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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第六章 デンジャラスクルーズ
49/80

STEP46 海の惑星

☆☆☆


 惑星、アスール。

 衛星数、3。うち一つは人工惑星。

 発見年度、連盟統一暦3826年。 

 生存可能域80%

 居住域0%(人工島を除く)

 特産品、なし。


 極付近を除き、惑星全域で生存が可能な珍しい惑星。しかし、陸地が存在していないため居住することは不可能である。しかし、とある会社が惑星を買い取り、人工島を次々と建設したことにより居住できるようになる。それ以来、人工島を周遊するクルーズ旅行が名物となり、今では旅行してみたい惑星ランキングで毎年TOP10に入っている。確かな筋の情報では、惑星を所有している会社にはよからぬ噂が流れており、クルーズ船の中では闇取引が行われているという都市伝説がまことしやかにささやかれていたりする。





――――エミリア特製の惑星データファイルより抜粋















「わぁ……きれい…………」


 ディスプレイに映し出された惑星の姿に、思わずため息が出てしまう。

 サラの故郷、エクセルシアには海が存在しない。ある程度の水は地下水として存在しているが、宇宙空間から目立って見える程の質量は無いのだ。

 故に、彼女にとって海は初体験。

 見るだけでもテンションが上がるものなのだ。


「あれが“ウミ”というものですか?」


 アスールの外観は青い。かつての地球とは違い、陸地が存在しないため比喩抜きで青い。極部分の氷がさらに青さを引き立てている。


「ああ。ここまででかいのも珍しいけどな」

「うーん! 楽しみですね!」

「おい、俺たちは観光目的じゃなくて、コードマスターってのを探しに来たんだからな?」

「……わ、わかってますよ」


 この惑星のどこかに、この宇宙で最高峰のハッカーがいるはずだ。

 エミリアが無事に戻るためには、何としてでも探し出さねばならない。


【お二方に、悪い知らせが二つほどございます】


 ネットワークからコードマスターの痕跡を探していたM.I.C.から報告が入る。


【一つ目は、当該惑星には現在連盟政府特別捜査官が潜入しているという情報です。複数の情報源から同様の内容が見受けられため、信憑性は高いかと】

「それは……確かに、悪い知らせだな」


 ネロはあの男を思い出し、苦い顔をする。

 別の人物である可能性が高いものの、クセの強い人物であることは明白だろう。


【我々が標的ではないとはいえ、遭遇すれば大きな障害となるでしょう】

「あともう一つは何なのですか?」


 まず先に特別捜査官を出すということは、もっと良くない報告に違いない。


【コードマスターはとある客船のカジノに潜伏していることが判明しました。しかし――】

「チケットが入手できなかった、か?」

【いえ、入手できました――夫婦向けの、新婚旅行専用ペアチケットが】


 確かに、悪い知らせかもしれない。



















☆☆☆


 どちらの方が夫役に適しているか? 

