第33話 リテイク
既に慣れてしまった、シングリーフへの移動だったけど、今回は呼び出された場所が全然違ったんだよ。何と言うか、夜の野外だったんだ。こう書くと妙に想像力を刺激しそうだけど、全然そんな事は無いよ!
「私、聖アクシリス帝国神官長モニカの招きに応じて頂き感謝いたします、勇者様」
「君に呼ばれれば何度でも来るって言ったよね、モニカ?」
「もう! こう言う場面なんですから、ちゃんとやって下さい、ヒロキ兄様!」
そんな風に言葉だけは怒っているけど、その嬉しそうな表情がその全てを打ち消しているよ。そういえば、何やら偉そうな身分を名乗っていた気もするね? 周りを見渡すと、意外に多くの人(見た事がある顔も混ざっているけどね)が僕の来訪を出迎えてくれている事が分かるよ。今までの召喚と随分と扱いが違うね?
「ゴメン、モニカ。今回は精剣の間じゃないんだね、それに聖アクシリス帝国って何?」
「あ゛あ゛、神官長として初仕事だったのに、勇者様の馬鹿!」
「えっと、事情が分からないから仕方ないと思うよ?」
小柄で明るい性格のモニカ神官長に厳かさとか神秘性を求めている人は居ないと思うし、周りの反応を見ても落胆は見えない。妙にホンワカしている兵士も多いし、その代表格が、兜鎧は違っても見間違える事が無い、マークだった。(前回騎士団の副隊長に昇進したって聞いたんだけどね)
「もう1度最初から行きますよ?」
「え?」
「私、聖アクシリス帝国神官長モニカの招きに応じて頂き感謝いたします、勇者様」
「えっと、神官長、貴女の呼び出しに応じた勇者ヒロキだ。貴女は私に何を望むのか?」
「はい、勇者様にこのシングリーフを救っていただきたいのです」
「任せて……、ゴメン無理だよ!」
幾らなんでも無理な要求をされたので、素で返しちゃったよ。周りには非常に受けたけど、神官長様はご立腹の様子でした。強引に精剣を押し付けられて、そのまま引っ張って行かれる事になったよ。
「もう良いです! こちらに来て下さい、天幕を用意させてあります。きっと驚きますよ?」
「驚くなの~」
ジルの方は相変わらずだったし、モニカも昔の調子を取り戻している気がする。モニカに手を引かれて、明るい場所を離れると、月明かりに淡く照らされた暗い巨塔が目に入った。近くで見たのと今が夜である事で印象が随分違うけど、間違いなく”創造主の塔”だったんだ……。
「ヒロキ、久しぶりですわね!」
「ヒロキさんお変わりありませんか?」
大きなテントと言うより、本当に天幕としか言えない所で僕を待っていたのは、魔姫ダリヤと竜族のリセイさんだった。確かに驚いたけど、約一名会いたくなかった気もするよ? ちなみにダリヤもリセイさんも外見は変わっていないね、モニカは実年齢では年上の可能性も高いけどこれは言わない約束だよ!
何故か(僕に関係があった)VIPな女性ばかりが集まった天幕だけど、僕としては妙に落ち着かなかった。だって、こんな面子が集まるなんて、本当に世界の危機っぽいからね!
ただ、綺麗な女性ばかりで、天幕の中の雰囲気は巨塔に感じた暗さを打ち消すには十分だったね。何か間違えれば、この3人と良い関係になっていたと思うと気が引けるよ。(ハーレム? 僕には無理だよ!)
「魔姫殿下とリセイ様には事情の説明は済んでいますので、ヒロキ兄様の質問に答える形で話を進めたいのですが?」
「ええ、構いませんわ」
「お任せします」
「良いなの」
とりあえず、ジルも含めて同意を得られた様なので、僕が質問する立場になりました。何から聞くべきなんだろうね?
「えっと、聖アクシリス帝国に関して最初に聞きたいかな?」
妙に聞き慣れた感じなんだよね?
