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C.O.E. ~ヘタレ勇者の冒険~  作者: 滝音小粒
ジャレプの章
4/43

第3話 orz

「姫様!」


 扉が開く音よりも更に大きな声を上げた闖入者は、如何にも歴戦の戦士といった体格をした55歳位の男性だった。その男性は、姫様(多分モニカだろうね)と、精剣と、僕を順番に見てそのまま崩れ落ちた。


 異世界に着て、”orz”を体現する人物を見るとは思わなかったけど、


「遅かった……」


と小父さんが呟いたのは聞き逃せなかったよ。今、気付いたけど僕はしっかりと精剣を握っている。多分この小父さんが急にドアを開いたか、大声を上げたのに驚いて反射的にだと思うよ?


「爺、勇者様の前ですよ!」


「巫女姫様……」


「何です、何時も礼儀礼儀としつこいのに!」


「……」


 モニカが小父さんを叱っている様に見えるけど、小父さんの方は全く別の事を考えているみたいだ。爺と呼ばれているけど、それ程の年齢には見えない、バリバリ現役なんじゃないかな?


「姫様、勇者様のお世話は私共のお任せ下さい。明日も予定が詰まっておりますから、今宵はこれまでと言う事で……」


「でも、勇者様を……」


「構いませぬな、勇者様?」


 うぉ、小父さんがこっちに話をふって来たよ、ここで嫌と言ったらどうなるんだろう? ただ、小さな女の子に話を聞くよりは大人に話を聞いた方が確かだろうね。(小父さんからは妙な圧力を感じて、否を言わせない雰囲気だったりもするけどね)


「モニカ、僕の方も疲れているから、今日はこの辺りで」


「勇者様……、そうですね、契約も済んだのですから急ぐ必要はありませんね」


「うん、おやすみ、モニカ」


「はい、おやすみなさい、勇者様」


 本当は眠たかったのかモニカは、意外と素直に女官らしき女性に付き添われて、精剣の間を出た行った。後に残されたのは僕と厳つい小父さんだけだったりする。


「失礼だが、名前を教えていただけるかな?」


「あ、すみません。天原弘樹(アマハラヒロキ)と言います。発音が難しいらしいのでヒロキで構いません」


「では、ヒロキ殿とお呼びしましょう。私は、巫女姫モニカ様の侍従を申し付かっております、トーマと申します」


「侍従ですか? 護衛を兼ねた?」


「いいえ、私は戦いに向きませんので、どちらかと言えば教育係兼侍従でしょうかな」


 トーマさんは見掛けと違って、戦わないらしい。肉体の使い方を間違っている気もするけどね?


「ヒロキ殿は、どの辺りまで姫様から事情をお聞きになられたかな?」


「うーん、殆ど聞いていない気がします」


 考えてみれば、ここに召喚されてから体感で30分位しか経っていないし、重要な話の前に契約しておくとかいう流れだったんだよな。僕としては、ここが何処か?よりも召喚主のモニカが信頼出来るかの方が重要だったからなんだけどね。



+ * + * + * +



 教育係と言うのは本当らしく、トーマさんによる説明は要点を良く捉えている物だった。ウチの高校の教師陣に見習って欲しいくらいだよ。


 この”シングリーフ”という世界の成り立ちや、大まかな地理、僕が今居る場所や時代、そしてこの国、人族が住むジャレプ大陸のアクシリア王国の歴史まで教えてくれた。


 時々理解が出来ない概念とか出て来たから完全に正しいとは言えないけど、トーマさんの話を纏めると、こんな感じになる。



+地理


 この”シングリーフ”と言う世界は、4つの大陸とそれを囲む海から成り立っている。


 4大陸は、ライデト、ジャレプ、レーグナ、ヲーロスと呼ばれる。


 ライデト大陸は南に位置して精霊族が住む。殆どが密林に覆われて、人間が住むのは難しい。


 ジャレプ大陸は西に位置して人族が多く暮らしている。ライデト程ではないが精霊も存在するし、魔獣も生息する。


 レーグナ大陸は北に位置して魔族の大地だ。魔人と魔獣だけの荒れ果てた土地だといわれてる。


 ヲーロス大陸は東に位置して竜族が居を構える。大陸の殆どが山脈で、翼を持たない者が住むには適していない。


 4大陸に囲まれた海を内海、その外側を外海と呼び、内海には”中央諸島”という島々が点在するが、外海は何処まで行っても海しかない。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~北方大陸~~~~~~~

