STEP28 覚醒する力
足元がおぼつかない。
焦点もうまく定まらない。
両足に力を籠める。跳ぶ。
「はぁ~~♡」
石像の上半身が吹き飛んだ。
その傷口に砂粒が集まり再生をしようとするも戻りきる前に足を真っ二つに引き裂く。
何度再生しようと構わない。
何度でもぶっ壊してやればいい。
ちぎったパーツで相手の上半身を叩いて叩いて叩いて潰す!
「おぉいどぉした……もぅ終わり?」
エミリアを怒らせてはいけない。かつてサラはそう言った。
彼女の故郷は宇宙でも屈指の最悪さを誇る。その環境に適応している体は、普段力をセーブしている。自分の体を壊してしまわないように。
要は火事場の馬鹿力である。
怒りがリミッターを解除して本来の力を発揮するのだ。
アイアンクローが石像の頭を捕らえる。
禍々しい顔に罅が入っていく。
「こんなもんで、終わると思うなよ……?」
砕ける。
だが、追い打ちをかけるように膝蹴りを喰らわせる。
壁にめり込み、模様の一部となった。
「……あれ?」
立ちくらみで我に返る。
そもそも、血液をほとんど失っている。激しい運動など厳禁である。
【なるほど、人格を失ってしまうほどの感情が怒り学習させていただきました】
「チッ止めてくれよ……」
力を振り絞ってネロのもとへ行く。
奥の手を使う時が来た。
一緒に置いていた荷物の中から機材を取り出した。
中には彼女の血が蓄えられている。
潜入の前、輸血用に採っていたのだ。
「死なせはしない……絶対に!」
彼女の血液は特殊で、誰にでも輸血が可能である。昔の血液型で例えるならO型の血液。決して凝固しない型なのだ。
ネロの傷口がしっかりと止血されていることを確認し、血管を探る。
だが目がかすんで見えない。
ピントがぼけ、手も震えている。
外したら意味はない。
支えるように手が添えられた。
「エミリアさん」
「早かったな、さすがだ」
砂と血にまみれているサラだ。
「あとは任せてください」
よかった。今回は失わずに済みそうだ。
彼女は安心して体の力を緩め、緊張を解いた。
それがいけなかった。
「woooooooooOOOOoooOOO!!」
「「!?」」
石像が強化されて復活し、襲い掛かってきたのだ。
あまりに速く、とっさに反応できなかった。
せめて、二人を守ろうと前へ出た。
拳が目の前に迫る――――
『 』
弾け飛んだ。
何もない砂に戻っている。
「お前、ネロ……なのか?」
ボロボロで血まみれで、それでいて不思議と神々しさを感じさせる後姿。
手を翳しただけですべてを破壊する力。
普段の彼とは違った所作。
疑われるのも当然な状態だ。
振り向いた。
目は白く輝いている。
にっこりと微笑んだ。
ふらりと、そのまま倒れてしまった。
☆☆☆
遺跡を脱出した後、それは崩壊してしまった。
【ブラディオニキスが要石の役割を果たしていたのでしょう。科学的には検証は不可能ですがそう判断するのが妥当でしょうね】
「なんにせよ、誰も死ななくてよかったぜ」
ネロは輸血をしたおかげでいくらか症状は改善されている。
サラは手のひらがずたずたになってしまっていたのを除けば他は無事だった。
「でも、素手じゃ触れないのが難点だな。これ」
リュックの中で今も輝いているそれは、薔薇のように触れようとすれば傷つける。
そして傷口から血をすするのだ。
「でもいったん傷ついちゃえばもう大丈夫みたいですよ、ほら」
「いやわざわざそうしたくはないな」
サラが手に取って見せてくる。
つやのある輝きが美しい。
「近くの人間の血を吸いつくすって聞いてたけど、そんなことなさそうだな」
「第一、そんな危険なものなんで盗ろうとするんですか? エミリアさんの夢には関係がないですよね?」
ネロにも話していない、夢。サラにだけ教えた最終目標。
星空を手に入れること。
そろそろ、教えてもいい頃合いかもしれない。
「これは、鍵さ。”あれ”を手に入れるための」
「ですからその」
「サラちゃんは宇宙の中心には何があると思う?」
「へ……?」
「ビッグバンで生まれたこの宇宙、当然爆心地はあるよな? そこには何があると思う?」
「何もない……と思います」
「残念、あるんだよ…………もし手に入れれば、宇宙をわがものにできるっていうお宝がね」
「それって――」
「究極の秘宝って呼ばれている。その名も」
”センター・オブ・ユニバース”
「もしそれを手に入れることができたらさ、この宇宙の星空を手に入れたも同然だろ?」
「………………っ」
宇宙の中心。
そこにある究極の秘宝。
それを盗み出そうとする怪盗。
それが、エミリアという人間。
「っすごい……」
「へへっ……手伝ってくれるか?」
「っもちろんです!」
サラは手の中にある物を見つめる。
今日、自分の力でつかみ取ったものが、壮大な夢を助けることとなるのだ。
”血ヲ…………モット、血ヲ”
「へ?」
「どうしたのさ?」
「いえ…………」
声が、聞こえたような気がした。
もう終わってしもうた……
次はもっと長いはずです。