「それはですね、ジャレプ大陸は現在聖アクシリス帝国が治めているんです。名前から想像出来ると思いますけど、アクシリス王国、サンドロス帝国、教国が1つになった形ですね」
「いや、そんな簡単に1つにはならないよね?」
「いえ、アクシリス王国のアラステア陛下には後継者の男子に恵まれなかったのはご存知ですね? 一方サンドロス帝国には丁度良い年頃の嫡子がいました」
「モニカと同じ年頃?」
「違います、上の姫様です!」
別にそこは強調する所じゃないと思うけど? アラステア国王には娘が居たね、確かに。(会った事は無いけどさ!)
「政略結婚なんだ、そんなに上手く行くものなの?」
「ええ、その辺りは爺、今では帝国宰相なんですよ?が上手く取り計らってくれました」
モニカが爺と呼ぶのは無論トーマさんだろうね、帝国宰相とは出世した物だね。絶対暗躍しているよね! そして僕はこの話題になって少しだけ胸を張った女性が居た事を見逃さなかったよ? あ、ダリヤの胸ってまた成長したかも知れない、じゃなくって!
魔王城で交渉をしていたヘイルズ伯とトーマさんは親しかった筈だよね? ダリヤがこっそり手を貸したと考えても不思議じゃないね……。あ~、僕が絶好の交渉材料を提供した気もする。
「教国の唱える終末論も、かなり影響したみたいですよ?」
あ、ダリヤの胸が引っ込んだ、じゃなくって、少しむっとした表情だね。次期魔王として、公には出来ない工作でもしたんだろう。単純な話だけど、魔獣使いが1人城とかに潜り込んだらどうなるか想像出来るよね?(そして、魔人は食事をしなくても生存出来る筈だから何かの荷物に紛れ込んでと言う手も使えるよ!)
どうでも良いけど、その隣でリセイさんが自分の胸に手を当ててぶつぶつ言っている気がする。僕の視線に気付いたのかな? ダリヤがちょっと大き過ぎるだけで、十分に……、目が合っちゃったよ。リセイさん真面目に話に参加して下さい、僕が現実逃避出来ないじゃないですか!
「コホン、あのさ、シングリーフの危機って本当なの?」
「神託だけではありませんよ、レーグナでの魔獣の暴走、ヲーロスでは例の無い狂竜の被害があったのは知っていますよね、勇者様?」
「……」
現状、勇者様といわれるのは避けたいけど、僕が勇者として関わった事件でもあるから返す言葉も無いね! あれ? 狂竜の最期の場所はこのハーメリアだったし、レーグナからみればレーグナは南方に当たる……。
「精霊王陛下の代替わりも、大きな目で見れば、世界の終わりを象徴する物と言えるんですよ?」
その話もあったね、精霊王様は”力が弱まった”と表現していたけど、こう並べられると確かにここ10年位でシングリーフでは色々な異変が起こったのは確かだね。(僕の感覚ではもっと短く感じられるけど?)
「う~、百歩譲ってシングリーフの破滅が迫っているとして」
「ヒロキ、女々しいですわね!」
「うぅ、僕に何が出来るんだよ?」
女々しいと言われたのに、怒る気力も出ないよ!
「勇者様はこの創造主の塔を昇って下さい」
「モニカ?」
何故かモニカが断言口調で塔を昇るという目標を示して来た、まさか塔の天辺に、世界の破滅を企む存在(魔王と呼べないね)が居て、それを退治しろじゃないよね?
「気付いていらっしゃいませんか? 私がはじめて勇者様を呼んだ時から、この事態が動きはじめたという事に?」
「モニカ、何を知ってるんだ?」
「私は”巫女”です。巫女達の代表の様な事をしています。それは神託の精度を高めるに役立ちますけど、結局は創造主様の言葉を伝えるだけの存在です」
結局は”創造主”という不確かな存在の所に辿り付く訳だね。この塔を昇ると”創造主”と会えて、この世界の破滅を回避する事を願えば良いのかな?
