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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第二章 天才アンドロイド
22/80

STEP20 “俺は男だ!”

やばい、収拾がつかなくなってきた。

☆☆☆


「まずい……っ!」


 ネロが飛び出しそうになったのをサラが引き止める。


「待ってください! 今行っても返り討ちにあうだけですよッ!」

「離せっ! あの人を見捨てるわけにはいかないんだよ!」

「助けたいならなおさら我慢してくださいっ! 策もないのに向かってもなんの解決にもなりませんよ!?」

「何もせずに見てろっていうのか!? 悪いが俺にはできない」


 彼女の手を振り払って宣言した。


「お前とは違って短い付き合いなんかじゃないんだ。あの人は――エミリアって人は俺のことを育ててくれたんだ。薄情な親に見捨てられ死ぬ運命だった俺を! 今度は俺が助ける番なんだ!」


 サラは努めて平常心を保とうとした。こぶしをぎゅっと握って耐えた。


「お前に何と言われようと俺は行く」


 昔の彼女ならおとなしく引き下がっただろう。しかし故郷を飛び出してからおとなしさとかそういったものはほぼなくしてしまっていた。


「だから――待てって言ってんだろーが!!」


 自慢の瞬発力でネロに蹴りを入れ馬乗りなる。


「むやみに突っ込んだところで返り討ちに遭うだけってのがわからないのか!? 助けたいなら策を考えるべきなんだよ!」

「…………」

「………………はっ!」


 普段の彼女からはかけ離れたキャラになっていたことに気づいたサラは慌ててネロの上から飛びのいた。


「す、すみませんでした…………」

「いや、いい。俺も考えが足りてなかった。だが……策をねったところで、奴は宇宙の中でも1、2を争うキレ者、通じるか」

「人間じゃなければいいんです」


 サラは機材の中から一本のメモリーを差し出す。


「これは……私が作っていた保安プログラムの一部です。これと未完成と言っていたM.I.Cに組み込んで――」

「完成させる、か」

「無謀なのはわかってます……でも」

「どうかな……だが俺がただただ突っ込むよりはましだ」


 ネロはメモリーを受け取ると単身、敵の巣窟へと乗り込んでいった。































☆☆☆


『そこの角を右です!』


 サラの指示に従いためらうことなく分かれ道を切り抜ける。

 なるほど、トラップなしの通路を用意しておいて自分の部下を呼び寄せたのか。卑劣な男だ。

 先に進もうとしたとき向こうから武装した一団がやってくるのが見える。


「ってぇっ!」


 隊長らしき人物の号令でアサルトライフルが火を噴く。

 銃弾は重力の関係で下には落ちても、大きく上にそれることはほぼない!

 ネロは大きく跳躍して弾幕をかわし近くの二人にラリアットを食らわせる。が、さすがに訓練されており仲間ごと撃ってこようとする。

 それを利用し銃口を互いに向けさせ自滅させるように仕組む。隊長格が振るう特殊警棒を白羽どりしそれをもぎ取ってカウンターで首筋にお見舞いする。

 無力化できたのを確認し先に進む。

 あと少しで――――


「時間稼ぎになればよかったが……やはり無駄だったか」

「っ……どけよ」


 目の前にフレデリック・ソーンが立ちはだかる。扉はその後ろにあった。


「どけと言われて動くどく門番がどこにいる?」

「なら力ずくで――」


 奴は頭脳派だ。不意打ちなら――


「顔面に右ストレート」

「!」


 狙いを読まれ攻撃を防がれる。


「予想通りだ」

「ッ!」

「君は焦りを感じ回し蹴り」


 またも読まれよけられる。


「続けてもう一度、僕が足払いをかければ転倒する」

「!?」


 軸足を払われて倒れる。


「不思議かい? 行動パターンを読まれるのが」

「別に……」


 読まれるのなら、反応できない速度で攻撃すればいい!


「もし、反応できそうにないなら……」


 ネロのラッシュを的確にかわしながら答える。


「さらに先を読めばいい。二手、三手先をね」

「うっ……!」


 両腕をつかまれる。


「君もよく頑張ったほうだよ……女の子にしてはね」


 禁断の一言。

 どうやら宇宙最高の頭脳の名は飾りなようだ。


「先が読めるんだったら――わかるよな」

「うん?」

「 俺 は 男 だっッ!!」


 思い切り頭突きをかました。

 ガッ! と小気味のいい音が響いた。

 






















☆☆☆


「動くな……」


 エミリアの首筋にそっと剣先が向けられる。

 敵の用心深さに呆れてため息をつく。


「っ……キミ、なまえは?」

「セイレーン」


 ……やはり違うか。宇宙には何人か同じ顔の人物がいると言うが、まさかこんなところで遭遇するとは。

 よりによって、天敵の仲間として。

 

「それ、どこでてにいれた?」

「…………」


 相棒が使っていた一対の剣。あの時どこかへ消えたと思っていたが、まさかこんなところにあるとは。


『後は任せた……!』


 彼女はいつも身に着けている”形見”に手をやる。

 運命ってのは皮肉なものだ。






















☆☆☆


 ――男?