 ~~外海~~~レーグナ~~~外海~~

 ~~~~~~~ 魔族 ~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~西方大陸~~中央諸島~~東方大陸~

 ~ジャレプ~~ 内海 ~~ヲーロス~

 ~ 人族 ~~ 混在 ~~ 竜族 ~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~南方大陸~~~~~~~

 ~~外海~~~ライデト~~~外海~~

 ~~~~~~~ 精霊 ~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 こんな感じらしいけど、大陸間の移動は船で1月以上かかるという話で、南方大陸に比べて北方大陸はかなり小さいんだってさ。



+政治


 この世界の創世記では、精霊族が最初に創造されて、次に人族、そして魔族、最後に竜族が現れたらしい、あくまでも神話と言ったレベルだそうだよ。アカデミーの研究では、創世記自体は否定されているけど、大きな声では言えない類らしい。


 4大陸の4族には基本的に4王が存在するんだけど、王と言っても各種族で違いがある。竜族は最強の竜が王になるし、魔族の王は魔人の中でとある技術を極めた者が王と認められる。精霊族では最初の精霊がずっと王なんだそうだし、人族では最初に大陸を統一した人物が王を名乗った。


 現在ジャレプ大陸では王の他に皇帝を名乗る人物も居るらしい。正確には、1つの国が3つに分割された形で、現在のジャレプ大陸にはアクシリア王国、サンドロス帝国、教国の3国が存在する。


 アクシリア王国が初代統一王の直系で、何か事情があって傍系にあたるサンドロスという人物が興した国がサンドロス帝国、サンドロスの反乱時に戦乱への不干渉を宣言して一種の独立を手に入れたのが創造主を神と崇めるシングリーフ教徒の国で、単に教国と名乗っている。


 人と精霊はある程度交流があり、魔王と竜王は結構親密な関係にあるという噂もあるらしい。精剣なんて物が僕の手の中にあるのが人と精霊の交流を証明しているよね。



+種族


 精霊というのは文字通り霊的な存在で、この世界の何処にでも存在するが誰にも触れる事が出来ないらしい。創世記では、最初の種族であり、創造主の一部だったとなっているけど、それを裏付けるように精霊が多数生息?する場所は自然が豊かと言う話だった。

 精霊の生態に関しては謎が多くて殆ど分かっていないらしいよ。生きているという定義からして疑問だったりもするよね?(存在自体は不滅だとかなんとか?)


 人族と言うのは、基本的の地球の人類と変わらない。生物的な意味なら、ほぼ同じじゃないかと思う。ただ、精霊と契約したり、精霊の生み出す精霊力(マナ)を使って魔法を使える。

 文明レベルとしては中世ヨーロッパレベルだけど、火薬等は存在しないらしい。普通に呪文を唱えた方が早いという身も蓋も無い理由なんだろうな。

 この世界の知的生命体(分類が難しそうだけどね)の中では最も繁殖力があるらしく、個体数で言えば一番多いかも知れない。知的生命体の中では最弱だけど、数で勝負なんだってさ。(精霊の数を数えられないという事情はあるらしいけど、同じ人間として微妙だね!)


 魔族というのは、魔人と魔獣に分類されるらしい。最近の研究では、魔人も魔獣も元々は普通の生物だったのが、濃いマナの影響で変態(形態が変わる方だ!)して、それが長い時間を経て1つの種族に分類される様になった。

 当然だけど、魔人は元々普通の人間だった訳で凄く微妙だけど、基本的には人族と魔人は敵対関係には無いらしい。別の大陸に住んでいるんだから争う事自体が面倒なんだろうね。

 魔人化した人間が迫害を受けてレーグナ大陸に逃れたという説もあるらしいよ。実例がある訳じゃないけど、小動物を魔獣化する実験は成功例が僅かにあったらしい。

 魔獣は、体内にマナを蓄積する体質で、その蓄積されたマナは人間の魔法使いにとっては非常に重宝される。魔獣化の実験もこれが目当てな訳だね。

 魔族は、長く生きれば生きるほど強くなって行くらしい。中には千年以上生きる魔獣もいるらしいけど、この辺りになると”霊獣”と呼ばれ、レーグナ大陸では信仰の対象にさえなるらしい。


