9.青りんご風味のぼく
平凡な午前中、ばったりとイヌペンとサボンは道ばたで出くわしました。イヌペンは野花を摘んだ帰りで、サボンはイヌペンの家へ出向くところでした。
「おっ! イヌペン! ちょーどいい! ちょっと助けてほしいことがあってよ」
サボンは偶然そうに喋りかけますが、イヌペンは気づかないふりをしてそのまま行っちゃおうとするので、引きとめようとすばやく飛びかかりました。
「おめーと関わるとことごとくとんでもねーこと起きっから、やだよーん」
「そう言わずにっ!」
「わーった。だから、くっつくな。トゲが気持ち良すぎて動けねーだろ」
イヌペンの表面はうっとりとしていますが、心底面倒くさそうな態度であしらいます。サボンは困ったように口を引きつらせながらも内心はほっとしていました。
「で……何よ!」
イヌペンはじろりと睨みまくってききました。サボンはうわめづかいで答えます。
「あ、あのさ……オレの親戚? がひとりで明日オレん家に来るのよ」
「ふつーじゃん」
イヌペンは親戚が来るだけで何を助けるのかと思いました。サボンは一呼吸おいてシリアスなニュアンスで続けて言いました。
「そいつさ、その親戚さ、めっちゃデンジャラスでミステリアスなやつなんだ!」
イヌペンは静かに倒立してサボンの話を聞きました。サボンは真面目に聞いていなさそうなイヌペンを見るないなや、「おい」と注意しますが、「気にすんな。マイブームの一環だから」と聞き入れませんでした。そしてイヌペンは素朴な疑問をぶっつけてみました。
「ねえ。その親戚って男なの? 女なの? 年齢はいくつよ?」
「あっ、うん。男だ……と思う。年はねぇオレより6つ下。でさぁ、そいつに対してイヌペンにやって欲しいことがあるんだけど……いい?」
「おう。いーぞ。そのかわりにぃ……」
逆立ちしたままのイヌペンはちょっとしたトンチをきかせたくて意地悪な問題を提案します。
「おめーの父ちゃんを一日貸してくれんならね!」
「おっおやオヤジをっ?」
愛する父親を天秤にかけられてしまったサボンは引きつった顔をさらに大きく引きつらせると、弾かれたように父のいる自宅へ直行しました。
「ゥやぢぃーっ!」
サボンは何とも可愛らしくて、ぶりっこぶった声で父を呼びました。当の父はぱつんぱつんの風呂敷を担いで、押し入れの前でコソコソしています。サボンに見つけられてしまうと父は震えた声でこたえました。
「なんだい? サボンよ……」
「いーから、ちっと来いや」
笑顔でそう言った後、サボンは父を強引に引っ張って連れ出そうとしました。
「コラッ! 私は今から用事があるんだっ! もおーっ!」
「いーから」
サボンは暴れ散らす父を無常にもその風呂敷に包み込みまして、首を長くして待つイヌペンの前へ持っていきました。
「ほんものを持ってくるとは思わなかったけど、まあいいわ。ようしその件のった! なにをすんのか知らねーけど!」
ふたりは詳しい内容を打ち合わせる為にイヌペンの家へ上がりました。サボン父入り風呂敷は玄関に放置し、イヌペンは窓際に飾ってある植物の手入れをしながら、サボンの案件をたずねました。
「で? 具体的におれはなにをしたらいいの?」
「おまえ歌うの得意だろう。その歌でさあ、そいつを正気に戻してやって欲しいんだ! いい歌を聞いて何かを思い出すことってあるやん?」
「……何でオレの歌じゃないとダメなの?」
「そ、それは……」
サボンはためらうように口ごもりました。
「そーか。オレの歌はそんなに上手いのかっ!」
イヌペンのその浮かれた返答にサボンはひっそりと安堵しました。
「まああとはおもいっきり、言い聞かせるように歌えば良いと思うぞ」
イヌペンは「そぅ!」と、やる気満々です。そしてイヌペンはターゲットの顔が気になってきたのでなにか顔の特徴を訊きました。するとサボンは紙にターゲットの似顔絵を書き上げてみせ、イヌペンはこれを確認しました。
