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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第一章 とりかえばや、とりかえばや
3/80

STEP2 宝石の惑星

 惑星、エクセルシア。

 衛星数、2。通称、琥珀と翡翠の月。

 発見年度、連盟統一暦4982年。 

 生存可能域68%

 居住域36%

 特産品、ダイヤモンドをはじめとする宝石類。


 別名、輝いた星。地表の9割はダイヤモンドから構成されており不能域(生存域ではない場所)には大規模な鉱山が存在している。過去に超新星爆発を喰らったことにより現在の姿になったと言われているが定かではない。発見当時から王政であり王位継承の際は“夕日の欠片”と呼ばれるネックレスを用いる。男女平等の連盟内において男性優位である珍しい国家で女王が存在したことはないらしい。





――――エミリア特製の惑星データファイルより抜粋













☆☆☆



『結婚式の際“夕日の欠片”を盗ませていただきます

 せいぜい無駄な警備をして盗まれないよう頑張ってね♡

        

            怪盗エミリアより愛を込めて』







「うん、これでよし」

「ねぇ何書いてるの!?」


 ロリータ風の服を着た女の子がエミリアに飛びついた。ふわっとしたツインテールが彼女の顔に絡みつく。


「予告状さ。やっぱさ、縛りプレイのほうが楽しいじゃん?」

「うっわぁ……おねぇちゃんドMぅ……」

「ん~人のこと言えるの? 女装大好きなネロ君、着替えるのは上陸直前でいいってのに……」

「?」

「あぁ、それやってるときはリリアって呼べばいいんだっけ?」


 ネロは二重人格である……わけではない。

 だが変装しているときはそのキャラになりきる。

 なりきっているときは本名を呼ばれても反応しない。


「うん! あと女装大好きはやめてね?」

「えーどうしよっかなー」

「……ぐすん」

「あーわかったわかった。ま、しっかし日に日に上手くなってるな。それに女の子っぽい……匂いまでぇ」


 鼻にかかる髪の毛から漂う匂いにメロメロになってしまうエミリア。鼻血が出そうになるのを必死でこらえる。

 彼女はどちらかといえば女の子の方が好きだった。

 かといってレズでもなかった。

 一番好きなのは男の娘だった。見た目は女の子でかつ中身は男。彼女の欲求をベストに満たしてくれる存在なのだ。


「……あんたも早く準備しなよ」

「んにゃ? どうして素に戻ったのさ?」

「身の危険を感じた」

「ったくキミはつれないねぇ」





















☆☆☆


「――はい次の方」


 入国審査はほとんどの国で実施されている。

 偽造が不可能と言われている、連盟政府発行のパスポートで身の潔白を証明しなくてはならないのだ。


「ん、」

 

