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第38話 許されざる道

 そこでリセイさんを介しての交信が本当にあっさり切れてしまった。言い返したいこともあったけど、もう伝える事が出来ないんだね。本当に悲しい事だけど、最後に話せただけでも幸運だったと思うしかないよね?


 そんな事を考えながらもう1度目を閉じたと思ったら、今度こそ本当に目が覚めたよ! 最初に目に入ったのは、病室の天井と少し疲れた母さんの顔だった。


「弘樹、やっと目を覚ましたのね?」


「母さん、ごめん」


「別に悪い事をした訳ではないでしょう?」


「いや、心配させちゃっただろ?」


「それはそうよ、学校から意識不明の重態って言われたんですからね!」


 そうだろうね、でも、今は意外に体調は悪くない気がするけど? 最後に感じいた脇腹の痛みなど殆ど感じないよ。


「何日位、意識が戻らなかったのかな?」


「5日ね」


「え、嘘?」


「意識不明は本当だったけど、重態って事は無かったのよね?」


 恐る恐る自分のわき腹に手を当ててみるけど、包帯どころか薄いガーゼが張られているだけで、剥がして見れば傷跡も殆ど残っていないよ。あの状態なら本当に重傷の筈だし、治療魔法は使った記憶も無いけど? ああ、リセイさんか?


「救急車で運ばれたんだよね?」


「そうよ、最初は、心臓マッサージが必要だったとか言っていたけど、この病院に着いた時には状態は安定してたんですって。お腹から出血が多かったから大騒ぎになったみたいだけど、傷は意外と小さかったのよね」


 そんな筈も無いけど、そう解釈しないと普通に異常現象なんだろうね。でも、あの状態じゃ、学校側も事件自体は隠せないだろうな。


「そうだ、浅木さんは? 退学とか無いよね!」


「自宅で休養中よ。弘樹、何で無事かって聞かないの?」


「あれ?」


 そうだった、普通ならそっちが先か! あの時にはもう気絶してたんだったよ!


「いや、何故か無事だって思ったんだよ?」


「まあ、貴方としてはそうかもね。気絶してもあの娘の制服を握ったままだったんだから」


 あっ、手を放した記憶が無いや、ボタンの糸の方が持たなかったんだね。それより、母さんって、あの()じゃなくて、あの(むすめ)って言ったよ! さっきの自宅療養も棘があった気がするし……?


「もしかして、母さん浅木さんに対して怒ってる?」


「当たり前でしょう、一人息子を傷物にされたのよ!」


「傷物ってなんだよ? 傷跡だって残ってないのに」


 用法が間違ってるんだよ! それに、一人娘って思ってないか不安になるんだよ?


「貴方の行動に免じて口を挟まないでいたけど、謝罪の電話一本入れないなんて信じられないわ!」


「母さん、あの飛び降りってどうなってるの、まさか自殺未遂とかなってないよね?」


「新聞でも見る? 単なる事故になってるわ、学校側は大事にしたくないって言うのよね」


 ああ、どう考えても管理不行き届きだからね。その上自殺だったらどんな騒ぎになるか分からない。実際母さんが見せてくれた新聞には、地方欄に少しだけ記事が載っているだけだったよ、良かったね! 僕の怪我が重態じゃなかった(なくなった?)のも幸運だよ、ありがとうリセイさん!