 それは言うまでもなくサラの方である。

 本来の性別のようにふるまえば、立派な草食系ヘタレ男子として見える。


「オールナット様ですね。この度はご結婚、おめでとうございます」

「はは……ありがとうございます」


 エクセルシアの夫婦が新婚旅行で海のある惑星に行くことは珍しくない。そして近年の傾向で、気の強い他国の女性と結婚することは何ら不自然でもない。

 故にオールナット夫妻はどこにでもいる夫婦としての偽装はできているのである。


「こちらが部屋の鍵となります。お二人だけの時間を、お楽しみください」


 受付の女性は意味深な笑顔で鍵を渡した。

 下世話な人だ。


 すれ違う人々は変装している二人を見て、妙に納得したようにうなずいている。

 さて、何を納得してるのかは想像にお任せしよう。


「捜査官らしき人は見当たりませんでしたね」

「コードマスターっぽい奴も、な」


 部屋は外を一望できる高ポジション。何かと都合がよさそうだ。


「が、気になるのはこっちだ」


 ネロはディナーショーの告知ページを示す。


「“星海のオーブ”のお披露目会、ってやつだ」

「それがどうかしましたか?」

「いや、これに群がる奴を特別捜査官が狙っているかもって思っただけだ」

「まさか……」

「昔聞いたんだが、ある種の宝石類には不純物としてセルニウムが含まれているらしい」

「ええ、有名な話ですよね」


 セルニウムは現在でも謎の多い物質である。コンピューターチップとして優秀な働きをするし、合金に混ぜればより強固に、宝石類に含まれればより複雑な輝きに。

 より良い変化をもたらすものなのだ。


「確か、記憶が正しければ……星海のオーブにはかなりのセルニウムが配合されていたはずだ。つまり、宝石としてではなく」

「材料として狙う人もいる……確かに、可能性としては十分あり得ますね」

【――乗客名簿の確認が取れました。マスターの言う通り、“怪しい”乗客は星の数ほどいましたね】


 ネロの悪い予感が的中してしまった。

 つまり、下手すれば一触即発の、危険なクルーズとなりうるということだ。


「怪しいのはお互い様、だ。無事に帰れることを祈ろう」


 一際大きな汽笛が鳴り響く。

 第一目標に向け、出港した。



















☆☆☆


「この間の仕事、実に見事だったぜ」


 クルーズ船にあるバーの一席。男は黒いベールを纏った女性に語り掛ける。


「やはり、腕は衰えてい無いようだな、シヴァ」

「……何をしたところで、意味はない」


 シヴァと呼ばれた女性は、先日殺した男の事を思い出していた。

 誰かに恨まれていたとしても、彼には家族がいた。彼の妻が残した言葉から、彼が愛されていたことが推察できる。

 誰かの苦しみを解き放てば、別の誰かが苦しむ。その連鎖は永遠に終わらない。


「……生のある限り、苦しみは無くならないのだから」

「変わらないな、あんたも」


 男は苦笑してグラスに口をつける。酒場の親父と呼ばれるこの男は裏の仕事を斡旋することを生業としている。今回も、星海のオーブに関連した仕事の仲介をするためにここにいた。


「……次の、的は?」

「ああ、すまねぇ。今回は仕事の話じゃないんだよ」

「……なら、帰る」


 酒を好まないシヴァはこういった場所が好きではない。


「まあ、待てよ。面白いもん見せてやるからよ」


 親父はタブレットにある画像を表示させた。


「……!」

「どうだい、面白いだろう?」


 それを見たシヴァは、思いとどまり、座りなおした。


「……どこで、出会った?」

「この船で、さ。あんたに子供がいたって噂はホントだったみてぇだな。伝説の暗殺者サマが人の親だった……こりゃ傑作だね」


 彼女は写真に写る人物の顔に触れた。特徴的な黒い髪、少し吊り気味の目、すっとした目鼻立ち、女性的なほっそりとした輪郭。自分の若いころを見ているような錯覚に陥る。


「名前は……名簿によるとリリア・オールナット。エクセルシアの新婚夫婦って書いてあるが、こいつぁ偽名だろうね」


 偽名、それもそうだ。名前など付けてやれなかったのだから。自分の子に、名前などあるはずもない。


「俺は、この“リリア”って偽名に心当たりがある。ちょいと前に仕事のしたことがある奴の相棒が使っている物で――おっと、暴力は無しだぜ?」


 親父は鋭い殺気を感じ取り、慌てて両手をあげる。


「そいつは、こう見えても男なんだが、ネロって名乗ってた」

「……誰の、相棒?」

「お前さんにも因縁のあるやつだぜ――」


 その名を聞き、シヴァの頬が緩んだ。

 運命とは、常に循環するもの。奪われたものは、誰かから奪う。


「……いいことを、聞いた」

「そいつぁどーも。情報料はまけといてやるよ」


 彼女はうれしさのあまり、好きでない酒を頼んでしまう。


「……私が払おう」

「へっインガオーホーってやつか?」


 しばらくして、真っ黒なカクテルが運ばれてくる。彼女の髪の色のような、きれいな黒だ。


「……運命に」

「乾杯……へへっ」


 二つのグラスが、音を立てた。



ちょっと増量中

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