 派手な格好の姉妹だった。

 姉と思われる少女はとても性格が悪そうだ。整った顔立ちなのだがしかめっ面が固定されていて、常にイライラしてそうだ。

 妹の方は天真爛漫を体現しているような雰囲気である。姉とは対照的な笑顔だが、こういう子に限って傲慢な言動が目立つものだ。


 渡されたパスを認証装置にセットし、情報を読み取る。


『認証完了・情報を開示します:シャルリア・テトラ・リノア 性別・女 年齢・18 身体的特徴・マリンブルーの瞳』

『認証完了・情報を開示します:リリア・テトラ・リノア 性別・女 年齢・12 身体的特徴・ターコイズブルーの瞳』


 いくら目の色がほとんど変わらないからと言って本人確認に使うのはいかがなものか。細かい色合いなど気づくわけがない。


「えー、はい。確認できました。では渡航の目的は?」

「宝石買いに来たの」

「宿泊先は?」

「その辺の高級ホテル」


 そう答えた姉の声に、わずかながら怒りのトーンを感じ取る。


「滞在予定期間は?」

「決めてないわよ! 別にいくらだっていてもいいでしょ!?」

「そういうわけには……」

「なに? 私が悪さするように見えるの? ふざけないでよ! そんなことするわけないでしょ!?」

「……で、では3週間を過ぎるようでしたら長期滞在申請を」

「はいはいはいはい、もういいってもいいの?」

「…………どうぞ、入国を許可します」


 我が儘姉妹は颯爽とゲートを潜り抜けていく。

 まったく、ろくでもない奴らだ。

 心の中で毒づいた。













「ふぃぃぃしっかし疲れるもんだな」


 我が儘なお嬢様というコンセプトの変装をしたままエミリアはVIPラウンジのソファに座り込む。


「バレないように気を使ったことですか? それとも湧き上がる性欲を抑える方?」


 ネロはその妹という変装をしていた。

 二人合わせて“金持ちの特権で好き放題やってるおバカ姉妹”の完成である。偽造パスなどやり方を知っていれば簡単に作れてしまうのである。


「どっちも違ーう! あのさ、ボクは自分と正反対のイヤ~な性格を演じるのが嫌いなのさ。キミと違ってな」

「嘘つけ、ノリノリだったくせに」

「それは否定しないな。それよりなんか食おーぜ」


 このVIPラウンジは個室でありホテル並みのサービスを無料で受けることができる。

 もっとも金持ちは質の悪い物を受ける気はなく利用する客はほとんどいない。


「計画は?」

「んなもん後でいいよ……お、これうまそー」


 部屋の端末を操作し手早く注文を終わらせる。

 数分後、自動配達で料理が届く。


「何ですかこれ?」


 白いクリームに覆われた円柱状の何かに赤い物体が規則的に配置されている。


「ショートケーキっていうらしいぜ。大昔のスイーツを再現したらしいんだ」


 エミリアは金色のフォークを取りケーキに突き刺す。


「それでは早速いただきまぁす……ぁむ」


 豪快にケーキを毟り取って口に放り込む。

 ゆっくりと咀嚼する。

 ふわっとした生地にねっとりと絡むクリーム。食感は素晴らしいものの味が悪い。驚く程素材の味しかしない。

 極めつけは赤い何か。プチプチとした粒と柔らかい身が心地よいが口いっぱいにえぐみを感じた。そして滲み出す汁は恐ろしく苦い。


「……想像を絶するほど不味い」

「こんなに美味そうなのに?」


 ネロも一口取って食べる。顔がみるみるうちに青くなる。


「…………前言撤回」

「だろ? 昔の人はよくこんなもん食えたよな。ま、本物はこんなんじゃないのかもな」


 食べかけのショートケーキをゴミ箱に捨て別の料理を注文する。


「んじゃ作戦会議しますか!」

「了解」


 持ち込みのプロジェクターに電源を入れデータを読み込ませる。同時に注文していた料理が運ばれてくる。肉厚の人口肉のステーキ。香ばしい香りが食欲をそそる。


「今回の獲物は“夕日の欠片”ってネックレス」


 表示された画像の人物は雫形の琥珀に煌くような装飾が施されている首飾りを身に着けていた。


「こいつは王位継承の時と王族の結婚式の時だけ外に持ち出されるんだ」


「つまり一週間後の結婚式の時を狙うと?」

「そーゆーこと、なんだけどな。事情がちょっとばかし複雑なんだよな」


 続いて表示されたのは筋骨隆々とした風の軍人。


「デーク・タイター将軍。今年で42歳、ちなみに独身。16歳の時に入隊。自慢の腕力を武器にのし上がってった脳筋系実力派」

「このおっさんを斃せばいいんですか?」

「冗談よしとけ。返り討ちにあってレイプされるのがオチさ」


 エミリアは人口肉のステーキを頬張る。ほとばしる肉汁が口の中を満たし先程の激マズスイーツの後味を押し流してくれる。


「俺は男だけど?」

「んむんむ……こういう顔の奴って大体ゲイだって相場が決まってんだろ。で、話し戻すけどこいつがクーデターを起こしたらしいのさ」


 画面が切り替わり様々なニュース記事が表示される。


「発端は数カ月前、前の王様が死んで幼い――っても17らしいけど、王子が後を継いだ。つまり傀儡にする大チャーンス♪ ってなるはずだったけどこの王子が中々骨のあるやつでさ、それが上手くいかんわけだ」

「それで業を煮やした将軍サマがクーデターって訳ですか」


 ネロはため息をつきながら付け合わせのポテトをつまむ。ソースと肉汁をたっぷり吸っていて口に入れた瞬間うま味が放出される。


「せーかーい! んでこっからがちょいと複雑なお話。とんとん拍子で成功しちまうんだけどそれを許さないのが連盟政府。さしもの将軍殿もこれには参った、なんか手を打たねばー! さて、キミならどうする?」

「別の王を立てますね。表向きはよくある継承問題ってことにすれば向こうも納得するでしょうし」

「んー悪くないね。実際将軍も似たようなことをしたのさ……王子の妹を娶って自分が王族に入るって形でね」

「でもそれで大丈夫なんですか? ちょっと前まで一般人だったのが王になるって」

「いい質問ですねぇ。これが面白いとこさ、王族に認められれば一般人でも構わないってのが規則なのさ。今の王族は例の妹だけ」

「つまり脅して認めさせればいいって訳ですね?」

「ん、そゆこと」


 エミリアはデータを完全に消去してからプロジェクターの電源を切る。


「さてネロ君問題です。将軍と可哀そ~うなお姫さまの結婚式にはいったいどれだけの警備がつくでしょう?」

「知るか。ま、相当厳しいでしょうね」

「で、そこから脱出する難易度は?」

「あんたなら簡単でしょ?」

「けっ! 少しは心配しろよな」


 ネロの答えにむくれてしまうエミリア。


「なら今回俺の出番は無い感じですか」

「あるよー兵隊に紛れ込んで裏工作してちょ」

「了解です」


 食事と作戦会議を終えた二人は入国した時の“おバカ姉妹”のキャラに戻る。


「行きましょ。こんな薄汚いところに長居したくないわ」

「うん! リリィね、早くお買い物したいの!」



 ドS風の美女と天真爛漫な少女。

 普段の二人からは想像のつかないキャラクターだった。 


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