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Phantom thieves  作者: 鮫田鎮元斎
第一章 とりかえばや、とりかえばや
13/80

STEP12 夕日の欠片

「……んにゃ? 反応が薄い気がするな~」


 エミリアはきょとんとした顔で辺りを見回す。

 どちらかというと超展開についていけないという感じだ。


「っ直ちにこの女を捕らえよッ!」


 将軍の指示があるも、兵達は動かない。


「あっれ~? たった今キミは解任されたって自覚あるぅ~? キミの指示じゃ動かないですよぉ」

「何を言う! あんなデタラメを信じる阿呆が何処にいる!? さっさと捕らえんか!」


 エミリアは呆れたように肩をすくめた。


「やれやれ、アホは君さ。ついさっき自分の解任書類にちゃぁんとサインしてたじゃないか」

「何っ!?」


 彼女は先程の用紙を受け取って内容を大声で読み上げる。


「え~“我々大臣議会は、デーク・タイターの将軍の地位を剥奪し、後任者が決まるまで軍の統率権を王族へ一時的に委任する” だってさ。ここにサインもしてあるぜ、君とサラ王女の」

「馬鹿を言えッ! そこにいるのは王女を名乗る偽物に過ぎん! よって私はまだ将軍だッ!」

「へぇ~ニセモノ? 証明してみなよ」


 兵達は将軍の命に従うか否かで右往左往し、参列者達は呆気に取られて二人のやり取りを見守っていた。


「くっ……そんなこと――」

「――まぁまぁ、タイター殿、落ち着きなさい」


 と、激昂している彼を押さえたのはにこやかに微笑む紳士。


「ふ、副議長殿!」

「ん~キミなんだ、噂の二番手サンは」

「エミリア氏もからかうのを止めなさいな。タイター殿、そんなに証拠が欲しいなら確かめてみればいい」

「しっ、しかしどの様にして……?」

「パスの認証機能、偽物ならば反応はしまい」

「っそうでしたな」


 将軍は嫌らしい笑みを浮かべた。


「さぁ! やってみろ偽者め!」

「ああ、わかった。私のパスを」


 エミリアはレン王子(本物のサラ)に彼女自身のパスを投げて渡す。

 上手くキャッチするとそれをスライドさせ生体認証のパネルを露出させる。


「よく見てろ」


 きゅっ、と親指をそこに押し付ける。

 ややあって電子音声が響く。



『認証完了・情報を開示します:サラ・オルタンス・カリナン 性別・女 年齢・17 身体的特徴・琥珀色の瞳――』



「証拠は、これで十分か?」

「馬鹿なっ……!」

「まだ疑うのでしたらわたっ……僕も認証しましょうか?」


 サラ(本物のレン)はたたみかけるように自分のパスを掲げる。


「っ親指だ! 何か仕込んで――」



『認証完了・情報を開示します:レン・オルタンス・カリナン 性別・男 年齢・17 身体的特徴・翡翠色の瞳――』



 黙らせるように認証音声が響く。

 サラが顔を真っ赤にして将軍を睨み付けていた。


「これで十分ですか?」

「くっ……っ、待てお二人の主張が正しいことは認めましょう。ならば――」