(つぶらな目に大きな口のにやけた笑顔。典型的な赤ちゃんの表情だな。久しぶりに会うみたいだし今の顔がわからないのは仕方ないかな。サボンは身の危険を感じているようだけど、詳しいことを聞くのは野暮ってものだし、オレがなんとかする)
13秒後、イヌペンは決心した表情で言いました。
「よし。サボン、今日おめーん家に泊まるわ」
それを聞くと、サボンは心配した顔で訊きました。
「かまわねーけど、ピーコちゃん一人にしちゃっていいの?」
「一日だけだから大丈夫だって! あいつはオレよりもしっかりしてるし」
そこに調度良くピーコがあらわれてイヌペンは「な!」と同意を求めます。呆れ顔のピーコは「はいはい」と簡単にあしらって去りました。
愛用の枕だけを持ったイヌペンは「よし。行くぞーっ!」と、意気揚々にサボンとともにサボン家へとおもむくのでした。とても静かになったイヌペン宅ですが、玄関のほうからすすり泣く声があることにピーコは気が付きました。すると警戒するように近づいては離れを繰り返し様子を見るなど、ある程度安全を確保したうえで声のする袋をほどくと、コンパクトに体育座りをしてうつむいているサボン父がおりました。ぎょっとして身を引くピーコに対し、父は頬を紅潮させて笑顔をみせました。
「サボンのお父さんがなぜここに……?」
「あ……ピーコちゃん。すまないがしばらくここにいていいかな。こんなみっともない雰囲気で息子に合わせる顔がないのでね」
「はい、もちろんゆっくり休んでください。またうちのバカが無茶なことをして迷惑をおかけしたと思います」
「いや、それはいいんだ。それよりもサボンの成長が嬉しくてね、つい涙腺が緩んでしまって。親を利用してまで友達と仲良くしたいんだよ息子は。」
サボン父の言葉はピーコにはあまり理解できませんでした。それでもイヌペンたちの所業とサボン父の感じた意味がずれていることはわかりました。
一方、あのイヌペンはサボンの家に着くやいなや、急に威張り出したのです。まずは夕飯をサボンに作らせました。「早く作れや。飯」とイヌペンが言うと、気の良いサボンは「はいはい、今作ってるよ」と、怒る事もなく言うとおりに調理してあげました。作られた夕飯をおいしく食べ終わったのでイヌペンは腹ごなしをすることにしました。
「そうだサボーン、肩こっちゃったから揉んでくれない?」
「あ゛ー」
サボンは少し嫌々しながらも言われる通りにします。そんなお人好しな行いのせいか、注文がもはや止まりません。「オレのかわりに風呂沸かしといてー」とか、「そこの弱々しいサボテンに水やっといて」とか、「この本トゲだらけでめくりにくいんだけど。かわりにめくってくれない?」とか……。これにはさすがのサボンも我慢の限度を越えてしまい、近所迷惑を顧みないような怒声をあげました。
「いい加減にしろっ! おまえ、いったい何様のつもりだよ! いちいち言われなくてもわかってるわ!」
「サボンのつもりかな」
イヌペンはちょっぴりも悪びれる事もなく言いました。感情を逆なでされたサボンはイヌペンに回し蹴りを繰りだそうとしたその時です。ガチャッと玄関のドアが開いた音がするので、驚いた二人は息をのみます。
玄関の主はちょび髭がトレードマークのサボン父でした。やけに静かな状態のふたりをみて父は不思議そうに首をかしげました。
「君たち、私をあのまま置き去りにしてヒドイじゃないか。あれはなんのつもりだったの、んもう!」
二人は緊張がほぐれて脱力しました。すると父はますます不思議がって、どうしたと訊くのでサボンは答えました。
「……ホラ。おやぢが明日親戚のアイツが来るって言ったじゃん。そいつだと思ってさ、まだ心の準備ができてないし」
