STEP3 傲慢で不敵
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「やあやあサラ姫。ご機嫌はいかがですかな?」
姫と呼ばれた少女は物憂げな顔のまま俯いてしまう。
「……出て行ってください」
「そんなこと言わないで下さいよ。これから我々は夫婦となるのですからな」
「ッ! 誰が貴方なんかと」
「大好きな兄上がどうなってもいいのですか?」
恐ろしい声で凄まれてサラは身をすくませてしまう。
彼女の兄はこの国の元王だった。しかし今では将軍によって幽閉されてしまっている。
「そ、それは…………」
「分かって貰えれば良いのですよ」
将軍は彼女の肩を軽く叩く。
少々骨ばっている。それに華奢で胸も小さい、というかほぼ無い。
無論、顔立ちや所作といった面でいえば非常に女らしい。並大抵の男性を虜にするような魅力を持っている。
だがこの男はそんな物では満足しない。
己の性欲を満たしてくれる肉体的な魅力を持った女性が好きなのだ。ボン、キュッ、ボン、のメリハリがしっかりとある体が好きなスケベだった。
故にこんな発育の悪い小娘など興味がなかった。
王族になれた暁には愛人を作る算段をつけていた。
「ふむ……サラ姫、ちゃんと食事をとっておられますかな?」
「えっ……?」
「いやあまりに発育が悪いので少々心配でしてな。子供とはいえ夜の相手もして貰わねばなりませんので」
サラは言葉の意図を理解しハッとする。
この男は王族の地位だけでなく体も狙っているということ。
羞恥と危機感から彼女は自分を守るように身を抱く。
「うむ……もしや姫が男だったりすることもあり得ますな」
心臓が跳ね上がった。
まさか、裸を見るつもりなのか? いくら男社会といえどそれはあまりに不作法だ。
「どれ、身体検査を――」
傍に控えていた執事が将軍の横暴をやめさせる。
「これ以上の無礼は許しません。たとえ貴方が軍の将軍であったとしても」
「バトラ……どけ、命令だ」
「私の主はサラ様です。貴方に従う道理はありません」
「この犬め……まぁいい」
将軍は苛立ったように部屋を後にする。
サラは安心して胸を撫で下ろす。
「姫、お怪我は?」
「いえ、ありませんわ…………次はもっと早く助けてくださいな」
「御意」
このまま結婚させられたらどうなるのだろうか、彼女は恐ろしさで身を震わせた。
☆☆☆
現在、国の政治は軍部が行っている。
「チッ……忌々しい犬だ。人の楽しみを邪魔しおって」
将軍の後を側近の将校がぴったりとついていく。
「閣下、式の警備についてですが」
「任せる。どうせ何も起こるまい」
ふと、思い出したことがあり歩みを止める。側近はぶつからないよう慌てて距離を取る。
「そういえば変な手紙が届いたそうだな」
「例の予告状の事でしょうか」
「うむ。時に不審者の入国はあったのか?」
「いえ報告はありません」
その言葉に将軍の顔が緩む。
「やはり悪戯か」
「代わりに来客者の報告が」
「それを先に言わんか! して何者だ?」
「連盟政府の外交官です。おそらく結婚式の件かと」
あの女か、と呟く。彼の母親によく似た性格で苦手だったのだ。
だが会わねば連盟政府の不興を買ってしまう。
「仕方ない、会ってやるか」
応接室には重い空気が流れていた。
原因は一人の女性だった。
連盟政府の外交官。気の強そうな顔で濃紺の髪の女性(因みに巨乳)
「遅刻ですよ、デーク・タイターさん」
「やれやれ相変わらず時間に厳しいですな」
「世間話は結構、本題に入らせていただきます」
これだから他惑星の女は嫌いだ、と将軍はひとりごちた。
この国では女は男を敬えと教えられる。要は男尊女卑な思想の教育である。彼はそういった考えが大好きだった。
が、通用するのは国の中だけ。連盟のスタンダードは男女平等である。
「今回の結婚式ですが、連盟側から副議長が出席することになりました」
「なっ……わた、王族の結婚式だぞ!?」
「決定事項ですので」
通常、今回のように重要なイベントには連盟議会の議長が出席する決まりとなっている。
「この時期は特別捜査官の定期報告会があるのでご理解を」
「にしても……」
だがより優先順位が高い会議などがあった場合その限りではない。
「それでは」
外交官の女性は報告を終えると部屋を出ていく。
「この用件女め!」
将軍は怒りに任せて机を叩く。表面に亀裂が走る。
生意気だ、体形は好みだが性格が気に入らない。連盟の人間でなければそれなりの報復をしてやりたい気分だった。
悔しさで歯を食いしばっていると、
「将軍閣下! 一大事ですっ!!」
ドアが開け放たれ伝令兵が駆け込んでくる。
「何事だ?」
側近が代わりに用件を聞く。
「ほ、報告しますっ! 最上級犯罪者のエミリアが街中に現れましたぁっ!!」