STEP1 吾輩は怪盗である。
吾輩は怪盗である。
名前はあるが別に名乗るほどのものでもない。
どこで生まれたか、大体見当がついている。
でもまーここに書き記せる場所ではない。
はっきりしているのは、物心がつく頃には全宇宙に名の知れるようになっていたのである。
そして今現在。女装が大好きな相棒と共に毎日楽しく仕事をしている。
これは我々の日常をつ
☆☆☆
「にゃっ!?」
不意に原稿用紙が取り上げられる。
「なに書いてんですか?」
「んー航海日誌」
おどけたように首を傾げた少女、エミリア。
「ボク達の日常を宇宙全域に発表しようと思うんだ。これはそのための第一歩さ。なんてったって全部で二十巻になる予定だからさ、魅力的な書き出しがいいと思うんだけどキミは」
振り返ると原稿用紙が紙屑になっていた。
「ひゃぁぁぁぁ! なんてことするのさ!」
「こんな捏造小説を広められられては困るので」
彼女の相棒、ネロは氷のような笑みでそれをゴミ箱に放り込む。
「何言ってんのさ、嘘偽りのないノンフィクションじゃん」
「誰が女装大好き少年だッ!!」
強力な蹴りがエミリアに向かって飛ぶ。
彼女は上半身をのけぞらせて躱す。
「へん! そんなかわいい顔でよく言うぜ」
ネロの黒い髪は肩にかかるくらい長く、吊り気味の目からは長い睫毛、すっとした鼻筋にきれいなピンク色の唇。加えてほっそりとして小さめの輪郭は女性を思わせるが生物学上は男である。
対するエミリアは白くて腰まで届く長い髪、猫を思わせる顔つき、アルビノであるので目の色はきれいな赤だ。
「かわっ……でも中身は健ぜ」
「ほうほう、今日は黒のレースですねぇ。中々大人なシュミですなぁ」
一瞬の出来事だった。
ふわっと風が吹きネロのズボンがずり落ちていた。
その下に穿いていた女性もののパンツがフルオープンで公開されていた。彼の両手はかわいらしく振り上げられていた。まるで女の子のようだがY染色体をもつ男である。
「これはッ……あんたが男物を勝手に捨ててるから」
「あ、そうだ。次はどんな子に変装したい?」
エミリアは女の子の写真を扇のように広げて見せる。
「えーっと、この右から三番目で――って違う! 大体いつもそうやって」
ネロがズボンを穿きなおしていると船体が大きく揺れた。バランスを崩してエミリアを押し倒してしまった。
「キャッ! もう……ちょっとからかっただけでムキになんなよ」
「い、いやこれは明らかな事故だって」
「んふふふ……いいんだよ? ボクだって女の盛りなんだからそういうことは大歓迎さ」
「……頭打ちました? いったい何百年前のぉウッ!」
股間に衝撃が走った。冷汗が出てきた。体が固まって息が詰まる。
「おい、それ以上言ったら玉潰して女にすっからな?」
エミリアは激怒した。今年でウン百歳に迫ろうという己の年齢を知られてはならないと行動を起こした。
「ボクは永遠の17歳、いいね?」
美少女な見た目をいいことに盛大にサバを読んでいる。だがネロはこの悪行を止めるだけの力を持っていなかった。仕方なく首を縦に振った。激しく振って賛同の意を表した。
「うむ、よろしい♪ それじゃ目的宙域に着くから準備だぞ」
彼女たちは怪盗だ。
宇宙各地の秘宝を手に入れるべく活動している無法者であった。