 竜族は東洋的な龍ではなく、西洋的な竜の姿が一般的らしい。多分この世界で最強の種族だと言う話もある。竜族も創造主の一部から生み出されたとされている訳だけど、精霊と”対立”する様な表現がされている割には竜と精霊が争う事は無い。(神話とかってこう言う矛盾が普通にあるよね)

 竜族も基本的に長命らしいけど、生殖力が弱く個体数で言えばこの世界で最も少ないと言われている。”霊獣”と比較して少し多いかもとか言った程度らしいけど、確証は無い。



+ * + * + * +



「ふう、こんな所ですかな?」


「ありがとうございます、トーマさん。凄く分かりやすかったですよ」


「いやいや、ヒロキ殿も中々良い生徒でしたぞ。姫様もヒロキ殿位真面目に話を聞いてくれれば良いのですがね」


「モニカ、姫ですか?」


「ヒロキ殿の立場、”精剣の主”であれば、契約者を呼び捨てで構いませんぞ」


「出来れば、僕の事も勇者様は止めて欲しいですけどね。契約者とか”主”とかどう繋がるんですか?」


「はははっ、アクシリア王家の人間が精剣の力を借りて自らの望みを叶える事が出来る存在を呼び出す。それが姫様がヒロキ殿を呼び出した背景でしてな」


「はあ、それは分かります」

 

「呼び出された存在が精剣と契約して、”精剣の主”となるのは想像が出来ますな?」


「はい、精霊が異世界から僕を召喚したと言う事も、納得出来ませんが理解は出来ます。モニカ姫は何故か僕を勇者と呼びましたよね?」


「ああ、姫様にとっては両者が同一ですからな」


「モニカ姫のお爺さんが前代の”精剣の主”だったのからですか?」


「姫様のお爺様、勇者アステリア様は第二王女だったミネリア姫に、サンドロス乱を治める事を乞われてそれを成し遂げた事で勇者と呼ばれた訳ですな」


「精剣の主が勇者になったと言うわけですね、成る程」


「基本的に、歴代の”主”は勇者と呼ばれるだけの功績を残しておりますからな」


 モニカの中の精剣の主=勇者は歴史的に見て間違ってはいない訳だね。


「トーマさんの話の中に、僕が召喚される事情が無かったですね?」


「やはり気付かれましたか。現在、我が国は国難と呼べる程の問題を抱えてはおりません。無論多少の問題はありますが、勇者を必要とする程ではありませぬな」


「何か嫌な予感がしますね」


「姫様のお付きの女官の1人がですな……」


「はぁ……」


「北部の町の1つが魔族の侵攻にあっていると言う話を漏らしてしまったのですよ」


「あれ、それって普通に大事じゃ…ないんですね?」


「まあ、城が1つ占拠されておりますからな些事とは申せませんが……」


「トーマさん、随分と歯切れが悪いですね?」


「これは極秘に願いたいのですが、攻め込んできた魔族というのが、魔王の息子だと言う話なのです」


「それは、厄介な話ですね」


「お分かりになりますか? 大軍を送り込んで短期間で決着を付けるのは可能なのでしょうが……」


「簡単に殺せないですね、魔王子となると」


 侵略者だから殺したで済めば良いけど、最悪魔族の大規模な侵攻の引き金になりかねないんだろうね。


「その通り、現在魔王陛下と連絡を取っておりましてな」


「やっぱり外交的に、平和裏にお引取り願うですか?」


「ですな、魔王陛下がこの大陸を支配下に治める為に、王子を送り込んで来たと言うのは考え難いものですからな」


 魔王が他国から信頼されているというのは、ちょっとおかしく感じるけど、それはそれで歓迎だよね。(少なくとも魔王を倒して来いとは言われない訳だからさ)


「姫様に確認しなくてはなりませんが、魔族の王子に占拠された城を開放すれば契約は果たされた事になりましょう」


「そうすると、僕は元の世界に帰れると言う訳ですね」


「そうですな、ただ、魔王陛下と何時連絡がつくかが不明でしてな」


「……」


「元々、殆ど交流がありませんでしたし、送った使者が無事に魔王陛下に面会出来るかも分かりませぬ」


「…、何か中途半端ですね…」


「申し訳ありませぬ! 契約前であれば、精霊王陛下に依頼すれば何とかなったと思うのですが……」


 トーマさんがorzになった気分が良く分かるよ。今、僕自身がそんな気分なんだから!


