STEP44 力の根源
☆☆☆
キリがない。
数が多すぎる。
ブラディオニキスに近づけば近づくほどに、ゾンビ兵たちは数を増していく。
それだけでなく、より繊細にコントロールをされているのか、動きも複雑化してきている。少しでも油断したらたちまちやられてしまう。
『テイコウスルナ……』
『世界ノホロビヲ受ケ入レヨ……』
「う……るさいっ!」
首を斬り落とし、黙らせた。
こうも似通ったことを言われるといらだちを覚えてくる。
「――――ッッ!!」
最後の一体を斬り捨てた。
背後では再生の音が聞こえてきているが、あとは目の前の巫女とブラディオニキスを破壊するだけだ。
「……っ止めてもらおうか、この惨劇を!」
「愚かな」
第一印象は、驚きだった。
巫女はサラにとてもよく似ていた。もし本当に彼女(お忘れかもしれないが、サラは男の娘である)が女性であったら、こんな姿をしているんじゃなかろうか。
だが、彼女の目は死んでいた。何も光を宿さず、絶望した目。
「この世界など、消えた方がよいのだ」
「それは、お前の考えだろ……っ!」
ネロは剣を自然体で構える。
「誰かの犠牲の上でしか幸福が成り立たない。そういう世界は無い方がよい」
「――――っ!?」
足にゾンビ兵がしがみついていた。呆気に取られていると、後ろから羽交い絞めにされ、身動きが取れなくなってしまった。
「お前も、終末の礎となれ」
「……だから、滅ぼしたのか?」
「何の話だ」
「あんたは、自分の故郷を、シェオルを滅ぼしたのかって、聞いてんだ!」
手首のスナップで剣を振り投げる。不意を突いたつもりだったが、ブラディオニキスから噴き出した血によって防がれてしまった。そしてそれは、触手のようにネロの体を撫でまわす。
「終わらせた。いずれ、そうなる運命であったからだ」
「だったら、もういいだろ……っ!」
体が容赦なく締めあげられる。全身が痺れ、動けなくなってくる。
「あんたは……自分の望みを果たしたはずだ……っ!」
「まだ、世界はある。すべて終わらせるまで、望みは果たされない」
意識が、遠のいていく。
「……世界はいずれ終わる運命かもしれない。でもな――」
力が沸き上がった。
どこか懐かしく、頼もしい力だ。
そしてそれは、自らを縛るものに干渉していることが分かった。
「終わらせるのは、お前ではないッ!」
穢土。それは穢れた世界を意味している。
その名を冠する白銀の剣は、巫女の体を貫き、その身を赤く染まらせた。
「な……ぜ……?」
「俺の……力だっ!」
ブラディオニキスの力は消滅していた。
ゾンビ兵を操っていた力も、ネロを縛っていた力も。
手を伸ばすと、両方の剣が手に戻ってくる。
ずっと、自分の持つ特性が分からなかった。誰よりも普通で、特に進化しているとも思えていなかった。
でもこれでわかった。
なぜ秘宝の力に干渉できたのか。なぜ念じただけで物を操れたのか。
それは――
「……っわたしは、なにを…………」
まだ息のあった巫女が口を開く。もう立つ力もなくなり、その場に崩れ落ちる。
「……っ……やっと、きえた…………あたま、の、こえ……」
彼女が何を思っていたのかは知らない。
彼女の言葉が何を意味しているのか。
「安らかに、眠れ……」
血を振り払い、剣を収めた。
ブラディオニキスからは複雑な力があふれ出ている。それは、人からも多く出ている力――感情。
感情のエネルギーを効率的に運用する装置だ。
秘宝とは進化をもたらすものではない。
ただの、エネルギー源だ。
人を、操ってしまえるほどの、膨大なエネルギーを秘めている。それは時に物理法則をゆがめる。
「こんな力、気付くかよ……」
この宇宙に存在している力への干渉。それが彼の持つ特性。
秘宝の力だけでなく、物理法則も、操れる。
それは自分だけではなく、適合した人間にも、それと同様の力を持っている。
「こんなものがなければ……っ!」
紅く、湿った表面に手を触れた。
「――――っ!?」
凶暴化したサラに首を絞められていた。
M.I.C.のアームや注射器の残骸やらが散乱していて、意識のない間に乱闘があったことがうかがえる。
「コワス! コワスゥッッ!」
「落ち着けっ! 俺だ!」
頭に血が溜まって視界が暗くなっていく。
手段を選んでいる場合ではない。彼女の腹に拳を当て、力を解き放った。
「っ!?」
「もういい! もう十分だ!」
あの時の言葉が頭をよぎる。
『こんなっ……私をみとめてくれないせかいっ、なくなっちゃえばいいんです……っ』
もし、あれが本当の気持ちで、今もそう思っているなら。
ブラディオニキスが蓄えている、負の感情のエネルギーに、影響されてしまっているはずだ。
よろめき、お腹を押さえたサラは殺意の籠った眼で見つめてきた。
「忘れてるなら、思い出させてやるっ!」
武器はない。必要はない。
力を使う必要も、無いかもしれない。
「ウ……ウウ…………」
「おい、サラ」
一歩、歩み寄った。
「“誰も認めてくれないっていうんだったら、俺が認めてやる”」
また一歩、サラが顔をあげる。
「“お前はお前のままでいればいいんだ”」
そして、ゆっくり抱きしめた。
「信じられないなら、殺せ。お前の力なら、いけるだろ」
「っ……!」
抱きしめる力が強く、冷汗が流れた。
が、それはすぐに弱まった。
「よいのですか……? 私は、私のままで……?」
「誰も、何も強制しやしない。好きなように、生きればいい」
彼女の目から、涙がこぼれおちていった。
何度でもいうが、サラは男の娘である。




