16.ダブルデート・車中 :大原視点
「おまえが帰ったら、……小川さんは俺と伊織さんの二人とデートすることになるけど? それでもいいのか? ちなみに伊織さん、ああ見えて女には滅法手ぇ早いぜ?」
中條にそう耳打ちされ乗り込んだ車中で、俺は苛立ちを抱えたままずっと窓の外を眺めていた。
……ヤツにいいように手玉にとられている現状が本気で腹立たしい。
よくよく落ち着いて考えてみれば、大学生であるらしい鳥山伊織が年の離れた中学生の女に手を出すなどまずありえない話だ。そういった趣味があるならともかく、彼の容姿であの軽そうな性格なら女にも不自由しているということもないだろう。
つまり、またもや、自分は中條にまんまと乗せられたのである。
……なら、あのまま帰ってしまえばよかったか、と自問すれば、浮かび上がる答は否なのだからまったくもって始末に負えない。
カッとして後先考えずに帰ってしまわなくて良かったと安堵に似た気持ちすらある。残された小川の気持ちを考えれば…たぶん帰らなくて正解だろう。袖を掴んだ手は、まるで迷子の子供の必死さを思わせた。その眼差しは不安に揺れていた。
――たとえ中條に唆されなくてもあの目を見てしまった自分は果たしてそれを振り切ることができただろうか…。
(調子が狂う)
時折、気がかりそうに視線を向けてくる小川に気付いてはいるものの、俺はそれを無視して車外の景色へ視線をやり続けた。
そうして意識をなるべく隣の『カノジョ』から引き離す。
……私服姿など何度も見ているはずなのに(小学校は私服登校だった)、なんだか今日の小川は違って見えた。
温かそうなショートブーツに黒いズボン、チョコレート色のダウンコート。地味な色目だし、お世辞にもお洒落とは言いがたい装いだ。どうみても動きやすさ重視の格好だった。ついでに防寒も完璧だ。……着膨れしてマフラーまで巻いているのでももふもふしていてますますクマっぽい。マフラーはカーキ色と白のストライプで、極めつけに焦げ茶色のニット帽まで被っているのだからもはや狙っているとしか思えない。どこまでティディーベアなんだおまえは。何が入っているか分からないが大きな手提げ袋を抱えて、大柄な体を精一杯縮こませてちょこんとシートに収まっている。等身大のぬいぐるみがそこに居た。……うっかりもふもふしてしまったらどうしてくれるちくしょうめ。
――いや、落ち着け俺。小川は人間であって決してぬいぐるみではない。
そう自分に言い聞かせ、こっそり深呼吸する。
気持ちを切り替えたあと、前座席の二人に話を振られてたどたどしく受け答えしていたりする様子を、気付かれないようにときどき俺はちらりと窺った。
それにしても…、
(なんでコイツはいつも申し訳なさそうなんだろうな…)
呆れ半分、苛立ち半分、……そして、説明のつかないキモチがほんの少し混じった感情。
そんな愚にもつかないことを考えながら、俺は早くこの息苦しい時間と空間から逃れたくて、もっと車のスピードを上げろと心中イライラしながら動物園に到着するのを今か今かと待ち焦がれるのだった。




