序章 円環のヒストリア 4
「明日の朝までに用意しとくね」
「ありがとう。じゃあね」
新聞部に社会科研究部に文化研究部。
全部を回り終わる頃には日はとうにくれ、夕食の時間まであと少しもなかった。
その成果もあり、両手は新聞部と社会科研究部から借りた部誌をいれた紙袋でふさがっている。
文化研究部のものは明日の朝貰いに行くことになっていた。
――急がないと
この学校は時間に厳しい。
遅れたら夕食抜きだ。
ふと、自分が何かを忘れているような気がしたが、あまり気には留めないことにした。
その日は、夕食をとり終ると部屋に帰り、勉強もそこそこに床に就く。明日の朝が早いからだ。
ルームメイトの沙耶ちゃんがなにやら不思議そうな顔で見ていたが、いったいなんだったんだろう……
そして、次の日。
寮内の生徒全員が集まる夕食とは違い、朝食は各自好きな時間に取れる。
部活で朝練があることなどがあり、全員が同じ時間に揃うことができないからだ。。
わたしは珍しく沙耶ちゃんより早く起き、食堂で朝食をとり、身支度を整えると、急いで部室棟へむかい、文化研究部の部屋を尋ねる。
文化研究部と社会科研究部の違いがわたしには未だによくわかっていないのだが、文化研究部の方が活動時間が長いらしい。その証拠に、この部活には、文化部でありながら朝練がある。
――朝練って何をやってるんだろう?
そう思いながらドアをノックする。
「どうぞ」
という声があったので、ドアを開ける。
思ったより人がいない。というより二人しかいない。
うち一人はわたしが部誌を貸してもらえるよう頼んだ支倉さんだ。
「西城さん、おはよう」
「支倉さん、おはよう」
とりあえず、挨拶をする。ちなみに、西城というのは私の苗字だ。
「頼まれてたもの」
と言って、支倉さんは紙袋いっぱいの部誌を手渡してくる。
「ありがとう」
「別にこのくらいなんてことない」
せっかくなので聞いてみた。
「社会科研究部って朝練してるんじゃなかったっけ?」
「普段は、ね。今日は特別。二人しか集まらなかったから何もできない」
「どうして?」
「どうしてって、そりゃ明日が締切だからでしょ。『文集』の」
「あ」
またしても、完全に忘れてしまっていた。
***
美冬ちゃんとは聖堂の近くの東屋で落ち合うことになっていた。
荷物が多くなるので、いつもの踊り場まで行くのは大変だろうとの理由だ。
今はもっと気が重い。
――もうだめかも……
レポートの締め切りは明日まで。
昨日は怪談のことで頭がいっぱいで、肝心のレポートのことを忘れてしまっていた。
まさに、本末転倒。
今更何を書けばいいのだろう。
七不思議は論外だ、何せあの美冬ちゃんから「怪奇現象」とのお墨付きを貰ってしまっている。
仮に今日一日で何かしらの解決を与えることができたとしても、まともなレポートにはなるまい。
そうこう考えているうちに東屋についた。
「お礼よ」
浮かない顔をしているわたしに美冬ちゃんが差し出したのは何枚かの紙切れ。
「これって……」
表紙らしきものには、何やら仰々しいタイトル。
「昨日言った通りよ。いらないなら返してちょうだい」
それは、美冬ちゃんが代筆したレポートだった。
「これ、いいの? わたし何にもしてないのに」
わたしが知る限り、美冬ちゃんはこういうことを嫌っていたはずだが……
「いいのよ、だってこれから、もっと面白いものを調べるんだから」
そう言って、美冬ちゃんは微かに笑った。