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すいかと花火


   ― よん ―



 俺は、涙した。

 地面にくずおれ、頭を抱えて。


「どうして、こんなことを忘れてたんだ……っ」


 大事な人を守れなかったことを。

 こいつが、死んでいたという事実を。


「しかたないよ」


 泣き崩れた俺の背中に、あいつは覆いかぶさってくる。


「いやだったんだもんね。つらかったんだもんね」

「どうして、お前はそんな平気でいられるんだ! 俺のせいで、お前は……こんなところ、連れてさえ来なければ……!」

「ううん。そんなことないよ」


 耳元で囁く。その声は、本当に、本当に、ただただ優しかった。


「責めろよ!『お前のせいで死んだ』って!」

「ううん。責めないよ」


 嗚咽混じりで、続ける。


「だって。あのとき、君は言ってくれたんだもん。ここはね、私と君の、二人だけの秘密の場所」

「……」

「嬉しかったよ。私だけの特別なんだって」

「ああ、特別だったよ。すごく大事だったんだ」

「うん」

「ここを見つけた時、すごくワクワクしたんだ。お前と一緒に来たいって、嬉しくてっ! 俺、やっと気づいてたのに……おまえのことが――」

「ストップ」


 後ろから手が回される。立てられた人差し指に、俺の口が塞がれた。


「これ以上は、言っちゃダメ」

「どうして……」

「言っちゃったら、もう、帰れなくなっちゃうから」

「帰れなく、なる……って、なんだよ……!」


 そう言われて、俺は気づいた。

 目の前に見えるこいつの人差し指が、透けて見えているということに。


「おあっ、おまえ……おい!?」

「……ねぇ、見て?」


 そう言ってこいつが指さしたのは、満点の星空。


「もうすぐだよ」

「なにがもうすぐなん――」


 こいつの言葉が合図だったみたいに。空高くから音が響き、炸裂した。

 それは、夏の夜空を飾る、大玉の花火。

 空に上がっては散り。星に負けないばかりのきらびやかな火の粉は、そっと地上へと降り立っていく。


「俺は、おまえとこの景色を見たかったんだ」

「知ってる」

「そして、持ってきたスイカを一緒に食べて『綺麗だね』って言いたかった」

「そうだね」

「そのときさ。俺、考えてたんだ。お前にさ、どう切り出してやろうかって」

「うん」

「いま思い出したから、さっ……! 今、言ってやるよっ」


 俺の目から、また涙が湧き出てきた。

 それでも、それを拭うことなく、一段と大きく咲いた花火を見続けて、


「『――』」


 そう言った。

 重みも光もなくなった、後ろで転がったなにかに向けて。



   ― * ―



『ねぇ』

『なんだよ』

『きみはさ、スイカと花火、どっちが好き?』

『俺? そうだなぁ。花火かな』

『花火? どうして?』

『だって、きれいじゃん? スイカは食べあきた』

『そう。ちなみに、私はスイカの方が好き』

『なんでさ? いっぱい食ってんじゃん』

『好きなものに、理由なんている?』

『わからないな』

『……私だって、花火なんかよりもっときれいになって、きみをふりむかせてやるんだから』

『……え? なんだって?』

『なんでもないよ。おんなのこはソージュクなんだからねっ』



   ― * ―



 ――実は、あの時の言葉、俺には聞こえていたさ。

 ――じゃあ、お前は? さっき言った俺の最後の言葉、聞こえてたか?


「『俺も、花火よりスイカのほうが好きだ』」


 後ろで転がっていたスイカに向けて、俺はまた言った。



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