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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第六章 デンジャラスクルーズ
51/80

STEP48 特別捜査官

☆☆☆


 ショーが終わり、オーブは展示室へと運ばれていった。

 サラは、ネロと別れると、カジノの方面へ足をはこぶ。

 もちろん、一般向けの比較的合法な部類のものであるが。


「50万入れてください」


 蛇の道は蛇、裏のことは怪しそうな人に尋ねる。

 入場証は支払い機能を搭載しており、手軽に賭けを楽しむことができる。が、減りが実感しにくいのでやり過ぎには要注意だが……。

 手持ちはそんなに多くはないM.I.C.の力を使えば不正に金を得ることができるが、それは最後の手段だ。

 まずは増やす。カジノらしく、ギャンブルで。


「よし!」


 その辺のスロットマシーンのに座り、10万投入し回す。

 彼女は(しつこいようだが、本当は男である)勝負強い。それなりに強いAI相手なら負けることはない。

 しかし、それは論理的思考や戦略性の強いゲームをする場合に限る。

 純粋な運を試されるゲームは、そんなに強くない。


 あっっっという間に全額をスッてしまった。


「…………な、何であたんないの!? 100回以上はやってるっていうのに! 一回ぐらい当たらせてくれてもいいでょっ!?」


 温厚なサラでも、怒ることはある。平手でスロットマシンを殴打し怒りを発散させる。

 その様子を見ていた、ギャンブラーを体現しているような女が歩み寄っていく。


「――運も実力のうち、よ。坊や、今日はツイてなかったようね」

「そ、そんなこと無いよ!? 今回はたまたまだって! 全額投入すれば一回くらい――」

「こんな、運任せの勝負なんかより、面白いゲームがあるわよ。勝てば、今スッた金額以上のリターンがある、いい勝負よ」


 女の提案にサラは癇癪をやめ、その話に乗ったふりをする。


「本当に……?」

「ええ、もちろん」

「わかった、やってみる」


 もう一度言おう、サラは勝負強い。特に論理的思考、戦略が絡んだゲームは宇宙随一のAIであるM.I.C.ですら勝てないことがある。

 女の誘いに乗って連れられた先は、対人ゲームのブース。

 

「坊やはポーカーをご存じ?」

「う、うん。やったことあるよ」


 それを聞いた女はとあるテーブルのディーラーに目配せをし、ゲームの用意をさせる。


「今からやるのはちょっと変則的なルールでね――」











―― 一時間後


「ね、ねぇ……もうやめにしない?」

「え?」

「だってほら、坊やだって十分もうけたじゃない。だから、ね?」

「お断りします」


 サラが手札を公開する。


「はい、ぼくの勝ち」

「うっそでょ!?」


 ストレートフラッシュに対し、女の役はスリーカード。文句なしの負けである。


「待って……もう私の手持ちが」

「知らないよ、早く払ってくれない?」

「う……ちょ、ちょっと待って――」

「(イカサマの事、ばらされたくないでしょ?)」


 こそり、と耳元で囁く。

 そう、女はディーラーと結託して不正を働いていたのだ。


「払うもの、払ってくれればいいんだよ。それだけやってくれれば、何も言わないからさ」

「む、無理に決まってるでしょ……」

「みなさーん! このひ――むぐ」


 サラの口を慌ててふさぎ、暴露されるのを辛うじて防ぐ。


「な、なにが望み……? 金以外だったら、体だって」

「コードマスターって人、知らない?」

「……あんた、裏カジノの客だったのね」

「裏?」

「借金を帳消しにして、逆転しようって人が行くって噂よ」

「それ、どこにあるの?」

「っ知らないわ。ていうか、知ってても教えないわ。あたしだって命が惜しいもの……」

「ありがと、お姉さん♪」


 もともと、スロットに大負けしたのも――半分は実力だが、半分は狙ってやった。賭け事に弱いカモだと思わせることで、カジノの中堅ギャンブラーを釣ったのだ。

 資金も十分得たし、成果は上々。いい報告ができそうだ。


『間もなく、磁気干渉地帯に突入します。外部と通信される方は、船室の通信機をお使いください』


 感情地帯に入る前にネロに報告しようとしたが、誰かがやってきていたので中断する。

 栗色のボブカットに赤縁の眼鏡が特徴的な女性だ。服装も地味で、手袋をつけ肌の露出を徹底的に減らしている。ショルダーバックの紐を握り締めながら歩いている。

 軽く会釈し、すれ違おうとしたが、相手は立ち止まり、声をかけてきた。


「――サラ・オルタンス・カリナン元女王ですか?」

「…………あ、えっとぼくのことですか? 人違いですよ」

「それとも、レンと、呼んだ方がいいですか?」


 この彼女は、確信を持ってサラだと言っているようだ。ならば徹底的に白を切るしかない。


「確かに、ぼくはレンって名前ですけど……それは王族の方から取ったって」

「失礼」


 ショルダーバックから出てきたのは、連盟政府の紋章が入った認証器。パスとは違い、生体認証からデータを照合できる特別な機材だ。


『――照合完了。レン・オルタンス・カリナンであることが確認されました』


 手を無理やり触れさせられ、身元がばれてしまった。

 合意のない身元認証は違法捜査にあたるはずだ。それなのに実行するということは……。


「貴方を連盟政府反逆罪で逮捕します」

「違法な捜査による証拠は無効、ですよね?」

「黙りなさい」


 右手に手錠をかけられ、彼女はそれを掴む手と反対の手袋を口で外す。


「私は人より多く帯電できる体質です。私が素手でそれに触れれば直ちに20000ボルトの電流が流れます。とても強い静電気のようなものだと考えていただいて構いません」

「あなた、もしかして――」


 彼女は表情を変えずに言った。




「私は連盟政府特別捜査官、デビー・ドロシー。もし抵抗するつもりなら――命を奪わせていただきます」




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