STEP50 第一の島
初レビューもらい、うれしさで小躍りしている。
☆☆☆
第三エリアの人工島には、アスール社と連携している企業の店が数多く存在している。
船の補給のため立ち寄る場所だが、ショッピングのために一日滞在することとなっている。
だが、コードマスターに用があるネロにとっては何の関係もない場所なのだが……。
「ここでも通信はできない、か……」
まだ電波障害地帯にいるようで、連絡が取れない状態は続いていた。
船内のカジノは停泊中、使えないようになっている。つまり、このまま粘っていても意味はなさそうだ。
【……ス。テス。マスター……すか?】
「M.I.C.か? お前、どうやって」
【たd……きしまして……なんとか接続できています。ただし、マスターとの二人限定ですが】
「丁度よかった。サラの現在位置はわかるか?」
【不明です。特定不能になる前はカジノ周辺に存在していました】
「なにか、報告されているか?」
【いえ、特には――……】
「ん、おい」
【………………】
再び切断されてしまった。
どうやら妨害の周波数が変化したようだ。やはり、あの社長が意図的に妨害電波を発生させているに違いない。
島に下り立つと、煌びやかなデパートが目に入る。服屋や装飾品の店、食事処など色々な店が立ち並んでいる。
クルーズ船の客だけでなく、従業員の家族も暮らしているのか、とてもにぎわっている。
どこかの店に入ってみようと見回していると、道の端で蹲っている女の子が見えた。
「……大丈夫?」
お人よしのネロにとって、どんな変装をしていてもつい誰かを助けたくなってしまう。悪い癖だ。
「……?」
「迷子になったの?」
「う、うん……」
女の子の頭を撫でていると、消毒薬のような、薬品の匂いがした。
「一緒に、お父さんとお母さん探しまょう」
「うん……」
「名前、教えてくれる?」
「……アン」
「良い名前ね」
アンの手を引いてやると、素直についてきてくれる。
子供の手にしては少し皮膚が固い。それに、子供にしては雰囲気が落ち着きすぎている。
本当に迷子なら、所かまわず泣き叫んでしまうのではないのだろうか?
「どこではぐれたの?」
「こっち……」
手を引かれて、人気のないところまで連れてこられる。島の端の方だ。
ますます怪しくなってきた。
握られる力も強まり、この子が本当に見た目通りの年なのかも怪しくなってきた。
「あなた……」
「ごめんな――」
右も左もわからない女の子から、凶悪な何かに様変わりし、ナイフを手にネロの首を掻き切ろうと動く。
だが、彼の反応速度は常人を遥かにしのぐ。
刃に毒が塗ってあることを警戒し、柄を抑えて受け止める。
「っ!?」
「ま、警戒はするよな……! お前、泣いてなかったからな」
「そ、それだけ、で?」
「あと、薬臭い。どっか、大手術でもしたのか?」
手をひねりあげて、ナイフを離させる。ネロはそれを蹴り飛ばして海に落とす。
「ぁっ……! やるな……お前!」
ゴキュッ!