「ああ、なんだ。でも明日って言ったろ? アイツは時間にはすっごーくキッチリしているから、時間はまだあるしあせる必要はないさ」
それを受けて二人は安心したのか油断したのか準備を後回しにして、二階の寝室で就寝してしまいました。
――夜中。サボンはなにかの気配を感じ、ふと目を覚ましました。きっと誰かが夜のトイレに行ったのだろうと思いました。
「んだよ、なんだか誰かに名前を呼ばれたような気がしたけれど。変な隙間風でも吹いてんのかなぁ」
しかし見渡してみると、家族やイヌペンは自分のとなりで川の字になっており、気配の正体は別のものだとわかってしまったのです。おばけ、泥棒、それとも。不安な気持ちになると体が震えだします。その震えも大半は自分由来ではありませんでした。これは小さな地震です。小さな揺れが長く、段々と大きくなってゆくので、まだ大した地震でもないのにサボンは窓を開けようとして立ち上がりました。
窓の外には見慣れない外灯ほどの明かりがひとつありました。ぬらっと光るその明かりは点いたり消えたりするのですが、サボンが窓の前に現れるとピカピカと激しく点滅しだしたのです。その明かりがちょっと遠のくと同時に、明かりの下方に半月状の暗い空間があらわれました。これがなんなのかわかっちゃったサボンは血走った眼球を飛び出さんばかりに大きくし、歯を食いしばってどうにか平生を保ちました。
「おややじぃ、イヌペ! 早く起きろろ、おろ、外、バケモンがバケモンが外にいい!!」
サボンは震えてそう言いながらイヌペンとソボンを叩き起こしました。イヌペンは目をこすりつつ窓の外を見ると、あの親戚の似顔絵と同じ顔が額縁に収まっていました。
「サボンさんよ、こんな夜中に起こされてなにかと思えば、あの似顔絵の展覧会ですか。随分立体的になってるるるるるるるるる!!!」
あの顔がなんなのかわかっちゃったイヌペンは今にもウ○チをもぐしちゃいそうな格好をしましたが、どうにか我慢できました。
「おっ。気が早いねバーボンちゃん、もう来ちゃったのかあ。よっぽどサボンお兄ちゃんに会いたかったんだろうね」
サボン父が悠長に語る窓に映えるやつこそ、サボンにとって問題の親戚バーボンでした。ちょうど午前0時すぎに来訪したサボン宅同等の体格をもつ彼は、家から少し離れた場所で恥ずかしそうにもじもじしています。
「聞いてねーぞおやじ、いや聞いてたけれども想像以上の大きさなんだけど。一年ちょっと前にあったときはかわいい赤ん坊だったのにどうしたらあんなふうに……。」
「そっか、サボンはバーボンちゃんのご家族のことを知らないんだった。てっきり教えたつもりだったけどね。そういう家系なのよ、みんなおっきいよ」
「やべぇよ、前にあいつと変な約束しちまってさ、それを覚えているとしたらオレ本当に死んじまうよお!」
サボンの言葉にイヌペンはムッときました。嘘をつかれたことよりも話題の種そのものを隠していたことに苛立ちました。
「怒らないからオレにさせたかった本当の目的を言えや」
「あいつ、バーボンと抱っこしてやってくれ……」
「断るっ!」
「断わんないでっ!」
拒絶されたサボンはイヌペンに泣すがりますが、断るっ断るっと念仏を唱え返されるだけでした。変わらぬ状況にイヌペンは諦めたようにため息をひとつつきました。
「いーかサボン。さすがのオレでもあいつの尖った丸太のようなトゲは受け切れそうにねえぞ。それ以前に……。まあ、一緒にいってやっからお前も覚悟を決めろや」
「わかった……。逃げんなよイヌペン」
にげねえからと顔をひきつらせて言うイヌペンもサボンに逃げぬよう釘を刺しました。ふたりは引っ張り合いながらバーボンのもとへ赴きます。これに気がついたバーボンは気持ちをこらえきれずにジタバタしだしました。サボンとイヌペンはびっくりして駆け足で逃げ出すと、バーボンは大口をあけてうれしそうにサボンを追いかけて追い詰め、ついに彼を額にすくい取ったのです。
