08.相合傘 :大原視点
月曜の朝、登校した俺ははなはだ不愉快な事態に直面することとなった。
「らぶらぶだねぇ」
「大原、やっさしーー」
「小川って、大原と付き合ってんでしょお?」
「休みの朝に一緒に買い物してるんだもんね」
「新婚さんいらっしゃ~~い」
「お似合いじゃん」
「らっぶらぶ! らっぶらぶ!」
クラスメイトたちが口々にそんなからかいを小川に投げかけていた。
俺は思わずその明るい悪意なき悪意の声に教室の入り口で足を止め、眉を顰める。いつもとは明らかに異なる雰囲気に、開いたドアから教室の様子を窺った。
一番先に目に入ったのは、――黒板にでかでかと描かれた相合傘。
傘の下には俺と小川の名前が下手糞な字で書きなぐってあった。
耳にしたふざけた発言と、その傘に、俺は事態を理解する。
――日曜にスーパーで小川に会ったときのやりとりを見ていた人間がクラス内にいたらしい。
俺は舌打ちした。
ただでさえ月曜の朝一などかったるいことこの上ないのに、……クラスの連中のくだらなさに辟易する。
小川は教室の真ん中に突っ立って、おろおろしていた。
黒板を消しに行きたいのに、それをクラスの女子に邪魔される形でからかわれ続ける姿に、俺の苛立ちは一気に頂点まで達した。
(馬鹿が)
確か日曜日にもヤツに対して思ったことだが、――そのときとは感情の色が百八十度違っていた。
俺は、すべてを蹴散らして触れるもの全部を薙ぎ払う勢いで教室に踏み込み、
「俺と小川が付き合ってたらそんなに面白いかよ」
小川も含める教室内の全員を睥睨し、低くそう言い放った。
――怒りに目が眩んだ俺は、そして、取り返しのつかない過ちを犯す。せめてそのときに小川の顔をちゃんと見ておくんだったと、ずいぶん長いこと俺は悔やみ続けることになるのであるが、このときにはそんな未来を見通せるはずもなく、俺は視界から小川の姿を追い出し、クラスの連中に怒りの焦点をあてたのだった。