 将軍が反撃に出た。



「あなた方は()()()を犯していることになるっ! つまりその書類は無効である! 全軍、反逆者を直ちに捕らえよッ!!」



 漸く、命令が通った。

 会場に待機していた兵達が武器を構えた。


「うわわわわぁ~ネロくんへぇるぷ!」


 エミリアが叫んだ瞬間、何処からか銀のお盆が投擲された。それが見事に将軍の後頭部へ命中する。


「うぐぇっ!」


 何故か半開きになっていた扉から可愛らしいメイドが現れた。


「全く……もったいぶるからこうなるんですよ」


 無論、正体はネロである。


「っつ 貴様ぁっ……()の分際で生意気な」

「俺の我慢が限界を迎える前に種明かししてあげてください、なるべく早くっ……!」


 お約束ともいえる間違えで怒りを爆発させそうになってるネロ。


「はーい……じゃ、種明かししてやるさ」


 エミリアはいじけたように祭壇の上に座り、傍らにあるお盆の上に乗っていたネックレスに手をやる。


「最初に言っておこう! 彼女達は偽証罪など犯してないのだよ!」

「何っ!?」


 将軍はまだ頭が痛むのかそこを押さえている。そしてその言葉に再び兵が動きを躊躇わせる。


「偽証罪について定義を教えてくれないか、副議長?」

「ふむ、公的な書類において虚偽を記載する、或いは合意のなされた取引の場で偽ってはならない。大まかにはこうですな」

「て、訳で……二人はただ、互いの立場をとりかえっこしていたってだけで、全く法には触れていないのですよ」


 ニヤッと彼女は手元のネックレスを持ちあげてみせる。


「くっ……動くなっ!」


 追い詰められた将軍が懐から円柱状のスイッチを取り出した。


「いまこの場には大量の爆弾がしかけらぶっ!」


 将軍の頬にネロのドロップキックが命中した。


「もういいよな……?」


 ひらりと着地すると、彼は将軍の胸ぐらを掴んだ。


「何度も言わせるなよ――」


 そしてゆっくりと拳をふりかぶる。



「 俺 は 男 だ ッ!」



 メキッ……と嫌な音が響く。

 ネロの拳が将軍の顔にめり込んだ。



「ぐっ、くっ…………」


 鼻の骨が折れてしまったのか、大量の鼻血を流しながらそこを押さえる。


「っきさま、男の癖に、女の格好を、するなど、なんと情けないことか…………っ!」


 自分の間違えを棚に上げて、ネロの事を非難する。スイッチを手放してしまっているがそれには気付いてない。


「はん! 情けない? ばっかじゃなかろうか」

「何だとっ!?」


 将軍は顎から血を滴らせながらエミリアの方を睨み付けた。


「男だから、とか女だから、とか……一体いつの時代の話さ? このご時世、性別の垣根を越えた人種は驚くくらいいるのにさ、彼らは一体どうやって振る舞えばいいって話だろ?」

「は…………?」

「サラちゃん――あ、お姉様の方じゃなくて、彼じょ、じゃない、彼はたまたま男の体で女の子の心を持って産まれてきただけのふっつーの男の娘なのにさ、理解の無いバカ共のせいで肩身の狭い思いをしてきたんだろうな」

