STEP27 鮮血の秘宝
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迫る石像。
コンディションは――控えめに言って最悪。
意識不明のネロを守るというハンデ。
「おいM.I.C. ボクがどんくらい血を流してるかわかるか?」
【正確な値は判断しかねますが7,8割は失っているかと】
ギリギリ、セーフゾーン。
こんな体に進化してくれたご先祖様に感謝しなくては。
駆け抜けていったサラを追いかけようとした石像にタックルをかます。
全然力が入らないし、思考もままならない。目の前がちかちかとする。
「……きっついなぁ…ははっ」
動かない。たかが石の塊一つがこんなにも重かったか。
「でも、頑張らなきゃなぁ……っ!」
鎧骨格に力を籠め、体をのけぞらせた。
巴投げ。古くから受け継がれている武術の技。
エミリアの師匠は(自称)数千年生きる男。
彼の知識をいくらか叩き込まれたからか、彼女は武術のイロハを多少知っている。
「地獄の特訓、ここで役に立つとはねぇ……思い出したくないけど」
技は、力の劣った者が強者と渡り合うために生み出した技術。
力が劣った今、技を使って護る!
☆☆☆
【サラ氏、落ち着いてください】
「黙って!」
突き当りを曲がる。さっきから同じところをぐるぐると回っているかのように感じる。
「っどこ……?」
【先ほどから同じフロアを巡回していますね】
「わかっています! でも――どこから下へむかえばいいんですか……っ!?」
ブラディオニキスは神殿の最下層に収められている。
しかしそこへ行くためには一番上に行くルート以外はない。
一番上に来たものの、どこを探しても降りる道がない。
「このままじゃ……っ!」
【100m前に熱源があります。それに未知の放射性物質を検知しました】
なんの変哲もない壁。
これが――
「へっ!?」
触れようとした瞬間、すり抜けた。バランスが崩れて何もない空間に吸い込まれていく……。
温かい。
でもそれでいて湿っている。
鉄の、血の匂いがする。
サラはゆっくりと、目を開いた。まぶしい。
柔らかい光が空間を満たしている。
体を起こすと、服が水を吸ったように重かった。
頬がむずがゆくてこすると、手が血まみれであることに気付く。
それだけでない。辺り一面、血の海……。
「っう……」
吐き気を催したが寸でのところでこらえる。
明りの源を探してみる。
赤黒い宝石。
濡れたような輝き。
きれいな卵型で、脈打つように輝いている。
台座に安置されていなくとも、わかる。
「あれが……」
宇宙最悪の秘宝、ブラディオニキス。
人の生き血を啜って美しく輝く、宝石。
「綺麗…………」
吸い込まれるように手を伸ばす。
近づければ近づけるほど手に激痛が走る。
それでも手を伸ばした。伸ばさずには、いられなかった。
表面はしっとりとしていて、温かく。
滑らかな曲線は触れていて気持ちがいい。
持ち上げたとき、初めて彼女は自分の手がずたずたになっていることに気付くも、全然気にならなかった。そればかりか、周りの血を見ても嫌悪感がなかった。
いや、見とれている場合ではない。
「M.I.C. エミリアさんに盗ったことを伝えてください!」
【……………………】
「応答してくださいっ!」
【…………………】
通信が遮断されている。
この空間では電波が届かないのかもしれない。
サラはブラディオニキスをリュックにしまい、服をちぎって傷だらけの手に巻き付ける。
自力で脱出するしかない。
☆☆☆
一方、エミリアと石像との戦いも終わりに差し掛かっていた。
「おい…………またかよ」
関節技でへし折った腕が瞬く間に再生した。
最初の巴投げでつぶれた頭も一瞬で元通りだし、何度も与えた致命的ダメージも無意味だった。
【再生速度に変化はありません。おそらく回復力は無限でしょうね】
「そんな分析いらんっつーの」
相手が生物なら、再生で体力を消耗させる戦略もあっただろう。
再生すればするほど遅くなるなら何度もダメージを与えればいい。
「ダメージが即時回復とか……ゲームならクソゲーだね」
【潔く死を選びますか?】
「冗談は大概に――――っ!?」
むかつくことにこの石像、すばしっこいし力も強い。
辛うじて躱すも鋭い痛みが顔に走る。
「…………?」
エミリアは妙に間の抜けた動きで頬に手を触れた。
血がついていた。
それに痛い。
切れている……?
顔が傷つけられている。
「 お い 」
石像の右腕が消失していた。
部位欠損はそう簡単に修復できないのか、傷口を押さえてよろめいている。
【エミリア氏どうされました?】
「 ボ ク の 顔 を 傷 つ け た な … … ? 」
血を失い、力が出ないはずの体。
しかしいつも以上の威力を持っている拳。
「 死 を も っ て 贖 え 」