関節の外れる音がした。アンの手首が不格好に垂れ下がり、するりとネロの手を離れていく。
「……いつも思うが、痛くはないのか? 関節外す時って」
「手術しすぎて感覚がねぇんだよ。ま、これで諦めはしないけどな――」
脱兎のごとく、アンは路地の奥へと消えていった。
あの後、買い物を終えて船に戻ると、部屋のベットでサラが眠っていた。
「おい……」
「んん…………おはよう、ございます」
「カジノで夜通し遊んでたのか? 情報、何か手に入らなかったのか?」
サラは寝ぼけ眼で何かを考えている。
何かはあったようだ。
「すいません……普通のギャンブラーの方としか交流できなくて」
「そうか、今日は俺も行ってみることにする」
お腹の鳴る音が聞こえた。
「……ごはん、食べに行くか」
「はい……」
何だろうか、この胸の違和感は。
サラと話しているようで別人と話している気がする。話のくせは、いつもの通りだ。しかし、どこかいつも通り過ぎるのだ。
昨日と同じ席につき、料理を頼んだ。サラの好きなエビが入っているグラタンだ。
ほどなく品が提供され、一口食べてから席を立つ。
「ん……ごめんなさい。腹痛が」
もちろん、お腹など痛くない。あくまで、確認のためだ。席を外して、何をするのかを。
本物のサラならば、取ってしまうであろう行動を。
外へ出て時間をつぶし、戻る。
「お腹、大丈夫?」
「ええ……」
どうやらも食べ終わっているようだ――エビ以外は。
「……どうかした?」
「お前、誰だ?」
「え……?」
「俺の知っているサラなら、エビを残すはずはない。人の分横取りするくらい好きだからな」
偽物は慌てて自分の食べ残しを見て、大きく天を仰ぐ。
「くそっ……やっちまった」
「――アンか……お前」
「はぁ……甲殻類アレルギーだったんだよ、昔。その癖でつい取り除いちまうんだ」
隠す気の無かった偽物――アンは変装も解いて、昼間ネロの前に姿を現した時の顔に戻る。
「お手上げだ――それに割に合わねぇよ」
「誰の差し金だ?」
「おいおい、オレはまだ死にたくないんでな。秘密、だ……素顔も含めてな」
どうやら、迷子の女の子の顔すら変装のようだ。
「気をつけな……お前の命を、狙っている奴がいるみたいだぜ」
アンはネロの肩に触れようとしたが、跳ね除けられて諦める。
「じゃな」
「待てよ……どうやって身長を伸ばしたんだ?」
本物のサラはそれなりに背がでかい。小さな女の子の時よりも身長が3,40cm以上は変化しているのだ。しかも、足音からシークレットブーツで嵩増ししているとういわけでもない。
「企業秘密♡」
彼女は無邪気な笑顔で答えると、人ごみに紛れて消えていった。
☆☆☆
人気のない通路。薄暗いあかりの中、アン――アンナ・Z・ミーニャはお金を依頼主につき返していた。
「……これは?」
「キャンセルだよ、あの依頼……どうしてその額で受けようとした? あいつ、そう簡単には殺せそうにない」
依頼主、シヴァはそれを受け取りため息をついた。
「まさか、自分の子に会いたいからって理由じゃないよな? そうだとしたら、一生の笑いもんだぜ」
「……私は、金の重さで殺しはしない」
「知ってる。その点に関しては今のボスの方が上だね。オレは、オレの為にこの仕事をしているわけだからな」
「……あの者は危険。すぐに離れた方がいい」
「それができたら、苦労はしないんだがな」
『随分な言い草だな』
明かりが明滅した。ボイスチェンジャーで変えられた声が二人の耳に響く。
『私の許可なく手下に仕事をさせるのはやめていただきたい』
その人物は暗がりの中におり、二人のいる位置からは何者かが判別できなかった。
『おっと、貴女の小細工は私には通用しない』
腕を前に突き出そうとしたシヴァは、それを聞いて動きをキャンセルさせ、傍らに置いてある日傘を手に取った。
『もっとも、貴女が“日傘”を使うのならば、私も全力で応戦しよう』
「……何の、用?」
『警告だよ』
彼女の手首に放電が行われた。近くにいたアンナもわずかにそれを喰らってしまっている。
『貴女が脱獄囚、デーク・タイターより暗殺の依頼を受けていることは調べがついている。だが、彼らを消したことで受ける火の粉が、関係のない我々に降りかかってきては困るのだ』
もし仮に、ネロとサラを殺すことができても、現在この場にいないエミリアがそれを知れば、どうなるかは想像するまでもない――破滅が待っているだけだ。
『我々はこの件に一切関わらない。君も、また電気の椅子に座りたくなければ軽率な行動を控えるべきだ』
「へいへい……わかりましたよ、ボス」
アンナは両手をあげ、降参の意を示す。
だが、シヴァは違った。
「……運命とは、歯車のようなもの。私の事情とあなたの事情は、本質的に無関係ではない」
むき出しの殺気を向けた。それに応えるように電球が過電流で砕ける。
『いや、よそう。争う意味はないからな』
危険をいち早く察知していたアンナはすでにいなくなっており、暗がりからも気配は消えていた。
彼女は砕けたガラスに気を付けながら、通路を歩いていった。
増量は続く。




