01.怒りんぼ :小川視点
大原くんは短気だ。
色んなコトに対してしょっちゅう腹を立てている。
例えば、鉛筆の芯が折れて「くそう」だし、三時間目にお腹が鳴って「がぁっ」だし、授業中に当てられて「ちっ」だし、昼食後に欠伸をして「こんにゃろう」だ。
とにかく彼の口からはいつも悪態が吐き出されている。
そんな彼が帰りの昇降口で、降りだした雨を睨みつけて「ちくしょう」とまたもや悪態をついていたので、たまたま居合わせた私はつい「どうしたの? 傘忘れたの?」と聞いてしまった。
ちょっと驚いた顔をして、キツイ猫目をさらに吊り上げて、彼はぼそりと一言。
「……あした、遠足なのに、…」
ああ、そうだった、と小学校に通っている弟がいる私は、思い至る。
彼にも小学校に通う弟がいる。
二人は同学年で友達だ。
今年は遊具のたくさんある広い公園に行くんだと楽しみにしていた。
彼は傘立てに置いてある自分の傘を手にすると、さっさと雨の中に飛び出した。
走りながらポンとワンタッチ傘が花開く。
真っ青な花は、私の目にはとても鮮やかに映って、遠ざかるそれにいつまでも目を奪われていた。
大原くんは短気だ。
――――やさしい怒りんぼうさんだ。