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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第六章 デンジャラスクルーズ
52/80

STEP49 大きすぎる輝き

☆☆☆


 ネロは星海のオーブが展示されている部屋に来ていた。

 部屋の中心の台座に乗せられており、下からの光で綺麗に輝いている。

 天井には星空のような文様が映し出され、幻想的な光景を生み出していた。


「――不用心だ、と思いましたかな?」

「っ、ええ……」


 急に声をかけられた。あの禿げ頭の社長だった。

 恐らく、展示品の無事を確認しに来たのだろう。


「これでも最新鋭の警備システムを備えてましてね。私のいないときに動かせば、たちまち――というわけです」

「はぁ」

「申し遅れました。私、アスール社の社長、スティーブ・アスール14世です」

「……社長さんが、どういったご用で?」


 社長は苦笑いしながらオーブを手に取る。どうやら、社長の言う通りの警備システムらしい。


「いやいや、美しい奥方様がこんな時間にいらしていたもので。ついお声を」

「そうでしたか……」

「噂には聞いていましたが、()()()のご結婚もあるのですね」

「!?」


 初めて言い当てられた。宇宙最高の頭脳にすら間違えられたというのに。


「私の故郷は、少し周りの判別のつかないところでして……それゆえ、分かりにくい物を見分けるのが得意なのですよ」

「……言いふらさないでください。あまり大きな声で言われたくはないの」

「ええ、それはもちろん。誰にでも、言われたくない事の一つや二つ、ありますからね」


 ネロの正体を知っていたのかと危惧したが、そんなことはなかった。


「時に、貴女は宝を隠すなら、どこに隠しますか? いや、私もこれをどこに隠そうか悩んでおりましてね」

「そうですね……」


 さて、どう答えるか。普段の考えではなく、リリア・オールナットはどう考えるのか? を想定しないと。ちょっと気の強い人が、初めて会った人と会話するなら、どう受け答えるだろう?


「母に預けます。知らない警備の人に任せるより信用できます」

「もしそれが、途方もなく大きいお宝だったら? それならどうしますか?」


 どういう意図があるのだろう? 変に答えたら……。


「分かりません。私には見当もつきません」

「ははは……そうですか。いや、貴方に面白いお話をしようと思いましてね」

「どんな、お話ですか?」

「連盟政府が、何のために生まれたのか。何のために存在しているのか。興味はありませんかな?」

「……二度と、凄惨な大戦を起こさないため、全宇宙をまとめることを――」

「と、言われていますね」


 ネロの言う通り、連盟政府は全宇宙を巻き込んだ大戦を再び起こさないために生まれた組織だ。かつての地球で、世界大戦を引き起こさないために誕生した国際連盟のように。

 しかし、かつてのように全部の国は参加できていない。

 広大な宇宙、移住期に飛散したかつての人類の足跡は全て残っていない。その後にも、どのように移住していったのか、それはよくわかっていない。移住記録を保有している連盟政府のあずかり知らぬ国も存在しているのだ。


「ですが、それは真実ではない」 

「え……?」

「連盟は、いわば門番なのですよ。宇宙最大の秘宝を守るために作られた――」


 かつて、宇宙では大戦が勃発した。原因は不明とされているが、話によると、その秘宝を巡った争いだったそうだ。当初は決まった名のなかったそれは、宇宙の中心付近に存在していたことから“センター・オブ・ユニバース”と呼ばれることとなる。実際に手にしたものはいないが、それを手に入れれば全宇宙を思うがままにできる、いわば神の権能を得ることができると言われていた。


 しかし、長きにわたる大戦の結果、多くの惑星が滅びた。ある惑星は疑似的な超新星爆発に巻き込まれ、ある惑星は生物兵器に環境を蝕まれ、またある惑星はその軌道を大きく逸らされ。人類は地球の環境だけでなく、宇宙の環境すらも滅ぼさんとしたのだ。


 後に、連盟を名乗る同盟集団はセンター・オブ・ユニバースが誰にでも扱える代物ではないことを知った。この宇宙でただ一人だけ、すべての秘宝を扱うことのできる、特異点のような人間が存在している。そしてその人物でなければ、神の権能を扱いきれないのだと。


