第31話 中二病的な?
「じゃあ行きますよ」
「はい」
リセイさんが発するプラーナ(多分竜族でも指折りの強さ)を感じようと体全体の感覚を研ぎ澄ました。すると閉じた目の中に何か青い光っぽいものが見えたんだ。
「何か見えます、青い光でしょうか?」
「青い光ですか? こうしてみるとどうですか?」
「あ、左右に揺れますね、今は上下です」
「青い光というのは珍しいですけど、感じられているみたいです。これなら気闘術を習得できるかも知れませんよ!」
リセイさんが、少し嬉しそうに断言してくれたよ。僕としても、魔法と気闘術を同時に使える最初の人間とか夢に見ました、中二病的な展開だよね!
+ * +
次の修行は、僕自身の”力”を取り出して竜器に注ぎ込むという言うのは簡単だけど、かなり度胸の要る修行だったよ。”力”というのは、”精神力”であると同時に”生命力”の場合もあるらしかったからさ。
「あ、良い感じです、そのままそのまま、あ、駄目抑えて!」
「くっ!」
「大丈夫ですか、ヒロキさん?」
”精神力”を集中させる事に関してはそこそこだと思うんだけど、”生命力”の方はきちんと制御出来ないんだよね? 加減を間違えると、あっという間に”干乾びる”と聞かされたけど、そうでなくてもかなりの負担だよ。精神力を竜器に集中しても僅かなプラーナしか発生しないんだよね?
「無理をしては駄目ですよ、気闘術の使い過ぎは人間の方の寿命に関わりますから……」
「はい、代々の魔王が短命だったと言うのも頷けますよ」
「魔王陛下が単独で気闘術を使うのはやはり限界があるのです。霊獣や狂竜退治などには竜族が同行するので、それ程負担にはならないのですけど……」
僕の場合は、キョウガを敵に回してが前提なのでリセイさんに助けてもらう訳には行かないんだ。キョウガを退治するのに協力してくれとか言われたら喜んで協力するけどさ!
「リセイさんって、ヲーロスを出た事が無いのに魔族の事情に詳しいんですね?」
「ええ、おじ様が以前レーグナに行っていて、魔王陛下に協力する役目を負っていましたから……」
「そうですか」
そんな事情があって、気闘術や魔族の事情に詳しいんだな。リセイさん未だにコウヒョウの事を引き摺っているんだ……。こうして、僕の修行に付き合ってくれる事で、少しは気が紛れているかな?
+ * +
そして3日目、取り出したプラーナを”力”に変える所で僕の気闘術習得は挫折する事になったんだ。まあ、キョウガが最初に指摘した通りなんだけどね。
「ふふふっ、やっぱり私なんかが誰かに気闘術を教えるなんて、無理だったんですね……」
「リセイさん、そんな事は無いですよ!」
「ヒロキさんが気を使ってくれたのに、シクシクシク……」
こんな感じで、リセイさんがまた自虐モードに入ってしまった。実際、精神力で僅かに発生させたプラーナはあっという間にマナと干渉して消えてしまうんだよね。僕がプラーナを感知出来たのも、マナと干渉したのを感じていたらしいというオチだったしさ!
キョウガがモニカから精剣を預かってヲーロスに運んで来るのもかなり苦労したらしいから、キョウガにはこの結果は分かっていたんだろうね。先日の狂竜コウヒョウ退治だって、僕が乗っている竜がリセイさんじゃなければ色んな差し障りがあっただろうね。
但し、リセイさんによる修行が無意味では無いのも事実だよ。
「リセイさん、キョウガが来ますよ。そんな調子だとまた嫌がらせされますよ?」
「えっ?」
そんな話をした直後に、本当にキョウガが僕達の居る修練場に顔をだした。用も無いのに日に3度は顔を出すんだよね!
「何だ、そんな妙な顔をして?」
「ぷっ!」
「おい、リセイ何だよ。いきなり俺の顔を見て笑うなんて!」
そして不機嫌そうな顔をしてキョウガが去っていく事になる、良い気味だよ! 毎回、僕とリセイさんが仲良く修行しているのを見に来て、不機嫌になって帰って行くんだから、懲りないよね。(リセイさんもその意図には気付いているっぽいけど、その本心はどうなんだろうね?)
「ね、分かったでしょう。前回魔王城でキョウガに遭った時には、僕はアイツの存在を感知出来ませんでした。でも今ならそんな事態にはならないと、断言出来ます」
「ヒロキさん、ヒロキさんは優しい方ですね?」
何故か、リセイさんがまた僕の手を握ってそんな事を言って来た。何故かと言うのは変だけど、妙に瞳が潤んでいる気がするよ! モニカやダリヤの時と同じ傾向がある気がする……、おかしいな?