「私としては、あの仙道さんって娘の方が良いと思うわよ? ちゃんと毎日お見舞いに来てくれるんだから」


「それは委員長が委員長だからだよ?」


「何言ってるのこの子は?」


「クラスではこれで通じるんだよ、責任感の強い娘だからね」


「そうよね、校舎の天辺から落ちて来た友人を抱き止めるなんて、普通の女の子には無理よね。最初に話だけ聞いた時は、どんなに体格の立派な娘さんかと想像しちゃったわよ? 何処かに引っ掛かって勢いが弱まったからって、華奢な女の子が出来る事じゃないわ!」


 僕が知りたかった事を母さんの方から話してくれた。新聞記事には同級生の女子の話なんて全然出てこなかったからね。母さんの中では委員長の評価は鰻登りらしいね、浅木結歌の株は暴落中と来た。


 しかし、筋肉ムキムキの委員長とか、うん、忘れよう、お見舞いに来てくれたクラスメイトを見て失笑とかは失礼過ぎる。例え、僕に対する純粋な心配が100%じゃなくてもね。


 現在の浅木結歌の心情や立場では、外出する事さえ難しい事は僕だって想像が付くのに、母さんにはそれを認める気が全く無かったよ。一番なのは委員長の口添えなんだろうけど、その辺りの事情を仙道咲耶の方から他人に語ることは|憚≪はばか≫られるだろうね。


 僕的には十分に美談だけど、飛び降りの原因を作った人間が命を救ったなんてなれば、出来過ぎで逆に妙な勘繰りをする人間も居るだろうからね。5階建てのビルの屋上か6階の窓辺りから、誰かが落ちてくるのを受け止めようとした経験がある人間以外の非難を聞く積りは無いからね!


 後で、ちょっと調べてみたけど、6階の窓から転落だとかなりの確率で死ぬらしいし、落下地点に偶然居合わせた方が死んで、落ちた方が生き残ったという話もあるんだよ?


 + * + 


「天原君、こんな時間にごめんね?」


「確かに面会時間はもう終わりに近いらしいけど、気にしないよ。検査とかあってもう少し入院だけど、体調は悪くないからね」


 委員長が僕の病室にお見舞いに来てくれたのは、19:30過ぎだった。面会時間は20時までだから、ぎりぎりなんだよね。何時もなら学校帰りで進学塾に行く前らしいんだけど、僕の方は警察にちょっと事情聴取されてたんだよね。(母さんが妙な気を回したんだろうね!)


「体調はどう?って聞く前に答えられちゃったな……」


「委員長こそ、体調は大丈夫、顔色悪いよ?」


 実際看病疲れの母さんより疲れて居る様に見える。僕と立場が逆な方がシックリ来るんじゃないかな?


「天原君ってそんなに意地悪だったんだ?」


「そんな事はないと思うよ、警察の人には、あの時の事はあんまりはっきり覚えて居ないって言ったしね?」


 僕に対する事情聴取は、それ程重要視されていない印象だったからね。妙な事を言うよりは、混乱して覚えて居ないの方が良いと思ったんだよ。口裏を合わせていないからね!(どういう偶然か、修兵館の百地さんの部下だった人に取り調べられたから、少しだけ気が楽だった)


「本当に?」


「うん、帰ろうと思って昇降口に行ったら英知を見掛けて、面倒になりそうだから立ち入り禁止になっている屋上で時間を潰そうと思ったとか。時計台の梯子の所に誰かが昇った形跡があったから気になって昇ってみたら、落ちそうになっている浅木さんを見つけたまでは正直に話したよ」


「それで……?」


「気付いたら、何とか浅木さんの制服の襟首を捕まえていたけど、自分がその拍子に怪我したのに気付いて、気が動転してそれ以降は覚えて居ないってね」


「……」


「あ、下に委員長を見掛けて助けてって叫んだかも知れないとも言ったけどね?」


「何でそんな事を?」


「あれ? 委員長は浅木さんと仲直りしなかったの?」


「えっ、したけど……、何故か落ちてくる結歌を上手く受け止められて、思いっきり殴っちゃって、その後気付いたら一緒になって泣いてたのよね」


 うん、良く分からないけど、女の子同士の美しい友情だよね? 経過は全然理解出来ないけど、仲直りしていなければ委員長が委員長であり続けられる筈も無い事位は分かるよ。浅木結歌が仙道咲耶を必要としているなら、僕だって仙道咲耶の立場を守るに決まっている。