「サボにいちゃんつーかまーえた!」
「たすかっ……」
比較的針の少ないバーボンの顔に埋まるのも束の間、サボンは徐々に滑り落ちてバーボンに飲み込まれてしまったのです。この事故なのか事件なのか判別できない事態に、影で息を潜めるイヌペンや子供の運動会をほほえましく眺めていたサボン父の表情が硬直したのは言うまでもありません。
「おい! なにサボンを飲み込んじゃってるの! 今すぐに吐きだせよ!」
イヌペンがバーボンに詰め寄るとバーボンは「むりだよお! できっこないよお」と、小さいこどものようにぐずり出して収拾がつかなくなりました。ここに笑顔のままのサボン父が駆けつけます。
「イヌペン君。私のヒゲで命綱をつくるからそれを使ってサボンを助けにいってくれるかね?」
イヌペンは無言で強くうなずくとサボン父はヒゲを勇者にまきつけて砲丸投げのごとくバーボンへ目がけて放り投げました。バーボンの開きっぱなしの口内に着地したイヌペンはおじゃましますと一礼し、ゆっくりと奥へ足を進めます。バーボンがヨダレをだらだらと垂らし始めたのでサボン父がこれを問うと、イヌペンが舌を通過したときに甘酸っぱい風味を感じたからだと答えました。サボン父のピンと張るヒゲが突として緩みます。ヒゲを引っ張り返すも手応えがなくヒゲの末端は千切られたような跡だったので、もしかするとイヌペンの身になにかあったのかもしれません。そこで父はバーボンに「私も息子たちのところへ行かせろ」 と語気を強めて言い、バーボンは苦い薬をようやく飲み込んだような表情で役割を果たしたのです。
少し時間はさかのぼってバーボンの内部にイヌペンが入り込んだときのことです。ちょうど食道にいるイヌペンはこれを滑り台のように楽しんでいました。
「生のウォータースライダーじゃないの。たのすぃー!」
ちゃっかり頭にライトを装着して視認性を確保しているイヌペンは怖いものなしに滑り続けます。ですが楽しい時間は長く続かないもので、滑走途中で体にくくりつけられた安全紐が仕事をします。
「いいところなんだから空気読めやこのヒモっこ! もっと伸びんかーい!! しぇいしぇいっ!」
軽くヒゲを引っ張るといとも簡単にビチチッとちぎれちゃいました。摩擦熱によるものなのか、もとよりキューティクルが痛みまくっていたのか定かではありませんが、しおれるヒゲと一匹は悲しみに打ちひしがれました。
仕方なくゆるやかな傾斜を徒歩で下ると、壁面にびっしりと生える喉毛にサボンが挟まり込んでいます。イヌペンはサボンの名を優しく呼びかけますが、半開きの眼に口からヨダレだらだらの正気を失ったように呆けている彼に届くことはありませんでした。
「むううううううううスこオオオオオーーーーッ………(とイヌペンくん)」
上空からサボン父がものすごい勢いで落下して食道の奥へ消えていってしまいました。父親の魂の叫びに反応するかのようにハッと覚醒するサボンはぐるりと見渡します。
「イヌペン……こ、ここは?」
「たぶん奴の喉のあたりだよ。サボンは運良く喉毛に引っかかってよかったね」
サボンは喉毛なんて聞いたこともなかったので何のことやらと疑問に思うも、自分の体を挟み込む棘状のものをみて納得します。
「もしかしてわざわざオレを助けに来てくれたのか?」
「そーだけど別に気にすんな。この状況を楽しんでいるしね」
「すまねぇ! しかしバーボンの規格外の大きさよ。昔に会った時は手のひらサイズなみに小さかったのに!」
「話がちがうやん。ったく、知ったふうな口をたたくんだから。オレを身代わりにしようとしやがって」
「だって! 一度しか会わなかったし、昔のおぼろげな記憶だったんだもん! そんなのわかるかよっ!」
