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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第五章 希望の炎
47/80

STEP44 力の根源

☆☆☆


 キリがない。

 数が多すぎる。

 ブラディオニキスに近づけば近づくほどに、ゾンビ兵たちは数を増していく。

 それだけでなく、より繊細にコントロールをされているのか、動きも複雑化してきている。少しでも油断したらたちまちやられてしまう。


『テイコウスルナ……』

『世界ノホロビヲ受ケ入レヨ……』

「う……るさいっ!」


 首を斬り落とし、黙らせた。

 こうも似通ったことを言われるといらだちを覚えてくる。

 

「――――ッッ!!」


 最後の一体を斬り捨てた。

 背後では再生の音が聞こえてきているが、あとは目の前の巫女とブラディオニキスを破壊するだけだ。


「……っ止めてもらおうか、この惨劇を!」

「愚かな」


 第一印象は、驚きだった。

 巫女はサラにとてもよく似ていた。もし本当に彼女(お忘れかもしれないが、サラは男の娘である)が女性であったら、こんな姿をしているんじゃなかろうか。

 だが、彼女の目は死んでいた。何も光を宿さず、絶望した目。


「この世界など、消えた方がよいのだ」

「それは、お前の考えだろ……っ!」


 ネロは剣を自然体で構える。


「誰かの犠牲の上でしか幸福が成り立たない。そういう世界は無い方がよい」

「――――っ!?」


 足にゾンビ兵がしがみついていた。呆気に取られていると、後ろから羽交い絞めにされ、身動きが取れなくなってしまった。


「お前も、終末の礎となれ」

「……だから、滅ぼしたのか?」

「何の話だ」

「あんたは、自分の故郷を、シェオルを滅ぼしたのかって、聞いてんだ!」


 手首のスナップで剣を振り投げる。不意を突いたつもりだったが、ブラディオニキスから噴き出した血によって防がれてしまった。そしてそれは、触手のようにネロの体を撫でまわす。


「終わらせた。いずれ、そうなる運命であったからだ」

「だったら、もういいだろ……っ!」


 体が容赦なく締めあげられる。全身が痺れ、動けなくなってくる。


「あんたは……自分の望みを果たしたはずだ……っ!」

「まだ、世界はある。すべて終わらせるまで、望みは果たされない」


 意識が、遠のいていく。


「……世界はいずれ終わる運命かもしれない。でもな――」


 力が沸き上がった。

 どこか懐かしく、頼もしい力だ。

 そしてそれは、自らを縛るものに干渉していることが分かった。


「終わらせるのは、お前ではないッ!」


 穢土(エド)。それは穢れた世界を意味している。

 その名を冠する白銀の剣は、巫女の体を貫き、その身を赤く染まらせた。


「な……ぜ……?」

「俺の……力だっ!」


 ブラディオニキスの力は消滅していた。

 ゾンビ兵を操っていた力も、ネロを縛っていた力も。

 手を伸ばすと、両方の剣が手に戻ってくる。

 

 ずっと、自分の持つ特性が分からなかった。誰よりも普通で、特に進化しているとも思えていなかった。

 でもこれでわかった。

 なぜ秘宝の力に干渉できたのか。なぜ念じただけで物を操れたのか。

 それは――


「……っわたしは、なにを…………」


 まだ息のあった巫女が口を開く。もう立つ力もなくなり、その場に崩れ落ちる。


「……っ……やっと、きえた…………あたま、の、こえ……」


 彼女が何を思っていたのかは知らない。

 彼女の言葉が何を意味しているのか。


「安らかに、眠れ……」


 血を振り払い、剣を収めた。

 ブラディオニキスからは複雑な力があふれ出ている。それは、人からも多く出ている力――感情。

 感情のエネルギーを効率的に運用する装置だ。

 秘宝とは進化をもたらすものではない。

 ただの、エネルギー源だ。

 人を、操ってしまえるほどの、膨大なエネルギーを秘めている。それは時に物理法則をゆがめる。


「こんな力、気付くかよ……」


 この宇宙に存在している力への干渉。それが彼の持つ特性。

 秘宝の力だけでなく、物理法則も、操れる。

 それは自分だけではなく、適合した人間にも、それと同様の力を持っている。


「こんなものがなければ……っ!」


 紅く、湿った表面に手を触れた。































「――――っ!?」


 凶暴化したサラに首を絞められていた。

 M.I.C.のアームや注射器の残骸やらが散乱していて、意識のない間に乱闘があったことがうかがえる。


「コワス! コワスゥッッ!」

「落ち着けっ! 俺だ!」


 頭に血が溜まって視界が暗くなっていく。

 手段を選んでいる場合ではない。彼女の腹に拳を当て、力を解き放った。


「っ!?」

「もういい! もう十分だ!」


 あの時の言葉が頭をよぎる。


『こんなっ……私をみとめてくれないせかいっ、なくなっちゃえばいいんです……っ』


 もし、あれが本当の気持ちで、今もそう思っているなら。

 ブラディオニキスが蓄えている、負の感情のエネルギーに、影響されてしまっているはずだ。

 よろめき、お腹を押さえたサラは殺意の籠った眼で見つめてきた。


「忘れてるなら、思い出させてやるっ!」


 武器はない。必要はない。

 力を使う必要も、無いかもしれない。


「ウ……ウウ…………」

「おい、サラ」


 一歩、歩み寄った。


「“誰も認めてくれないっていうんだったら、俺が認めてやる”」


 また一歩、サラが顔をあげる。


「“お前はお前のままでいればいいんだ”」


 そして、ゆっくり抱きしめた。


「信じられないなら、殺せ。お前の力なら、いけるだろ」

「っ……!」


 抱きしめる力が強く、冷汗が流れた。

 が、それはすぐに弱まった。


「よいのですか……? 私は、私のままで……?」

「誰も、何も強制しやしない。好きなように、生きればいい」


 彼女の目から、涙がこぼれおちていった。




何度でもいうが、サラは男の娘である。

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