「委員長だって同じ様なものじゃない、あんな事があって冷静で居られる高校生なんて居ないよね? 重傷っぽく見えて、実は軽傷だったというのが実に僕らしいかな?」


「ねえ、天原君?」


「何?」


「あの時、何かしなかった?」


「どの時?」


「それは、結歌が私に向けて落ちてきた時に決まってるでしょ?」


「その時、僕に出来たのは気絶する事位かな?」


 もう少し僕に根性はあれば、自分の意思で制服を掴んでいた手を放した筈なんだけどね。


「強いて言えば、制服だけを掴み続けていたらしいけど、それがどうかした?」


「何と言うか、誰かが一緒に結歌を受け止めてくれたって感じたんだけど?」


 委員長、意外と鋭いな、そんな筈は無いって分かるはずなのにね?


「もし僕が死んでたら、魂だけになっても助けようとしたかもよ?」


 半分死んでたらしいけどね? 実際には軽傷だからさ!


「ねえ、何か隠してない?」


 あれ? 何で常識を信じないんだろ? 顔に出てた? 拙いな、上手く隠せる自身が無いよ!


「隠すって、僕は普通の男の子だよ?」


「それって、普通は言わない気がしない?」


 何故か忍び笑いをする某魔姫殿下が見えた気がするよ! こうなったら、目晦ましだ!


「あのさ、委員長、ちょっと頼みがあるんだけど?」


「え、うん、何かしら?」


「僕は、浅木さんにプロポーズする、じゃなかった告白する積りなんだ、それに協力して欲しいんだよ」


 言い間違えたのは、母さんと浅木結歌の仲を改善する方法を色々考えたからだよ? まだ、高校生なんだからプロポーズは早過ぎるよ、入り婿でも良いなんて考えてないからね!


「何故引くの? ちょっと先走っただけなのに」


「あ、ごめんなさい。いきなりプロポーズなんて言われたら引くと思うわ。でも、告白には賛成かも」


「そうかな?」


 何故か今になってはあまり委員長にはメリットが無いと思う所で、委員長が釣れたよ?


「うん、まだ直接会えないんだけど、電話で話しているとね。妙に怖くなるんだ……」


「怖くなる?」


「えっとね、何と言うか私にべったりというか、ほら、宝塚の男役に憧れるとか、百合とか、その…ね?」


 何! 浅木結歌と仙道咲耶がそう言う関係に、見てみた、くないよ!


「絶対駄目だよ!」


「そうよね、多分恋愛に臆病になっているだけだと思うわ…よ…」


 くっ、思わぬ落とし穴が! しかも相手は、頼り甲斐のある事では僕では太刀打ちも出来ない委員長だよ! 何かの間違いがあって、上手く行っちゃったら、僕がお膳立てした様な物だよ!


 こんな事態が進行しているとなると、のんびり入院などしていられない。検査だけなら後で幾らでも受けるから、今だけは最優先の任務を果たす事にしよう!


「委員長、浅木さんの状態はどうなのかな?」


「結歌の体調? 本当に怪我1つ無いの、私もだけど?」


「精神面では?」


「何とか、落ち着いているらしいわよ。小母様と一緒に外出する事も出来たみたいだから」


「学校は?」


「それは……、一応カウンセリングルームは開いてるって、ホームルームで言ってたけど?」


 カウンセリング室と言うのは、説明は要らないよね。ウチの高校の場合は保健医の先生と専門のカウンセラーが生徒の相談に乗る形で、暫くは今回の事故の影響でカウンセラーが常駐しているという話らしいよ。


 そして、暫くは浅木結歌が登校しても、カウンセリングルームへ通うことにするという方針らしいんだ。もう少しすればクラス替えだから、そこで一般生徒と合流というストーリーになると委員長が話してくれた。学校側も今回は手回しが良いね、出来ればもう少し早く行動に移して欲しかったけどさ。


委員長が地味に仕返ししていますよ?

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