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04.大きくて小さいひと :大原視点


小川は大き……大柄だ。

背も高いが、横もそれなりにあり、全体の骨格がしっかりしているので余計に「そう」見える。


―――が。


体型に反して気は小さい。

いわゆる草食系である。

動物に喩えるならゾウとかキリンとか。

恐竜ならブラキオサウルスとかフタバスズキリュウとか。

もしゃもしゃ平和そうに草や木の実をのんびり食べている系だ。

昔云うところの「気は優しくて力持ち」という典型例である。

もっとも、女だから力持ちと言いきってしまうのはちょっとカワイソウかもしれないが。

体型に反した穏やかな気質と控えめな態度は、ヤツの人畜無害さの現われであったが、だからといって周囲の人間が必ずしもそうとらえるかといえば、――それはまた別の話だ。

……例えば、ヤツが男ならそう目立つことでもなかったのだろう。だが、残念ながらヤツは女だった。

いや、残念というには語弊がある。

別に俺はヤツが大きかろうが小さかろうがどちらでもいいのだし、もっとはっきり言ってしまえば……俺にはまったく関わりのないコトであるはずだからだ。


しかし、周囲にとってはヤツの体格は何かといろいろ目に付くものらしい。


「デカ女」

「ウドの大木」

「電信柱」

「スカイツリー」

「トーテムポール」

「和田○キコ」

「女ガリバー」


小川を比喩する形容は、事欠かない。

同学年の女子の中で一番背の高いヤツは、目立つ存在だった。

それゆえに、サルに毛の生えた程度の精神年齢しかない低俗な奴らの絶好のからかいの対象となっていた。

草食系の人畜無害な女に、なぜそう攻撃的な野次を飛ばせるのか心底理解しがたい。

当人はのんき者なので何を言われても申し訳なさそうにへらへら笑っている。

俺はそんなヤツを目にすると後ろから蹴飛ばしたくなるくらいイラついた。

いっそそれは自分が「チビ」と言われるよりも腹立たしいくらいだった。

なのに、小川自身はどんな悪意の礫にもどこ吹く風と気にせず、鷹揚に構えている。

まるでコンプレックスなどないかのように。


でも、俺は知っているのだ。

座るときには後ろの席の人間を気にしてなるべく縮こまっていることも、私服で出歩くときにはぜったいにかかとの高い靴は履かないことも、身体測定のときにこっそり膝を曲げて身長を測ろうとして保健医に注意されたことも、写真をとるときにはこっそり誰かの後ろにまわる事も。

気付いている。


……仕方がない。

ヤツは目立つのだし、俺の目が自然とそちらへ向くのも致し方ない。


大きい体を小さく……誰にも気付かれないようにこっそりと小さく見せようとする小川は、やっぱり大川ではなく小川なのだ。


さらさらと密やかに流れる山のせせらぎのようなヤツなのだ。


―――見かけはどうあれ、ちゃんと名は体を表しているのである。


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