「あ、当たり前だろう! 王族は民の模範となるべき存在だぞっ! 多少の不自由は強いられて当然だッ!」



「ならやめればいいじゃん、そんな窮屈な職業。てかそう書類に記載したし」



「ゑッ!?」


 サラ(お姉様で無い方)がすっとんきょうな声を上げて驚いた。鳩が豆鉄砲を喰らいまくったような顔をしている。


「ちょっ、聞いてないですよエミリアさん!」

「うん、言ってないもん。ちゃんと読まずにサインしたキミが悪いのさ」

「そんな…………」


 彼女はべったりと崩れ落ちてしまった。


「ん? まて、貴女が何故それを持っている?」


 レン王子(お姉様の方)がエミリアの不審な動きを指摘した。


「あ、バレちゃった?」


 エミリアは可愛らしく舌を出し可愛い子ぶった。


「ちゃんと予告はしてあったさ、結婚式の際にこの“夕日の欠片”盗ませていただきますってね」

「っ貴女には恩がある。しかし国宝を盗む人間を見逃すわけにはいかない! 兵よ、あの者を捕らえよっ!!」



「――――動くなッ!!」


 行動を起こしたのは将軍だった。

 左手には爆弾のスイッチを、右手でネロの首根っこを押さえつけている。


「あらら、だから返り討ちに遭うって言ったのに」


 エミリアは呑気に感想を呟く。


「レン王子……私を騙した方の、だ。一言でも話したら起爆させるぞ。おい自称怪盗」

「誰が自称だバカヤローッ!」

「……怪盗のエミリア、相棒の命が惜しかったら妙な真似はするな」

「安い脅しだなぁ……ここで起爆すればキミだって助かる保証はない」

「命を惜しんで成し遂げられることなど何もないッ!」


 目が異様にぎらついていて、呼吸も荒い。


「タイター殿、悪いことはいいません、そんなことはおやめなさいな」

「ククク……副議長が殺されれば私も報復を受けるでしょうが、あなたの後任を決めている間にこちらも反撃の準備を整えることができる!」

「無駄ですよ、あの方は私が死んだ時に備えて次の方くらい選んでいるはずだ。そうでしょう? エミリアさん」


 副議長はエミリアに問いかけた。


「ふん! ボクに聞くなよ」

「どちらにせよ、連盟を敵に回していいことなどない。そうでしょう?」

「黙れッ! 私の計画に! 狂いはッ! ないッ!」



 ぐっとスイッチを握る手に力がこもった。



 エミリアはそれを見てあることを思いついた。


「へーそーなんだー。ボクがちょっかいかけたぐらいで狂う程度なのにねー」

「ダマレェッ! 貴様の相棒がどうなってもいいのか!?」

「えー思ったことを言っただけだけどなぁ」


 彼女は自然な動作で通信機のスイッチを入れる。


「(サラちゃん、返事をしないで聞いてくれ)」


 お姉さま奪還計画(命名、エミリア)を円滑に進めるため、サラ(男の娘の方)も耳に小型の通信機を仕込んでいる。


「ウルサイッ! 私の全生涯をかけて練り上げた! 最高の計画ヲッ! 愚弄するなぁっ!」

「へー赤ちゃんの時から考えてたんだーすごいすごーい(次にボクが大声をあげたら迷わず将軍にタックルしてくれ)」


 サラ(男以下略)は少し驚き目を見開く。


「(キミならできる、頼んだ)」

「上げ足ばかり!」

「そもそもキミは〝王族”が〝王族”たる所以を知らなすぎるのさ」

「なにっ!」



「知りたいなら――見せてやるッ!!」



 エミリアが叫んだ瞬間、何かが猛スピードで将軍にぶつかった。

 右手の呪縛からネロは脱出し、ぶつかった衝撃で力んだせいでスイッチが潰れてしまった。


「〝王族”は大体その種族において最も進化の恩恵を受けた存在だ」


 すかさずレン王子(お姉さま)が指示を出し、将軍が押さえつけられる。


「エクセルシアの住人は基本的に筋肉の総量、とりわけインナーマッスルに優れた種族だ。つまり、その〝王族”は短時間なら爆発的なパワーを生み出すことができる」


 将軍は抵抗する素振りを見せていたが押さえつけられ、おとなしくなった。


「ふん! ……私を捕まえた程度でいい気になるなよ…………女の王など立ててうまくいくものか」

「ぷっ……改めて言うけど、ばっかじゃなかろうかね」


 彼女はネロとサラを介抱しながら将軍を嗤った。


「キミにこいつが〝夕日の欠片”と呼ばれる理由を教えてあげよう」





 むかしむかし、あるところに、それはそれは美しい女のひとがいたそうな


 彼女のことが好きで求婚してくる男は星の数のようにいたが、誰も彼女の眼鏡にかなわなかった


 でも、何度フラれてもしつこくせまる男がいたそうな


 あまりの熱意に、女はこう言った


『あの夕日をとってくることができたらあなたと結婚してあげるわ』


 男は笑顔でうなずくと、その夕日に向かって走っていき、その輝きを掴んでむしり取った


 そして夕日は瞬く間に結晶のようになったという