「そうだ、精霊王さんに事情を話して……、駄目なんですか?」


「精霊と人の契約と言うのはですな、互いを信頼する事で成立しておりまして……」


「一度反故にすると、本当に必要な時に力を借りれないとか……」


「その可能性がありますな、実際に試す訳には行きませんが……」


「「……」」


 八方手詰まりと言った感じだ。どうしろって言うんだろう?


 出来るか分からないけど、仮に僕が独力で魔王子を倒して占拠された城と言うのを開放したら、確かに契約を果たした事になるんだろうね。但し、それが原因で魔大陸レーグナと人大陸ジャレプの関係が悪化したら? 僕は勇者なんて呼ばれないだろうし、モニカもどんな目に遭うか……。


「とりあえず、待つしかないのですね?」


「……、これはお話しない方が良いのでしょうが……」


「まだあるんですか!」


「以前の勇者が、精霊王陛下に乞うて自分の居た世界の事を”見た”そうなのです」


「精霊王に会えれば、見る事は可能なんですね!」


「可能でしょうが、問題はそこではありませぬ。その勇者が見た時には、自分の居た世界ではかなりの時間が過ぎていたと……」


「あの、それって!」


「はい、運良く魔王陛下と交渉が成功しても」


「僕の世界では凄い時間が過ぎているかも知れないと?」


「いえ、逆の可能性もありますし、同じ位の可能性も……」


 こんな所で浦島さん! 八方どころか、手を拱いて見ているだけも許されないと……?


「僕が出来るのは?」


「ご自分の力だけで魔王陛下のご子息を倒すですかな……」


「いや、それは考えましたけど、僕はそれで良くてもモニカが」


「ヒロキ殿は、そこまで考えられましたか? 勝手に呼び出しておいて、無理難題を押し付けたのは姫様だと理解した上で?」


「はい、僕は悪人には向いていませんね。モニカが泣く姿を見たくないというのもありますけど……」


「優しい方ですな、ヒロキ殿は。宜しい、1つ腹案がございますが、お聞きになりますか?」


「案? この状況でですか?」


「はい、ともうしましても、困難な上に可能性が低いかも知れませぬ」


「構いません、教えてください」


「魔人、取り分け、魔王陛下の血族では、強さを尊ぶと言う噂がありましてな、元々この価値観は竜族の物ですが……」


「竜王と魔王は親密でしたね!」


「はい、噂の信憑性は高いと思えます。すなわち、魔王陛下のご子息を屈服させる事が出来れば」


「例えば、一騎打ちを申し込んで!」


「そうです、噂通りであれば拒絶はしないでしょうな」


 混戦の中で捕えるとかは難しいのは想像が出来るけど、一騎打ちであれば屈服させる可能性はぐっと高まるぞ! 問題は、魔王子を僕が屈服させられるかだよね……。うん、1%が2%になった感じかな? 倍だよ、凄い事じゃないか!


「それで、魔王子は弱いとか無いですよね?」


「いえ、その辺りは情報がありませんな。何でもかなりの巨漢だそうですが?」


「トーマさんよりも大きいですか?」


「何故私を基準にするか分かりませんか、私より頭1つは大きい様ですな」


 トーマさんは175cmの僕より頭1つ大きい訳だから、大体230cm以上! 0.5%が1%にアップしたに訂正させてください。また頭の中でorzの3文字が現れましたよ!


「そんな顔をする物ではありません。ヒロキ殿は精剣の主なのですよ」


「あ、そうでしたね。特に何も変わった気がしないんですけど?」


「いえ、身体能力はかなり上がっている筈です。それに魔力も相当な物の筈です」


 ああ、モニカがそんな事を言っていたね、いきなり社会科的な授業に入ったから確認のしようが無かったからさ。


「そう言えば、疲れないですね」


 部活が終わって帰宅した途端に召喚されたのに、全然疲れを感じないし空腹感も無い。微妙に頭痛を感じるけど、これは詰め込み過ぎだと思う。期末テストで、一夜漬けした時の感覚だよね?


「ははっ、精霊の加護をそんなふうに表現した人間は少ないでしょうな」


「おやすみになりませんかな?」


「いいえ、少し眠りたいです。頭を整理するという意味でですけど」


「羨ましい事ですな、この歳になると徹夜は堪えます」


 言われて気付いたけど、暗かったこの部屋にも少しだけ日の光が差し込みはじめていた。


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