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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第二章 天才アンドロイド
20/80

STEP18 究極のメモリー

わりと迷走してる

☆☆☆


――次の日


「まーーーったく! ケガして帰ってきて!」


 エミリアたちが拠点としている宿へ到着したネロを待っていたのはお説教だった。

 ひとまず濡れた体を(強制的に)拭かれ、服の代わりに与えられた毛布をかぶったまま剣をつかみ取った時の傷を治療されつつ、お説教を食らっていた。


「むしゃくしゃしてたからって喧嘩はよくないじゃないか! それに雨が降っているというのに宿も取らずに……お金なら十分渡してるだろ!? 風邪でも引いたらどうするのさ?」

「違う……喧嘩したんじゃなくて、襲われたんだ」

「なっ! それはどこのどいつだ? ネロくんを犯ろうなんて最低な奴だな!」

「そっちじゃない、いきなり勝負を挑まれたんだ…………例の殺し屋にな」

「…………なんだって?」


彼女の包帯を巻く手が止まる。


「妙だな……偶然にしちゃ出来すぎてる」

「俺だって、信じたくはない……奴が本物じゃないってな。だが――――」


『――――運命とは、神々の記した書物――――』


「……なあ、俺は…………何者なんだ?」

「ん? そんなんボクが知るわけないだろ」


 エミリアは良いことを言おうと思ってそう返すと、ネロは涙をこらえるようにこう言った。


「そう、だよな……忘れてくれ」

「ゑッ!? ちょ泣くことないだろ!? ボクはただ――」

「――――うるさいっ!」


 今まで寝ていたサラが怒りをぶちまけた。


「……静かにしてくださいよぉ…………」

「ご、ごめん……ぁ」


 彼女が振り返った時にはもう、ネロはもうそこにはいなかった。

 また出て行ってしまったのかと思ったが、シャワーを浴びる音が聞こえたので一安心する。


「あーもう!」


















☆☆☆


『つまり、何が言いたいのだね。フレッド君』

「――――あなたのやり方では手ぬるい、ということです」

『……君のやり方も、適切であるとは言えないがな。また違法兵器で片づける気かね?』

「まさか……彼女は一流の存在だ。そんなことをしては失礼でしょう?」

『念のため言っておくが、エミリアには手を出すな。彼女は我々の手に負える存在ではない。そもそも彼女はt』

「知っていますよ。が、それはあなた方の事情であって僕の行動を制限するほどの理由にはなりえない」

『フレッド君……君という男は――――ぁっ……………フレデリック・ソーン』

「っ議長殿ではありませんか……僕のような一介の捜査官にどういったご用件で?」

『あまり、私を失望させるな…………』

「――――っ」

『エミリアは私の()なのだ……傷つけていいのは私だけだ…………』

「っ彼女は、あなたを憎んでいるはずですよ。失礼ですが僕はあなたのことを」

『失望、させるな、と言ったはずだ…………』

「………………っ承知、しました。議長殿」

『それでいい』
















☆☆☆


「ネロくんも帰ってきたことだし、作戦会議でもしようか」


 お昼過ぎ――ようやくサラが起きたのでエミリアは端末をテーブルに置き、情報を開示する。

 表示されたのは手のひら大の立方体。


「綺麗な宝石ですね」

「メモリーチップですよ」


 ネロは間違いを指摘されて赤面してしまう。


「今回の狙いはこれの中身を削除することさ」

「破壊、ではなく?」

「できたら苦労しないんだな、これが」


 エミリアは呆れたように肩をすくめる。


「この入れ物を作るのに奴らがどれだけの金を溶かしたか……聞いたら正直引くぜ?」


 コンピューターチップに使われる“セルニウム”は宇宙最高のレアメタル。分子構造が細胞に似ていることから命名されたこの金属は、ほぼ劣化せず膨大なデータを半永久的に保存できる媒体として重宝されるのだが問題点がいくつもあった。

 一つ、採掘が困難であること。

 二つ、加工が難しいこと。

 そして三つ、鉱山の存在する惑星が危険星域にあること。


「――こいつは純度100%のセルニウム製のメモリ。つまり世界最高のコンピューターチップってワケさ」

「そんな高価な物に何が入ってるんです?」

「連盟政府が(無駄に)時間をかけて作ったAI、通称M.I.C」

「――みっく? 何の略称なんですか?」

「ボクに聞くなよ――で、そのAIが暴走したってんで今は施設ごと凍結されてんだとさ」

「それなら遠隔操作でアンインストールかハッキングで……」

「オンラインのネットワークに接続した途端に、逃げ出されておしまいだとよ」


 ネロは機械音痴なので二人の話を全く理解できていなかった。


「しかも施設内部は侵入できないよう多重のトラップが仕掛けられている。連中が作ったワクチンプログラムを打ち込むことさえ難しいってさ」

「でしたら電力供給を絶ってメモリだけ排出してしまえば」

「施設の性質上、内部バッテリーで一週間は持つ上にそんなことすりゃAI様も再起動するんだと」

「…………すまん、俺にもわかるように説明してくれ」

「要するに、誰かが中に入って対処しなきゃいけないの」

「しかも知識だけじゃなくトラップを回避する体力も必要です」

「なんとなくわかった」


 と、いいつつ何もわかっていない。

 そんな彼の心など露知らず、エミリアは作戦を説明する。


「まず、ボクは施設に潜入する。そしてネロくんとサラちゃんは外からバックアップ。ネロくんは論外だしサラちゃんは目的地に着く体力が無さそうだからな」


 正論だったので二人は言い返せない。


「でも、あなたの安全はどうなんです? もしかしたら……」

「罠、かもな」


 彼女はネロの懸念をあっさりと肯定する。


「だからこそのバックアップなのさ。妙な動きがあれば逐一報告してほしいんだ」

「了解です」

「がんばります!」

「うむ、じゃ……決行は――」


 作戦会議は順調に進んだ。

 しかし、ネロの顔は曇ったままだった。






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