STEP4 無理ゲー?
『むかしむかしあるところに、何てことのない貴族がいました。
いつか出世したいと思っていましたが彼は平凡な男だったのでそれは単なる夢でしかありませんでした。
しばらくすると、男に子供ができます。双子の兄妹です。
二人ともとても美しく、男はとても喜びました。
ですが兄妹が大きくなるにつれある問題が起きました。
妹は外で遊ぶのが大好きでおてんばな少女でした。
反対に兄は人見知りでままごとが好きなおとなしい少年でした。
男は父親として思いました。
「もし二人の性格が逆だったなら将来大出世できたのになぁ……
ああ本当にとりかえたいなぁ」
いつしか“とりかえたい”は男の口ぐせになっていました』
――――とある惑星の昔話より抜粋
☆☆☆
エミリアのミスで状況は最悪なものになっていた。
発端は街の検問だった。王族の結婚式の為警備が強化されていたのだ。
彼女は迷わず偽造パスを出した……はずだった。
兵隊が小型の認証装置を使いそれを読み取ると警告音が鳴った。
そこで渡し間違えに気付いた。だが時すでに遅く、囲まれてしまった。
「いや~やっちまったなー」
「それで済ます気じゃないすよねぇ?」
ネロの声には怒気が籠っていた。
「つか何であんたが本物のパスを持ってんですか? あれって連盟加盟国の人しか持ってないはずなのに」
彼の知る限りエミリアの出身は人に言えないような所だ。
「色々あんのさ。てゆーかどうすんのさ?」
包囲網はどんどん厚くなている。
最初は電気銃や空気銃といった軽武装の人員だけだったが、次第に捕獲用ネットに麻酔用ライフル、ガス弾ミサイルなどの対処が面倒臭い武器が運び込まれている。
「自己責任です、自分で何とかしてくださいよ」
「ちっ……しゃーねーな」
エミリアが一歩前に出ると兵は身構える。しかし警戒しているのかすぐに仕掛けない。
「…………ほわぁっ! 何あれぇ!?」
彼女の素っ頓狂な叫び声に一瞬注意力を奪われる。単純な者は指さす先を振り返っている。
その隙に猛ダッシュで包囲網を突破する。
あまりの速さに消えたように感じた。
「……あれ?」
ネロは一人残されて思った。
押し付けられた、と。
「あの子供を捕らえよッ!」
隊長の号令で一斉に武器が構えられる。
「まじか……」
ネロは天を仰いだ。ついでにウィッグを外し服のボタンもいくつか外し動きやすくする。
なぜかその行為に兵達がたじろいた。
「ひっ怯むな! 色仕掛けに引っかかる不埒な者は軍法会議にかけるぞッ!」
「「「ハッ!!!」」」
「相手は女だ、諸君ならやれるぞ!」
「「「押忍っ!!」」」
辺りがやけに静かだ、とネロは思った。前にも何度かこういうことがあった。周りが静かで自分の感情が平坦で頭がすぅっと冷えていく。そして体の底から湧き上がる熱く滾る物がある。
強烈な張り手。衝撃と風圧で最前線の兵士が吹っ飛んだ。
慌てたように発射される弾を避け光線を躱し問題の発言をした部隊長に突撃する。
「お前、俺のこと女って言ったよな?」
ネロは相手の体にのしかかると拳を固める。
「私に構うな撃――」
「俺 は 男 だ ッッ!!」
怒りの拳が炸裂した。
鼻血が噴き出す。衝撃で歯が数本折れる。暴力的な痛みが気絶しかけた意識を強制的に覚醒させる。
「さーて、と。お前ら覚悟はできてるよなぁ?」
爽やかで凶暴な笑みだった。
彼らは自分等の誤りを悟った。
あのエミリアの仲間が、只者であるはずがない!
☆☆☆
「ネロ君ゴメンね~」
エミリアは近くの裏路地で素早く再変装する。今度は眼鏡をかけたビジネスマンだ。
大通りに入ると王宮が目に入る。透き通るような色の城。
眼鏡に仕込んだカメラでそれを撮影する。
一仕事終えた風を出しながら散策する。
目につくのはアクセサリーショップ。やはり特産品を生かした商売を行っているのだろう。
対照的にレストランは少ない。確か食料は輸入に頼っているから当然かもしれない。
抜け目なく通りを観察する。場合によってはここで仕事をするかもしれないからだ。
「さて、次は」
独り言だと思われるような声量でつぶやく。
王宮の近くまでやってくる。まぶしくて目が眩む。
「こりゃダイヤモンドで出来てるって言われるのもうなずけるな……」
見学ができるようなので中に入る。バカ高い入場料を取られたが必要経費だ。
近くで城の壁を見物する。
石の中に小さな輝きがある。
中に入る。ご丁寧に見学用の通路がある。
大人しくそれに従って歩くと何ヶ所か通行できず、迂回用のルートが作られていた。
『式場設営につき立ち入り禁止』
立て看板にはそう書かれていた。
式場はここらしい。下手に外部を使うより安全ということか。
先を覗こうとするが全然見えない。
「ま、想定済みだ」
エミリアは諦めたふりをしてトイレに入る。
換気用ダクトの真下まで行く。
「さすがにトイレに監視カメラは付けられないよねー」
侵入用の手袋と靴(彼女はタコさんと呼んでいる)を装備しダクトに突入する。
こういった設備は確実に一つに繋がるものだ。上手くいけば式場の近くまで行ける。
するすると音を立てぬよう慎重に進む。
「おわっ!」
掃除用兼監視用の自動走行ロボがやってきたので天井(?)に張り付いてやり過ごす。
「ふぃ~」
十分にやり過ごし再び進む。
が、また止まらざるを得なくなる。
「赤外線か?」
壁一面にセンサーらしき物が付いている。
念の為ポケットから端末を取り出し確認すると網目のように線が浮かび上がる。
「ビンゴ……」
どう頑張っても人は通れそうにない。
「ッ……ダクトまで対策されるか。誰だよ過去そんなに侵入った奴…………あ、ボクだ」
しばらくその場で作戦を練る。
「はふぅ……軍に潜入するのはできなくなった、作業員に化ける? 本番入れないな」
エミリアは驚愕の事実に気付く。
「これ無理じゃね?」
裏工作不能、チャンスはパレードの瞬間。なければ失敗。
「んふふふ……ゾクゾクしてきたなぁ」
つまり成功したらとてつもない達成感を味わえる。
その瞬間を思うと笑いが止まらない。
堪えながら道を引き返していった。