「こうして、大戦を終了させ、時期が来るまで手出しをさせないように隠すことにした」

「……面白いお話ですね。小説家にでもなるおつもりですか?」

「先程の問いの答え、私ならこう答えます――それよりも輝いたものの中に隠す。連盟政府という大きな輝きは、他の輝きをくすませるものです」

「……いい退屈しのぎになりました。夫が待っていますので、失礼します」


 胸がざわついていた。これ以上話を聞いていたら、危険な気がする。

 知りすぎで、消されてしまうのではなかろうか?

 

「はは、そんなに心配されなくともよいですよ。おじさんの戯言なのですから」


 社長は台座にオーブを置きなおし、言った。


「電波障害地帯、危険な惑星では数多く存在します。しかし――」


 あと一歩で外に出れるところで、ネロは足を止める。


「このような高居住適性の惑星で、そう都合よく発生するものですかな?」

「っ……まさか」

「分かりやすい輝きは、そうでない輝きをくすませる――カジノで会えることを楽しみにしていますよ。怪盗エミリアのお弟子さん」


 呆然と立ち尽くすネロの方を叩き、社長は外へ出ていった。

 全部知った上での会話だったのだ。

 自分がエミリアの仲間であることを知っていて、だが知らぬふりをして話しかけていたのだ。


『――電波干渉地帯に突入しました。通信機器はご使用になれません、ご用の際は内線電話をお使いください。繰り返します――』


「……ふん」


 一瞬、素に戻ったネロだったが、またリリア・オールナットの状態となり展示室を後にした。

 背後で星海のオーブが台座から転がり落ちたが、警報が鳴ることはなかった。





















☆☆☆


 今を時めく役者、アンナ・Z・ミーニャもまた、ショーに出演するためクルーズ船に乗り合わせていた。


「――あんたから声をかけてくるなんて、珍しいな」


 彼女は天才的な役者だった。

 スーツを着こなし、眼鏡をかければ凄腕のセールスマンに、武器を手に取れば凄腕のギャングに早変わり。はたまた、清楚な服に身を包み薄く化粧をすれば、世間知らずのお嬢様。古めかしい豪勢な服を纏えば時代劇の王様。ありとあらゆる役をこなすことができた。

 しかし、それだけでは満足しないところが、彼女の凄いところである。


「……また、体を整形し(いじっ)た?」

「ああ、ちょっと肩幅が広くなりすぎてたもんでな」


 演技の為なら何でもする。手始めに、彼女は性別を捨てた。元々、中性的な美少年といわれていたが、それによって美人な女優という肩書になってしまった。

 それだけではない。与えられた役に合わせ、体格や顔、声帯を手術によって変化させた。


「それで? オレに何の用だ。まさか、あんたが人気の役者と食事したいってのは無いだろ……シヴァ」


 そして、彼女は文字通りなんでもした。自殺まがいの危険行為はもちろん、ありとあらゆる仕事――裏家業の黒い仕事も含む、法を犯す行為でさえ平気で行った。すべては自分の演技を極めるために。


「……“仕事”を頼みたい」


 向かいの席に座っていたシヴァはネロの写真を渡した。


「へぇ……カワイイ顔した奴だな。こういうタイプはまだ演じ(やっ)たことはないな」

「……いつものように、頼む」


 料理が運ばれたので、彼女は金を握る手を一旦引っ込めた。


「ふん……自分でやれよ。あんたの腕なら、オレに頼むまでもないだろ」


 アンナは自分の前に置かれたパスタからエビやカニを丁寧に取り除いてから口に運ぶ。


「……我が子は、できない」

「! 成程、ねぇ……」


 ナプキンで口を拭うと、彼女は写真と紙幣を自分のポーチへ無造作に突っ込む。


「知り合いの子を殺す……いい経験になりそうだ。残りはやるよ。じゃぁな」


 彼女が立ち去った後シヴァはため息をつき、残ったパスタを啜るのだった。




 

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