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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第三章 進化の秘宝
28/80

STEP26 力の代償

失速してきた

☆☆☆


 遺跡の入り口には数多の言語で警告がされていた。

 言葉の通じない相手も想定しているのか、髑髏のイラストや危険を思わせるマークも書かれている。

 

「”ここに有益なものはありません。即刻立ち去ってください”ってか? 余計なお世話だよ」


 そんな警告文などお構いなしに観音開きのドアを開けてしまう

 中は外の何倍も明るく、暗い所に慣れた目は痛かった。

 温かな風が中から吹いてくる。血の匂いがひどかった。


「二人とも、準備はいいな?」

「ああ」

「はい……」


 遺跡に足を踏み入れた。鳥肌が立つような緊張感があった。

 通路には禍々しい石像が並べられている。

 一歩踏み出すことに力を奪われて行っているようにも感じる。

 見たところトラップは仕掛けられていなさそうだ。

 エミリアは師匠の話を思い出した。

 ブラディオニキスを手に入れるためには、血が必要だと。

 要所ごとの難関を突破するためには自分自身の血液をささげなければならないのだ。

 そう――目の前に現れた壁のような。


「行き止まり……なのか?」

「でもほかに道なんて……」


 ネロとサラは戸惑ったように壁を調べている。

 血を流さなければ、通れない。だが奥の手を使うにはまだはやい。


「通れる……はず」


 エミリアは指先をかみ切ってわざと流血させる。

 重力に従って滴るかと思いきや、壁に吸われていく。

 そして少しずつ道が開けていく。


「なっ」

「きゃっ!」

「これが、犠牲ってわけだ」


 三人が通れる幅が確保されたのを確認し、傷口をふさいだ。

 この先何度同じ関門があるかわからない。なるべく温存しなくては。



 




 ――――階層をまたぐごとに血を捧げていき、次第にエミリアだけでなくネロも突破に貢献するようになっていく。まだ傷を負っていないのはサラだけである。


「いくら回復するったって限度があるよな」

 

 耐久力なら人並み外れてあるエミリアでも、度重なる流血は辛いようだ。

 一瞬、奥の手に頼ろうと考えたが、あれは帰りまで取っておく必要がありそうだ。


「で、ここまで来てあれかよ」


 最後の、ひと際大きな壁。

 ご丁寧に案内まで書かれている。


【この先、通りたくば生贄を捧げよ。と書かれております】

「冗談じゃないぜ……こんなとこで死んでたまるかってんだ」

「なら、どうします?」

「生贄は、一人だろ……なら、ボクが半分、、ネロくんとサラちゃんが合わせてもう半分。これで通れるんじゃないか?」

【理論上は、そうかもしれませんがリスクが高すぎます】

「んなもん――」


 ためらうことなく、傷口を大きく広げた。

 血が勢いよく噴出した。


「承知の上だ」

「ま、危険は今に始まったことじゃないですし」


 ネロも新しく傷口を作り血を流す。

 壁は貪欲にそれを吸い上げていく。

 



 サラはそれを見て、吐き気がした。

 血が、いっぱい流れている。そういったことに耐性がない彼女には少々刺激が強すぎた。

 自分も流さなくてはならない。でも、怖くてできない。

 二人のように、指の先をかみ切ることなど。

 いや、ある。傷を負う方法。

 壁にある石像のとがった部分。そこに手を思いきりひっかけてやればいい。

 だが、ためらったら痛いだけで終わってしまい。何度も何度も打ち付けなくてはならなくなる。

 怖くて体がすくむ。

 でも……やらなければ。

 歯を食いしばり、手を振り上げ、そのとき体が後ろに引かれた。

 代わりにネロが前に出てきていた。


「え……?」


 止める間もなく、彼は自分の手首を切り裂いてしまっていた。


「おいネロっ!」

「これで……一人分だ」


 二人で半分ずつ。それで一人が出血したのと同じ量になる。

 だがしかし、人間離れしたエミリアはともかく彼は一般的(?)な人間だ。

 全体の半分の血を失ってしまえば、死んでしまう。


「ネロさんっ!」

「いいんだ、これで……お前にはお前にしかできないことがあんだろ。俺にはこれくらいしか、できることがない……」

「ごめんなさい……っ! 私の、わたしのせいでっ!」

「サラちゃん! 早く止血するんだ!」

【お急ぎください。マスターの出血する速度が速すぎます。動脈まで傷ついている可能性があります】


 慌てて止血点を探し押さえる。壁には通り道ができ、お宝への道は開けていた。

 だがネロは意識を失ってしまっていた。

 血を流しすぎたのだ。


「っ……ボーっとしてる間はなさそうだぜ」


 通路が揺れた。奥から、例の禍々しい石像がやってきている。

 今までの飾りではない、侵入者を殺すための守護者として。

 明確な殺意を持ってやってくる。


「奴はボクがここで引き留める。だからサラちゃんは先へ行け」

「っ……はい」

「M.I.C.、マップは?」

【はい、サラ氏をバックアップする体制は整っております】


 顔についた血をぬぐって立ち上がる。スタートダッシュを決め石像の認識を一瞬ごまかしすり抜ける。

 

 ネロは道を切り開いた。

 エミリアは道を守った。

 なら道を行くのは――

「っ私がやらなきゃ! やらなきゃっ……ッ!」


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