 彼女は驚いてこう言った


『すごいわ……その力があれば民を治められるじゃない!』


 男はこう返事をしたそうな


『その私を虜にできるあなたのほうが王にふさわしいのではないですか?』


 夕日の欠片を受け取った彼女は、争いの絶えなかった国を統一し、王になった


 こうして、夕日の欠片は平和の象徴として受け継がれることとなりました











「――――この話は、実話をちょびっとアレンジして作られたおとぎ話さ。つまりこの国の初代は女性だったってことなのさ」

「馬鹿を言えっ…………」


 将軍は意気消沈したまま連行されていった。


「これにて一件落着、かね」

「まだだ、弟を勝手に追放し国宝を盗み出そうとしている不届き者がいる」


 レン王子がエミリアに迫る。


「捕まえるか?」

「……確かに貴女には感謝してもしきれない恩がある」

「それで?」

「だが見逃すこともできない」

「なんだよー結局どっちなんだよ」

「私は書類上は王だがまだ正式に即位したわけでない。つまり独断で逮捕することはできないのだ」

「ほーそうだったんですか!」

「だから、レンに決めてもらう」


 と、彼女――――サラ(お以下略)にすべてを丸投げした。


「ええっ!? わた……僕が決めんですか?」

「ああ、任せる。お前の決めたことなら信用できるしな」


 ようやく状況が飲み込めてきた参列者たちが、固唾をのんで見守る。


「え、えっと……」 

「あ! いい事思いついた」


 エミリアが悪そうな笑みを見せた。

 そしてぎゅっとサラに抱きつく。


「王位継承が終わるまで持ち主は全王のキミだ。そしてどういうわけかキミは王族から追放されてしまっている。てことはさ、これただのネックレスだってことにならない?」

「ならないな。王が持ってるから国宝、ではない」

「そっか……じゃ」

「えっ!?」


 不意にサラをお姫様抱っこするエミリア。


「捕まえろって言われたら困るし持ち主ごと盗ませていただきます」


 そんな暴論に頭を抱えるネロ。


「はぁ……また、ですか」

「また、だよ。じゃ逃げるぞい!」


 猛ダッシュで式場の入り口まで走り抜ける。


「それでは予告通り〝夕日の欠片”はワタクシがいただきました! 皆さま、またどこかでお会いしましょう! Hasta siempre!」




 レン王子はあきれてため息をついた。


「あれが怪盗か……」


 だが口の端はつりあがっていた。


「弟を、よろしく頼んだ」

























☆☆☆


「はぁ……綺麗だねぇ」


 母船に戻った後、彼女はずっと戦利品を眺めていた。


「そうですか」


 ネロは返事をするのがめんどくさくなって、適当に答えた。

 ここまでなら、いつもと同じだった。


「エミリアさん、ネロさん、お茶が入りましたよ」


 サラが、お茶を運んできた。

 まるで昔からいるかのように。


「……どうしてこうなったんだろうね」

「俺に質問しないでください」


 王宮を脱出した後二人はちゃんと彼女を解放した。

 どうせ町中に放置しても優柔な執事が迎えに来るはずだと考えたからだ。

 しかし、ついてきた。

 どんなに言ってもついてきた。

 曰く、昔からの夢だった、らしい。


「よく考えたら、しっかり警備された王宮から抜け道なしで脱出できるなんておかしいもんな」

「ええ、昔からよくやってたんです。怪盗になったつもりで脱出する遊び」

「……はぁ」

「これからよろしくお願いします!」


 サラの純粋なお願いに苦笑するエミリア。


「何とかしてくれよネロくーん!」

「自業自得、です」


 こんなことなら盗まなければよかった。

 エミリアは己の奇策を呪うのだった。




















☆☆☆


『――――ひょんなことから二人はたがいの身分を偽っているなどという噂話がもちあがるようになってしまいました。


 それどころか二人の身の回りで悪いことばかり起こっています。


 妹は言いました「やはり、これが僕達のやってきたことの報いなのか」


 兄は言いました「安心してください、私にいい考えがあるのです」


 彼の提案で、二人はたがいの身分をもう一度入れ換えることにしました。


 するとどうでしょう?


 二人にふりかかる災いは無くなったのです!


 こうして二人は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ』




――――とある惑星の昔話より抜粋

第一章、完結

時間があったら加筆修正するかも

そのときはお知らせするつもり

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