「これは私個人の感覚ですけど……」
「他の巫女と違う?」
「そうですね、皆さんは創造主様の言葉をそのまま伝える事を重視する傾向にあります」
「うん、それはある意味正しい巫女の在り方だよね?」
「はい、ですが、私には少しだけ創造主の気持ちが分かる気がします」
「?」
「創造主様は、きっと助けを求めているのです」
不思議な事だけど、モニカの不確かな断言が、僕の心を決めさせてくれたよ。そこに助けを求めている女性(確か女性だったよね)が居るのなら、勇者ヒロキは駆け付けるんだよ。(少なくともこのシングリーフではね!)
「そうか、分かったよ、僕は創造主の塔を昇る」
「ありがとうございます、勇者様」
別にモニカがお礼をいう様な状況じゃないと思うんだけどな、世界を救うと決めた勇者に送る言葉としては、何か違うよね?
「そう言う流れになると、ここに居る4人で塔に挑むのかな?」
「はい、ヒロキ兄様、ジルちゃん、ダリヤ様、リセイさん、そして私が必要なのです」
あ、ジルも入るんだ? こんな事を言うと本人が怒りそうだけどね。
「必要だって分かるの?」
「はい、塔の中には試練が待ち受けて居る様ですから……」
試練ね、それっぽいけど、これを真っ当に受けないといけないのかな? 塔には窓らしきものは無かったから外から攻略って無理っぽいね、え?いきなりズルをするな? 別に悪い事じゃないよね?
「塔の内部の情報って分かっているのかな?」
「いいえ、詳細は不明です。冒険者の方に偵察をお願いしたのですが、予想通り2階に上がる道さえ見付かりませんでした」
ああ、それで、さっきの出迎えのメンバーにゴールデンバッツのホレスさんとシェリルさんが居たんだな。ダンジョン探索のプロの冒険者にも手に負えないって、どんな状態なんだろう?
「外部から破壊は無理だよね、竜でも壊せないんだから?」
「はい、私も試してみましたけど、傷も付きません」
リセイさんが済まなそうに答えてくれたよ。狂竜の相手が務まる建物なんだから当然と言えば当然かな?
「ジルは中に入れるよね?」
「入れないなの! 固いなの!」
精霊も入れないし、竜も傷付けられないか、本当に”創造主の塔”という名は伊達じゃないな。
「ヒロキ、男らしく正面からぶつかるべきですわ!」
「いや、まあ、そうなんだけどさ」
冒険者が手も足も出ない場所を正面からって、下策だと思うけどね? ダリヤはそっちが好きなんだろうけどさ!
「大丈夫ですよ、”生きた迷路”を突破するのは」
「モニカ、腕利きの冒険者だって手も足も出なかったんだよね? あれ、でも、予想通り2階に上がれないって言ってたよね?」
「はい、もう直ぐ日が昇りますから、それに合わせて中に入れば最短距離で抜けられます」
「それは巫女の力なの? 神託でそんな事が分かるの?」
「そうですね、神託を聞いた事が無い方にこの感じを説明するのは難しいのですが、夢を見ている創造主様の心の声を聴くというのが近いと思います。創造主様は時々この世界に意識を向けて、不安を感じるとそれを私達に伝えるのです」
「ふーん?」
「この日この時を逃せば、次に抜けられるのは20年後でしょうか?」
なんじゃそれは! 元々、人が入る事を前提のとしていなければ当然なのかな? 別にゲームじゃないんだから、クレームを入れるユーザーも居ない。
「また無茶な試練だね?」
「いいえ、時間が分かっていれば、確実に抜けられるのですから」
「ああ、それが試練なんだ?」
テストで100点を取れという命題があったら、勉強するとより、問題を予め手に入れる方が確実だよね。別に職員室に盗みに入るとかではなく、”テストに出すぞ”という所をちゃんとメモったり、分からない所を質問に行った時に”他に覚えておいた方が良い所はありますか?”という探りを入れるとかね。(最後のは委員長のテクニックだよ? 僕には真似が出来ないよね絶対に疑われるからさ!)
差し詰め神託の場合は、教師の寝言をこっそり録音しておくという感じかな? 上手い例えじゃないけど、”心の声”を聴くと表現されても理解できないよね?