「キョウガだって優しいと思いますよ、分かり難いと思いますけど……」
「そうですね、キョウガは昔からそうでした。竜族と言うのはそう言う物なのかも知れません」
「魔人も似ていますよね?」
「ええ、ダリヤ様の様なタイプが典型です。だから私は浮いた存在だったのでしょうね」
「リセイさん?」
「これはおじ様しか知らない話ですけど、聞いてもらえますか?」
あう、聞きたくないって言いたい展開だけど、そんな事言えない雰囲気だよ!
「私が持っている最初の記憶は、誰かに突き落とされる瞬間でした。落下しながら、大きな手と少しだけ竜らしい人影を見た気がします」
「突き落とされる?」
「ええ、竜って卵から孵って暫くは自我が無いんですよ、知っていましたか?」
「人間にも、物心つくという年齢があります」
「そうですよね、ただ竜族は自我に目覚めると人の姿に変じて同時にプラーナを発するんですよ。人の姿で飛ぶ事も出来ず、谷の底で泣いている私を見付けたおじ様は強過ぎるプラーナに異常を感じて谷に分け入ったそうです。まるで狂った竜の様だったと言っていましたね……」
「……」
「私を谷に突き落としたのは男性、多分、本当の父親だと思います。竜王の地位を争った程のプラーナを持つおじ様でも苦労して私の制御出来ない”力”を抑えたそうですので、普通の竜ではどうしようも無かったのでしょうね」
「そうですか……、もしかして誰かが怪我でもしたのかも知れませんね?」
「はい……、竜と言うのは子供が少ないのです。おじ様は子供に恵まれませんでしたし、一生の内に3つ以上の卵を産む雌は稀なのです」
「それだと竜族の数は増えないですね?」
「そうですね、でもだからこそ竜の番は雛を慈しみます。私は少し年上のキョウガが羨ましかったですね……」
強過ぎる力と言うのは時には自分自身を傷付けると聞いた事があるけど、目の前にその実例が居るんだ……。リセイさんの性格は生まれ付きと言う訳ではなく、過酷な自我の目覚めに根ざしているんだね。男性恐怖症も”父親”の影が影響しているのかな?
詳しい事情を知らないから結構酷い事を言った気がするけど、リセイさんに必要だったのは竜族(或いは魔族)的な価値観からではなく、同じ思考で単に同情ではなく前に進む切欠をもたらす誰かだったんだ。それが僕だったというのは妙な成り行きだけどね。
「でもリセイさんは乗り越えましたね? 僕が手を貸す事が出来たのは本当に偶然だし、単なる切欠にしか過ぎません」
「ヒロキさん?」
「多分リセイさんを支えるのは、竜の誰かです。もし、その誰かが現れたら、本当のご両親を探してみるのが良いんじゃないですか?」
「えっ?」
「僕の国では、結婚相手を自分の両親に紹介するという習慣があります。多分竜族には無いでしょうけどね?」
「両親に? それは……」
リセイさんが微妙な表情を浮かべている、今回は上手く回避出来たみたいだね。もし、リセイさんの相手がキョウガだったら……、うん、竜は傷付けあわないよね?
「もしかすると、リセイさんを捨てた事を後悔しているかも知れません。そこからご両親を救い出せるのはリセイさんだけなのですから!」
「はい!」
リセイさんがはじめて心からの笑顔を見せてくれた瞬間だった。哀しみの中で生きて来た竜が解き放されたと言っても良いかも知れないね!
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ここまでの登場人物
・リセイ
サブヒロインの4人目
竜族一のプラーナを持つ竜王の弟コウヒョウの養女
悲観的な性格は生まれと育ちに寄ります
・コウヒョウ
事故で自らも狂ってしまった老竜
竜王の座を兄と争った程の猛者故に最悪の展開を迎えてしまう
昔、魔王との協定でレーグナに赴いていた(竜族にとってある意味武者修行かも?)
さて、短いですが4章に当たる部分もこれで終了になります。短い上に地味な展開ですが、色々重要な要素も出しました。
ある事情でサブヒロインと明記していないモニカを含め4人の女性に関わって来た主人公です。
・喜びの笑顔の似合う女の子には、ちょっと心配されました
・お気楽精霊は少しだけ責任感を覚えた様な気もします
・烈火の様に怒る魔姫は少しだけ怒りを抑える術を学びました
・哀しみにくれる竜女は少しだけ前に進む勇気を貰いました
そして、相変わらず影の薄いメインヒロインの少女は……?
露骨過ぎでしょうか?
すみません、反応が無さ過ぎて、こう書かないとちゃんと何を書いているか伝わっているか不安なんですよね?
上記の関係が分かっていないと、5章の展開が突拍子も無い物に見えてしまうので。
あ、ちゃんと読み取って下さった方もご心配無く、ちゃんと一捻りしてありますので。
一応最後にネタばらしはあるんですけどね?




