますよね……?」

「はい、もちろん」

「じょ、条件付きなら……考えます!」

「……いいでしょう。どんな条件ですか?」


 サラは素早く思考を巡らせた。ただ単純に解放を求めたところで通るはずもない。

 最大限、譲歩させるしかない。


「私が、あなたに貢献したら、解放してください。もちろん、しっかりと働きますから」

「考えておきます……ですが――」


 腹を殴られた。

 また、後ろから抱き着かれて首を絞められる。


「もうちょっと寝といてください♪」

「っ――――」


 ならなぜ起こしたのか……それに腹を殴る必要があったのだろうか?

 疑問に思いながら、気を失った。































☆☆☆


『――まさか、自分の子に会いたいからって理由じゃないよな?――』


 あの言葉が、頭を再びよぎる。

 シヴァは薄めに薄めた酒を煽り、カウンターに突っ伏す。


「おやおや……お前さん、随分荒れとるな」

 

 酒場の親父は、酒瓶で殴られ気絶しているバーテンダーを見てため息をついた。

 

「うるさい……」

「やれやれ、ほら」


 度数の高いラグナロクをそそぎ、それを彼女の方へスライドさせる。飲めば焼けるように体の熱くなる上等な酒だ。


「その感じじゃ、我が子に拒絶されたか。へへっ」


 彼の前に写真と紙幣が放られた。


「うん? おお! どこぞの怪盗さんとあんたの子、それにエクセルシアのオヒメサマじゃねぇか」

「仕事を頼まれた……」

「そりゃぁ……違反行為じゃねぇか。お前さんへの依頼は俺を通してもらわなきゃな」

「ころせ、と……我が子を……」

「ふん、無理だろうな。なぜ、殺しをめっきりしなくなったのか。忘れたわけじゃあるまい」


 アイスピックの先端が、彼の喉元に突き付けられる。

 だが、それを握るシヴァの手は震え、今にも落としてしまいそうになっている。


「弟子を取ったはいいが、そいつのせいで情が移るようになっちまった。それも、深く、な」

「できる……まだ、私は……」

「無理すんな。その震える手が、無理だって言ってるようなもんだぜ」


 図星を突かれ、ピックを取り落とした。彼女は悔し紛れなのか、薄めていないラグナロクを一気飲みしてしまった。頬の赤みが一気に増し、目も潤んでいく。


「なら……どうすれば……」

「好きにすればいい。だが、その仕事、受けようが断ろうがお前さんの評価が変わることはないだろうがね」


 彼女は自分の日傘を杖代わりにして、バーを後にするのだった。














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