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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第四章 イヌネコ合戦
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INTERVAL2 マッドサイエンティスト

薄味のまま新章に突入です。

――――連盟科学研究所


 その女は不気味に笑っていた。

 薄暗い実験室の中、ディスプレイの光だけが彼女の顔を照らしている。

 黒い髪はぼさぼさで枝毛が目立っている。

 ベタな黒縁眼鏡のレンズは反射して目は見えないが、容姿に気を遣えば美人であるということが分かる。

 フレデリック・ソーンはその様子を見て、早くも帰りたくなった。


「あのね、フレッド君。あなたはゴキブリって知っている?」

「ええ、あの黒い害虫でしょう?」


 何度か見かけたことがある虫。

 動きは速いし、急に飛んでくるしで不快指数MAXの害虫。


「そうですそうです! いいよね! 何度も潰されようとも死なず、生きることだけに特化してる!」


 ああ、うざい。

 能力は評価に値するが、この性格は耐えられない。

 と彼もエミリアにそう評価されているが知る由もない。


「すごいですよね! 死なないために進化して、3億年もの間その姿を変化させずにいる! 繁殖力も強くて食べれる」


 あのグロテスクな虫を食べるというのか。

 つくづく、この女は変わっている。


「ある種の完成形だと思わない!?」

「早く要件を言ってくれ」

「ええと……ああ、思い出した。あなたの記憶データを閲覧させて」

「断る、と言ったら?」

「権力を使ってでも除くよぉ……えへへ」


 気色悪い。こんな女に頭の中を覗かれたくはない。


「何を見たい?」 

「例の、エミリアとかいう犯罪者のデータよぉ」

「なぜ?」

「えへへ……フレッド君は人間の塩基の数、知ってる?」


 DNAを構成するもの。かつての人間は4つの塩基の組み合わせによって外見や能力などを決定していた。


「平均すると6~8と言われているね、それがどうした?」

「そうです! 何が原因か不明だけど人間の塩基配列は複雑になっているの!」


 でも、と彼女は付け加える。


「あの、エミリアって犯罪者の髪の毛が手に入ったから、調べてみたんだけど、4っつだったの」

「何が?」

「アデニン、チミン、グアニン、シトシン……原初の人間と同じDNAっだったの」


 彼女は眼鏡を外した。3本目の腕を使って。

 彼女は腕が4本ある。それゆえ人並み外れた作業能力を持っているのだ。


「つまり、エミリアって犯罪者は自然選択の結果、あの能力を得たってことなの! すごいよね! 自力で死なないための進化を遂げるなんて!」

「つまるところ、君はエミリアを調べようというのかい? 僕の許可なく」

「別に別にあなたの許可など必要ない。私が細胞の隅から隅まで調べたいから調べるの! だから記憶データ見せて!」


 利己的で身勝手で自己中心的で忌々しい女だ。

 が、逆らって議長の不振を買うわけにはいかない。

 フレッドは仕方なく記憶データを提供することにした。
















☆☆☆


 生まれてからずっと一人だった。

 

 この世に生み落としてくれた親はいたが育ての親は存在していなかった。


 一人で生きるための強さは手に入れた。


 いわれるがままに人を殺した。


 手にした剣は宇宙の中でも屈指の業物だった。


 唯一の家族だった。


 何も言わない鋼鉄の塊だけが唯一心を許せるものだった。


 でも……初めて、出会えた。


 心を許せる人間に――――









 殺気を感じた。

 首筋をなめられている。

 ネロは覚醒するや否や襲撃者の首筋に手刀を放った。


「うぐぇっ!」


 やけに聞き覚えのある声だった。

 

「……サラ、か?」


 首を抑えて苦しそうにしているのは、間違いなくサラだった。


「えほっ……な、なにするんですか……?」

「悪い……身の危険を感じて」

【マスター、いくら何でも過剰反応ですよ。不審人物は私がシャットアウトしますので】


 それもそうだ。

 怯えすぎていたのか。

 しかし、なんだったのだろうか……?

 さっきの夢は……………?














☆☆☆


「おいM.I.C 聞いてもいいか?」

【私にわかることでもわからないことでもなんなりと】

「……このご時世に、なんの進化もなかった人間ってのいるのか?」


 エミリアは思考を巡らせる。

 が、直観に従って手を進める。


【あらゆるデータベースを参照しましたが、いません。人類の故郷たる地球にさえも】

「だよなぁ……」


 返された手を見てさらに頭を悩ませられる。


「だとしたら、ネロの特性はなんだ……?」

【と、言いますと?】

「ボクは頑丈さ、サラちゃんは瞬発力、だけどネロは?」


 どんどんピンチになっていく。


「ネロの能力だけがわからないんだよ、まだ」 

【先日の念動力がそうなのでは? それはそうとチェックメイトです】

「うがぁぁぁぁっ!」


 エミリアはブチ切れてゲーム版をひっくり返した。


「どうして勝てないのさ! 最弱設定でやってくれているんだろう!?」


 チェスの勝負、彼女は全敗だった。


【仮に勝てる確率を50%として10連敗する確率は0.0009765625%であり統計学的にも有意に弱い。つまりわかりやすく言いますと、クソザコ、というやつでありますね】

「きぃぃぃぃぃぃっ!」

【それに比べ、サラ氏は最強設定の私ですら苦戦するレベルですね】


 もはやエミリアのライフは0だった。


【そんなことはどうでもいいのです。やや、気になることがございます】

「……何?」

【サラ氏の奇行が目立ちます。先ほどはマスターのいる医務室に忍び込んでおりました】

「へいへい、気を付けておきますよ」


 機械相手にもクソザコ認定されたエミリアはしばらくふてくされたままであったという。


ゆるい話にします

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