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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第五章 希望の炎
43/80

STEP40 暴走する意志

☆☆☆


 頭が重い。熱く重い瞼を開くと、見慣れた天井が目に入る。ここは、医務室か……。

 体を起こそうとし、体の圧迫感に気付く。

 見れば、体がベッドに縛り付けられている。一応、体を傷つけないような配慮はされているが。記憶はないが、私は相当暴れたのだろう。しかし、これでは都合が悪い。

 幸い、ゆっくりとした動きは阻害しない設計のようだ。ならばチャンスは一瞬だ。

 私はゆっくりと親指を口元に持っていき、少し伸びていた爪の先をかじった。


「んっ……!!」


 冷汗が流れた。霞がかった意識が一瞬クリアになる。

 だが、上手く爪がはがれて血が垂れだしている。

 いける。あの巫女のように、私も、操れるはずだ。

 イメージは、蛇。うねうねと動くさまを思い浮かべた。

 ……よし。

 私はそれを拘束具の隙間に侵入させた。こういった器具は、内側が弱い。外側からの破壊は想定されていても、逆はそうでないからだ。


「終わらせる…………この、穢れた世界を、終わらせてやる……」


 もう我慢することはない。

 私を阻害する世界など、壊してしまえばいいんだ……。






















☆☆☆


「これが、形見か……」


 小さな巾着袋。

 外から触った感触は、小石。とても固い。ダイヤの原石のようだ。

 

「M.I.C.これは……」

『秘密裏にスキャンをかけたのですが、不明です。この宇宙に存在しない物質である可能性もございます』



――――死んだ相棒の形見だ。お前に預ける。


 

 エミリアの元相棒。それは一体どんな人物だったのだろうか?

 こっそり袋を開け、中をのぞいてみる。

 やはり中身は小さな小石だった。元は透明だったのだろうが、くすんで不透明になってしまっている。


 不意に、頭が痛んだ。

 こめかみを両脇から挟み込まれているようだ。


「っ……!?」

『マスター? 心拍に異常が見られますが、どうかされましたか?』


 胸も苦しい、息を吸ってもそれを体が取り込んでくれていないように感じる。

 だが全身の感覚だけは、なぜだか研ぎ澄まされる。


「なっ……ぁっ!?」


 誰かが、体の内側に入り込んできているかのような感覚。

 

「や、めろ……」


 ゆっくりと息を吐き出し、吸う。

 頭の痛みは消えないが、いくらかマシになった。


「っおい、何を……」


 頭に浮かんだイメージ。

 サラが、船を破壊し、宇宙中の破壊兵器を乗っ取っている。


「止めろッ!」


 


















☆☆☆


 通路が閉鎖されている。

 逃げ出せないよう、閉じ込めるためか……。

 でも、関係ない。この力があれば。

 扉の隙間に血を侵入させ無理やりこじ開けた。


 この量じゃ、足りない。

 ブラディオニキスに蓄えられている、犠牲者の血が、必要だ。

 もう、エミリアのコレクションルームの前だ。これで誰にも止めることはできない。


「待てよ」

「!」


 胸が痛んだ。

 不意に思い出させれてしまった。

 いや、関係はない。


「終わらせてやる……!」


 袖の内側に仕込んだメスで手の平を切って流血の量を増やす。攻撃力も、リーチも、私の血の量がすべてを決める。純粋な戦闘力なら、彼の方が上だが、この力込みなら私にも分がある。

 ウォーターカッターの要領で、彼に対して血を照射した。

 もちろん、躱される。そんなことは想定済みだ。

 狙いは彼の後ろ。電子ロックを司るパネル。

 独立して存在しているあれをつぶせば、扉を支配しているものはもはやいなくなる。

 戦いのさなかで、ブラディオニキスを入手するのも容易になる。

                                 

「もうやめろ……ッ! そんなことして、なんになるッ!?」

「終わらせるおわらせるオワラセテヤルッ!!」


 血のムチを弾こうとネロは必死に足を振り上げているが、流体は捉えることなどできない。


「っ!」


 急に息が吸えなくなった。肺を内側から押されているかのような圧迫感。首を絞められているように感じる。堪らず、膝をついて首を掻きむしる。

 霞む視界の中、目が白く輝くネロの姿が目に入る

 あの時の、M.I.C.を創り上げたときの状態だ。


「っあ」


 私の体が浮かび上がる、つま先が地面を離れる。

 普段の状態ならともかく、あっちの状態なら話は別だ。このままでは絶対に負ける。

 血を噴射させ、天井を傷つけ、配線をショートさせた。

 火花から身を庇った一瞬、締めが消える。

 一瞬、この一瞬を逃さずドアをこじ開ける。瞬発力だけなら、ネロにも、エミリアにも負けはしない。

 数多の煌きの中、赤黒く輝く石。自分で設置したから覚えている。

 あれが。


「――!?」


 急に足が引っ張られ転倒した。もう回復してしまったのか。

 でも関係ない。繋がれる!

 紐のように血を引き延ばし、それと繋がった。

 感覚が消えていく。いや、多すぎてわからない。

 誰? 何百、何千もの感覚が一気に流れ込んできて、何が何だかもうわからない。



 ――私はどうなってしまうの……?


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