05.こわい人 :小川視点
「……あんたってさ、よく平気で大原に話しかけられるよね」
何の話の流れだったか。
急にそんな風に話を向けられて、私はごくんとお弁当の玉子焼きを飲み込んだ。
(あーあ、もっと味わって食べたかったのに)
大好きなお母さんの玉子焼き。
甘くてとろりとした食感で、ときどき中にチーズやしらすが入っていたりする我が家の輝ける人気ナンバーワンお弁当メニューだ。
心の中で飲み込んでしまった玉子焼きを惜しんでいたら、反応の薄い自分に焦れたのか、あるいは質問に対する答えなどそもそも期待していなかったのか、話は私を置き去りにして先に進んでしまった。
「あたし、怖くて無理ー」
「わたしも、ニガテ」
「顔はねぇ、ジャニ系で結構いい線いってるんだけど、……男は顔だけじゃない見本例だよね」
言いたい放題である。
「そうそう男は顔じゃなくココロだよココロ」
「優しさが大事だよね」
「こないだも、二組の子が泣かされたって話だよー」
私は内心首を傾げる。
大原くんのココロは優しいと思うし、泣かされていた二組の子は泣かされる前に大原くんを「親なしの不良」と罵っていた。
「あのさ…」
それは違うと思うよ、と続けようとした私を大原くんの大声が遮ってしまう。
「うるせーぞ、バカ女ども! 聞こえよがしに人の悪口言ってんじゃねえよ!」
……なぜだか、大原くんと目が合った。
怒鳴られたクラスメイトの子達は一瞬怯えて縮こまったが、今度はひそひそ声で大原くんを非難しだした。
(びっくりした)
彼の怒鳴り声に驚いたわけではない(いやもちろん少しはびっくりしたけど)。
そうではなくて。
まるで―――ココロを読んだようなタイミングだったから。
『余計なこと言うんじゃねえよ』
まるで、―――そう切り込まれたみたいで。
私だけに受信可能なテレパシーを送る大原くんは、やっぱりちょっとコワイ人かもしれない。
私はそう思い直したのだった。