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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第四章 イヌネコ合戦
37/80

STEP34 どっちが好きでも

☆☆☆


『種をまたいだ混血は可能なのか?

 

 私はこの疑問にノーと答えよう。


 我々の祖先は“人間”であることは間違いはない。それは周知の事実である。


 しかし我々は“人間”ではない。たとえ自分たちがどんなに“人間”であると思っていてもそうはいかないだろう。


 もし仮に、タイムマシンというものが存在し、我々の祖先がこの変異した姿を見たらなんというだろうか?

 

 私なら“宇宙人”か“化け物”と呼ぶだろう。


 外見上はどんなに“人間”らしくとも中身がそうではない。


 それは我々の遺伝子が証明していることでもある。


 我々は互いに交わることはできない。


 すでに、“人間”以外の種族に進化してしまっている我らには……』






――――とある文献より抜粋












☆☆☆


 猫のようなしなやかな脚。犬のようなつんととがった鼻。

 混血たるゆえんがそこにあった。


「醜いって、そういうことだったのか」


 ミテッドは壷の代わりにベッドのシーツで顔を覆って隠す。


「な、何する、です?」

「恥ずかしがることはないさ。キミはかわいい顔してるぜ」

「ウソ、です……」


 改めて壷の中身をひっくり返して取り出す。

 きれいな小石、かわいらしい財布、ちょっとした生活用品、そして厳重に防水処理のされた二つの物体。

 丁寧に袋を開けると、それぞれ木の塊が出てきた。

 お世辞にも上手とは言えない猫の彫刻と犬の彫刻。猫のほうは何かを掘っているようにみえ、犬のほうは何かをくわえているように見える。


「つまるところ、争いが止まった理由は、ありもしないお宝なんかじゃなかったのか」

【不思議な力を持つ彫刻、というより説得力は高いかと】

「これ、キミの両親の形見かい?」

「はい、です……」


 互いに敵対していた種族、しかしそんな状況でこそ燃え上がる恋というものもある。種族を超えて愛し合った二人はやがて争いを止めることになる。

 そう考えるのが自然なんじゃなかろうか?


「まさか、“ここ掘れにゃんにゃん”と“招き犬”がこんなにもしょぼい、結婚指輪のようなものだったとはな」

「か、返してくださいぃ、です……」

「心配するな、あの女に渡すつもりはないさ」

「うぅ……」


 さて、本物があると分かったならばあの女は必ず手に入れようとするだろう。

 そんなことをしてしまえば、より抗争は激化するだろう。


「M.I.C.、こいつの偽物作れるか? できれば本物よりもクオリティの高いやつ」

【可能です】

「ミテッド、もう顔を隠して生きるのは嫌だろ?」

「いや、です」

「ボクたちで、作ろうぜ。犬が好きでも猫が好きでもとがめられない、そんなミアキスを」

















☆☆☆


「ほう、犬派からの使者とな?」


 うっかり居眠りをしていたネロはその言葉に目を覚ました。

 膝にのせていた子はいなくなっていた。猫は気まぐれな動物なのだ。


「あの、あの……これをどうぞ、です」


 小さな犬顔の女の子が犬の彫刻を差し出しているのが見える。

 その後ろに見える女性……すごく見覚えがある。


「え、」

「(少し黙ってろ)」


 エミリアのほうも想定外だったのか、苦々しい表情だった。


「ふむ、これは……?」

「“招き犬”でございます。犬に猫の行為をさせる、私どもで考えた和睦の印、なのであります」

「出来は悪くない……しかし、なぜ今更? 犬こそが宇宙最高にかわいい生き物だと言っていたのに、だ」

「馬鹿らしく思えてきたのです。犬も猫も、どちらもかわいいに変わりはありません」

「ふん! 猫のほうがかわいいだろう?」

「どちらが好きだっていいじゃありませんか。犬も猫も、もとは同じ祖先の生き物です。人間のように」

「年寄連中のようなことをいう。納得できないからこそ争っているのだ」

「これを見ても、そういえますか?」


 エミリアは女の子のはいていたロングスカートのすそをたくし上げる。

 猫のようにしなやかな脚があらわになる。


「まさか……」

「納得している人たちだって、いるんですよ?」

「……っいいだろう。犬派の長と話し合おう」


 ネロには状況がさっぱりわからなかったが、なにか余計なおせっかいが発生しているのは何となく察することができた。

















☆☆☆


「わぁ……かわいい! おいで~」


 黒いわんこはサラのにおいを警戒し、そっぽを向いた。


「……お、おいで~」


 しかし、来なかった。


「わ、私……臭いですかね?」


 自分のにおいは案外わからないものだ。

 とか言っていると、周りの人々が騒ぎ出した。


「ぁん? 猫派の使者だ?」

「は、はい、です。これをどうぞ、です」


 顔をすっぽりと覆うツボを被った女の子? が猫の彫刻を差し出している。


「ふぅん……猫じゃなけりゃ見事な彫刻だな」

「我々からの和睦の印、“ここ掘れにゃんにゃん”でございます」

「これのどこが?」

「猫に、犬の行為をさせる。犬のほうが優れていることを示しております」

「ほう……だが、俺らのほうから頭を下げる義理はねぇな。それにみんなが納得するかはわかんねぇぜ?」

「これを見ても、そう思いますか?」


 付き添いの女性が女の子の壷を脱がせた。犬のような耳と鼻があらわになる。女の子はぎゅっと目をつむったままだったが、決心したらしく目を開いた。


「っまさか」

「そのまさか、ですよ」

「……ふん。話くらい、してやるか」







 こうして、不思議な彫刻作品が争いを止める。そんな嘘のような噂話が真実となるのだが、それはまた別のお話。



まだこの章は続くよ!

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