 予測し損ねた頭突きを喰らってフレッドはよろめいて尻餅をつく。

 あいつはどう考えても女だろう。骨格的にも、顔的にも。


「じょ、冗談はよくないな……」

「嘘なもんか」

「君はその……ついてるのか?」

「もちろん」


 ネロは真顔で即答した。

 本当に男……?

 それ以前に、このやりとりに既視感を覚える。


『っ――――あたしは女だッ!!』


 あの女、エミリアの元相棒のように。

 ほぼ男のようなあの女のようだ。


「隙あり、だ!」

「っ!?」


 推理に夢中で先読みを忘れていた。

 こめかみに蹴りが命中した。めまいで立ち上がることができない。


「助けられると、思うなよ……」

「いや、できるさ。俺には優秀な仲間がいるからね」













☆☆☆


「――――エミリアッ!」


 ネロが部屋に突入した瞬間、仕掛けられた。とっさにそれを蹴りで受ける。


「お前っ!」


 歌う殺し屋、セイレーン。ネロをあと一歩で討ち取ることのできた少女。


「あなたはなぜここにいるの?」

「助けるためだ」


 剣を踏みつけ奥へ踏み込むがもう片方の剣で防御され膠着状態となる。


「それは彼女の運命とは異なる。彼女はここで終わる」

「んなこと、させるか!」


 ネロは飛びのき拳を構える。


「……あなた、何者なの?」

「俺は……」


 再度の問いにネロは拳を握りしめ、答える。


「俺は――――怪盗エミリアの相棒だッ!」

「「!!」」


 その答えにセイレーンだけではなく、エミリアも驚いていた。

 一瞬の隙を逃さずネロは懐に飛び込んだ。その攻撃はすかさず防がれる。


「それだけではないはず……あなたは、何者なの!?」

「皆まで言わせるなっ!」


 漆黒の剣、ヨミを奪い取る。彼はそれを振り上げ白銀の剣、エドを大きく弾き飛ばす。

 武器を失ったセイレーンは何もすることができずただ押し倒されてしまう。宙を舞っていたエドをキャッチしたネロは彼女の首筋にクロスするように突き刺した。


「俺の、勝ちだな……」

「――――そうとも限らないな」


 ネロは背中にすさまじい衝撃を受けたのを感じる。

 そして全身がしびれて動かなくなる。


「おま……え」


 あまりにも短時間で回復したフレデリック・ソーンの襲撃を受けてしまったのだ。


「まだ政府の認可を受けていない電子銃だ。理論上は最大電圧で人を殺せる」


 ふらつく足取りでネロのそばまでくる。そして突き刺さっていたヨミとエドを抜き取る。それをうけたセイレーンは硬直したままのネロを押しのけ立ち上がる。


「ジ・エンドだ」

「……ってなるかよっ!」


 エミリアの声が響いた。フレデリック・ソーンの体が宙を舞った。


「っ言ってくれるじゃんか……ネロ。そこまで、思ってくれていたのか」


 歯を食いしばり拳を突き出した姿勢で動きを止めるエミリア。肩で息をし、立っているのもやっとという体だった。


「ボクも、期待に応えなくちゃ……せめてこの()は返さなくちゃな」

「このっ…死にぞこないがッ!!」 

「んっ!」


 大きく踏み込み電子の銃弾を避け距離を詰める。


「君の鎧骨格は健在、というわけか」


 彼女の身体には通常の筋繊維とは異なる第二の筋肉が存在する。皮膚と普通の筋肉の間に位置し非常に高密度な筋肉の層がある。パワーの補助、超人的なバランス能力、そして並大抵の攻撃が通用しないという絶対的な防御力。

 ゆえに鎧のような第二の骨格――鎧骨格と呼ばれる。

 これが彼女の有する、進化の果てに得た能力なのである。


「お前なんかに遅れはとらないってことだ!」

「だが、絶好調ではあるまい?」

「っ」


 そう、いくら第二の筋肉の層があるとはいえ通常の筋はすっかり弛緩してしまっている。

 パワーなど落ちてしまっている。

 しかし不調なのは相手も同じ。


「お互い様じゃないのか!?」 

「ぐっ」


 膝蹴りでフレデリックソーンは地に沈む。

 そう、彼は本質的には弱い。策を用い相手の動きを常に先読みすることによって戦闘に勝利してきた頭脳派なのだ。


「……か、勝ったと思うなよ」

「負け惜しみだな……っ」


 だがエミリアも限界だったようで倒れてしまう。

 遠くから大勢の足音が聞こえる。

 ここまでか、エミリアは意識を手放した。




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