STEP40 暴走する意志
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頭が重い。熱く重い瞼を開くと、見慣れた天井が目に入る。ここは、医務室か……。
体を起こそうとし、体の圧迫感に気付く。
見れば、体がベッドに縛り付けられている。一応、体を傷つけないような配慮はされているが。記憶はないが、私は相当暴れたのだろう。しかし、これでは都合が悪い。
幸い、ゆっくりとした動きは阻害しない設計のようだ。ならばチャンスは一瞬だ。
私はゆっくりと親指を口元に持っていき、少し伸びていた爪の先をかじった。
「んっ……!!」
冷汗が流れた。霞がかった意識が一瞬クリアになる。
だが、上手く爪がはがれて血が垂れだしている。
いける。あの巫女のように、私も、操れるはずだ。
イメージは、蛇。うねうねと動くさまを思い浮かべた。
……よし。
私はそれを拘束具の隙間に侵入させた。こういった器具は、内側が弱い。外側からの破壊は想定されていても、逆はそうでないからだ。
「終わらせる…………この、穢れた世界を、終わらせてやる……」
もう我慢することはない。
私を阻害する世界など、壊してしまえばいいんだ……。
☆☆☆
「これが、形見か……」
小さな巾着袋。
外から触った感触は、小石。とても固い。ダイヤの原石のようだ。
「M.I.C.これは……」
『秘密裏にスキャンをかけたのですが、不明です。この宇宙に存在しない物質である可能性もございます』
――――死んだ相棒の形見だ。お前に預ける。
エミリアの元相棒。それは一体どんな人物だったのだろうか?
こっそり袋を開け、中をのぞいてみる。
やはり中身は小さな小石だった。元は透明だったのだろうが、くすんで不透明になってしまっている。
不意に、頭が痛んだ。
こめかみを両脇から挟み込まれているようだ。
「っ……!?」
『マスター? 心拍に異常が見られますが、どうかされましたか?』
胸も苦しい、息を吸ってもそれを体が取り込んでくれていないように感じる。
だが全身の感覚だけは、なぜだか研ぎ澄まされる。
「なっ……ぁっ!?」
誰かが、体の内側に入り込んできているかのような感覚。
「や、めろ……」
ゆっくりと息を吐き出し、吸う。
頭の痛みは消えないが、いくらかマシになった。
「っおい、何を……」
頭に浮かんだイメージ。
サラが、船を破壊し、宇宙中の破壊兵器を乗っ取っている。
「止めろッ!」
☆☆☆
通路が閉鎖されている。
逃げ出せないよう、閉じ込めるためか……。
でも、関係ない。この力があれば。
扉の隙間に血を侵入させ無理やりこじ開けた。
この量じゃ、足りない。
ブラディオニキスに蓄えられている、犠牲者の血が、必要だ。
もう、エミリアのコレクションルームの前だ。これで誰にも止めることはできない。
「待てよ」
「!」
胸が痛んだ。
不意に思い出させれてしまった。
いや、関係はない。
「終わらせてやる……!」
袖の内側に仕込んだメスで手の平を切って流血の量を増やす。攻撃力も、リーチも、私の血の量がすべてを決める。純粋な戦闘力なら、彼の方が上だが、この力込みなら私にも分がある。
ウォーターカッターの要領で、彼に対して血を照射した。
もちろん、躱される。そんなことは想定済みだ。
狙いは彼の後ろ。電子ロックを司るパネル。
独立して存在しているあれをつぶせば、扉を支配しているものはもはやいなくなる。
戦いのさなかで、ブラディオニキスを入手するのも容易になる。
「もうやめろ……ッ! そんなことして、なんになるッ!?」
「終わらせるおわらせるオワラセテヤルッ!!」
血のムチを弾こうとネロは必死に足を振り上げているが、流体は捉えることなどできない。
「っ!」
急に息が吸えなくなった。肺を内側から押されているかのような圧迫感。首を絞められているように感じる。堪らず、膝をついて首を掻きむしる。
霞む視界の中、目が白く輝くネロの姿が目に入る
あの時の、M.I.C.を創り上げたときの状態だ。
「っあ」
私の体が浮かび上がる、つま先が地面を離れる。
普段の状態ならともかく、あっちの状態なら話は別だ。このままでは絶対に負ける。
血を噴射させ、天井を傷つけ、配線をショートさせた。
火花から身を庇った一瞬、締めが消える。
一瞬、この一瞬を逃さずドアをこじ開ける。瞬発力だけなら、ネロにも、エミリアにも負けはしない。
数多の煌きの中、赤黒く輝く石。自分で設置したから覚えている。
あれが。
「――!?」
急に足が引っ張られ転倒した。もう回復してしまったのか。
でも関係ない。繋がれる!
紐のように血を引き延ばし、それと繋がった。
感覚が消えていく。いや、多すぎてわからない。
誰? 何百、何千もの感覚が一気に流れ込んできて、何が何だかもうわからない。
――私はどうなってしまうの……?




