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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第五章 希望の炎
44/80

STEP41 もう一人の

☆☆☆


「な……んだ……?」

【不明ですが、何か超常的なことが起きていることは確かです】

「お前に聞いてない」


 サラの体から血けむりが噴き出している。体が変形し、全く別の姿になっていく。

 頑強な大男、次の瞬間には健康的な少女に、また変わり、変わっていく。


「おいっ……あっ!」

『委ねよ』


 頭に声が響いた。


「誰だ……お前」

『委ねよ』


 この声の主は、止められるというのか……?

 腕が自然と上がった。

 操られる。動けない。


「やめ――――」













 日差しが強かった。

 乾いた熱気で目が覚める。


「ん……」


 起き上がろうとすると、背中がやけに引っ張られた。心なしか、胸が少しだけ重い。


「は……?」


 慌てて近くのガラス窓に駆け寄る。反射で自分の顔が映る。

 

「これ、あの殺し屋の……」


 こうして見ると、自分の顔に近い部分もある。目元とか、雰囲気とか。

 ネロは顔を触って本物かどうかを確かめる。

 しっとりと柔らかく、なめらかだ。自分の肌とは違って触り心地がいい。いつも女顔といじられてはいるが、実際に女性の姿となるのは妙な気分だった。

 そして背の剣に触れる。

 重く、手になじむ。


 改めて周りを見回すと、ここが見覚えのある場所であることに気付く。

 赤茶けた土に、少しだけある輝き。そしてレンガ造りの家。

 エクセルシアの風景に、よく似ている。

 だが、決定的に違う点があるとすれば、緊張感。

 糸がぴっちりと張り詰められていて、今にも切れそうなくらい。思わず呼吸が早くなっていくかのような、一触即発の雰囲気。


「!」


 殺気を感じ、体を傾けると、目の前を銃弾が飛んでいった。

 頬に汗が伝う。

 その方を見ると、正気を失った兵士が銃口を向けている。

 ネロは軽く息を吐き出し、右手を剣の柄にかける。

 一陣の風が吹いた。

 銃弾が真っ二つに割れ、兵士の胸からは刀身が突き出ていた。

 理想的な動きで、一切の無駄がなかった。

 人間特有の力みやブレが一切ない最適で、そして最速の技だった。


「っはぁっ……」


 遅れて心臓が跳ねる。

 自分でも驚いていた。無意識のうちに体が動いた。何だろうかこの感覚は。


「コワス……」

「っ!?」


 どういうわけか、まだ息のあった兵士がネロの首を締めあげてくる。

 咄嗟に剣を振りぬいたが、それでもなお力が緩まない。一昔前のゾンビ映画のようであった。


「くっ!」


 もう片方の剣を引き抜き相手の首を切り落とし、体を蹴って呪縛から抜け出す。

 しかし、切れた首と体が繋がって再び襲い掛かってくる。 


「っそだろ……!?」


 絶対に死なない相手に戦いを挑むほどネロは無謀ではない。

 入り組んだ路地で敵をまいて、建物の屋根に乗って街の様子を確認した。

 いや、するまでもなかった。

 ゾンビ兵が人々を襲い、襲われた人はゾンビ化し、またほかの人間を襲う。

 その中心にあるのは、ブラディオニキスとそれを操る巫女。

 あれを押えなきゃ、終わらない。元の場所に戻れない気がする。


 屋根伝いに進むか? いや、ゾンビとはいえ、壁を登るくらいできるはずだ。

 ここは火を放って……そんなことをしても斃せる保証もないし、第一行動が制限されてしまう。


「ん……?」


 女の子がゾンビたちに追い回されていた。

 距離的には間に合うだろうが、助けてしまえば大幅なロスになってしまう。


「はぁ……っ!」


 一息に屋根を駆け抜ける。大通り一本を飛び越え、一回転し、女の子の元へ走る。頭の処理が一段階遅れて追いつき、自分の挙動が恐ろしく感じた。

 あと少しで追いつく。が、女の子は躓いて転んでしまっていた。


「――っ!」


 反射的に体が動き、彼女に覆いかぶさるようにして攻撃から身を庇った。

 鞘のおかげで傷は浅かったが、腕が引きつって動かしにくい。


「……けがはないか?」

「っん」


 再び襲い掛かって生きたゾンビを蹴りで飛ばす。

 左の剣を収め、女の子を抱えた。そこで気づいた。


「お前……サラか?」

「ち、違います……レン、です」


 そうか、子供の頃はまだ姉と入れ替わっていないから、か。


「レン、この状況に心当たりは?」


 黙って首を振った。

 わからない、か。

 ネロはゾンビから姿を隠すため走り出した。





























☆☆☆


 ガラクタだらけだった。

 その島には大なり小なりの没兵器が棄ててあった。

 

「なんで、キミがここにいるのさ?」

「それが私の運命だから」


 答えになっていなかった。セイレーンは何も答えず奥に進んでいった。

 エミリアは慌てて追いかけようとしてつまずいた。

 ブレスレット型の器機。これは“神の手”と呼ばれる次世代兵器――として開発されたガラクタ。局所的に重力を発生させ敵を遠隔攻撃する武器だったのだが、普通に銃の方が強かったので没。

 立ち上がろうと紐のようなものを掴んだら山が崩れた。


「んにゃぁぁぁっ!?」


 紐のようなものの正体は次世代型のステルススーツ……として作られたはずのものである。いかなるセキュリティーを潜り抜けることができるが、バッテリーが3分しか持たず、某巨大化ヒーローのような性能だったうえに、目視でばれるので没。

 体にのしかかってきたのは小型化したレールガン。これも一発分しかバッテリーが持たなかったので没。

 ほかにも、多種多様な没兵器たち……。よく足を取られずに歩けるものだ。


「そういう話じゃない、どうしてキミは軍の特殊部隊がいる星に入れるのかってのを聞いてるの」

「契約違反」


 と、彼女はマフラーを取って見せた。銀色の首輪がつけられていた。


「彼は私の目を必要としている。故に私は囚われている。故に逃げている」

「へぇ……確かに、ここならレーダーにも引っかかりそうにないな。ガラクタ多すぎて」


 山から突き出ていたものを引き抜いた。レーザーブレード、大昔のSF映画に出てきそうな光の剣。

 ほかにも、電波障害を引き起こさせそうなものばかりだ。


「ちょうどいい、キミには聞きたいことが山ほどあったんだ……」


 エミリアはそれをそのまま彼女の喉元に突き付けた。



「お前、何者だ?」


 

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