ひとつ一息をつきます。サボンは冷静になってもう一度周りを見回してみます。
「この、喉毛をつたって登っていけば外に出れっかなあ」
ためしに喉毛を伝って登ってみると意外と行けそうでした。ここでイヌペンはボソボソとつぶやきました。
「そういや、サボンのとーちゃんがさっき下に落ちていった気がするけど……いいのかなぁー」
するとサボンは反射的に父を追うように身を投げました。イヌペンは親子愛っていいねと思いつつ一人で帰路につき、のどちんこが見えはじめたところでバーボンが咳をしました。その弾みでイヌペンは外へと吐き出され、娑婆に出るな否やフッと鼻で一笑しました。
「何がおかしいの……」
バーボンが訊くと、イヌペンは「クックックッ」と普通に笑い、つぎに「ハッハッハッ」とあざ笑いました。バーボンはなんか知らないけどキレだしました。
「何がおかしいんだおまえっ!」
するとイヌペンは「どあーっはっはっはっ! あはっ、あひっ」と笑い転がります。バーボンはふと足元後方へ振りむくと、早くも大便となって排出されたサボン親子がコロリンとあったのです。バーボンはようやく理解しました。
「これを見て笑っていたんだなっ……」
イヌペンは「いや……」と否定して、にやけながら言いました。
「よくみると君の顔、しわがいっぱいなんだもの」
バーボンは脳天に悲しい衝撃をおぼえました。イヌペンとバーボンの口論が始まります。バーボンの顔のしわは生まれつきだとか、そもそもしわの何に笑える要素があるのだとか、そのしわの溝に小石がたくさんはさまっていて、さもあみだくじをたどるように石が流れ落ちる様子が楽しすぎたとか、それのなにが楽しいのか理解できないので教えてほしいとか。
ほどなくバーボンは「君の言いたいことは分かったよ!」と、イヌペンの笑った理由についての口論をしぶしぶ止めるも、虫の居所が悪いイヌペンはちょっぴりいたずらしたい衝動に駆られました。
「物を知らなさすぎるっていうか、純粋すぎるというかさ、おめーはサボンといつまで対等だと信じているんだ? 体の大きさは断然に違うし、何よりみぞにサッカーボール大の石ころが挟まるんだから。サボンの背中を追いかけていたお前はとっくの昔からサボンを怯えさせる大鬼に違いないんだよ。『らくせきちゅうい!』の看板でも体にくっつけとけや。遠くからでもその山肌が見えるようによおー。」
イヌペンがそう言い終わると、バーボンは即座に生意気な豆粒へ踏みかかりました。イヌペンは初手を難なく避けることが出来ましたが、踏み降ろされた足による地響きによって身動きが取りにくくなりました。「んんん」と不気味な風切り音を立てる次の一撃は確実にイヌペンを捉えていたのですが、バーボンは決着寸前でつるりと足を滑らせてしりもちをつきました。
「なんなの! なにもかも僕の邪魔ばかりして!!」
バーボンは狂ったように叫びました。バーボンはぬかるんだ足元へ目を向けますと、あのうんこまみれの親子が肩車をする姿がありました。息子をかつぐ父は言います。
「私たち親子で吹き出した汗により、君はツルルッて滑ったのだ。そして私たちはその発汗によって汚れを洗い流せるから一石二鳥というわけだ!」
「いいこと思いついた。バーボンがさらにサボン親子を肩車? すればいいんじゃないかなあ。一体感でいえばだっこと大体一緒でしょ」
なるほどと父が納得するので試しにバーボンの頭上まで登り、ぐっとくるポジションをバーボンと確認しあいました。一番良いポジションがわかった途端、バーボンはうれしそうにあさっての方向へ駆け出してしまいます。静かさを取り戻した場所に置いてけぼりのイヌペンはサボン家に戻って布団に包まれますが、一睡もできそうにありませんでした。
「丸く収まったはずなのに、悔しくて眠れねー」