第28話 破壊者
夏休み明けの火曜日の昼休み、妙に興奮した感じで英知が僕に話しかけて来たよ。
「おい、見たかよ!」
「何をだよ、英知?」
「弘樹、お前本気か? あの”浅木結歌”が笑ったんだぞ?」
「そうだね……」
英知の奴、僕が前に微笑んだと言ったら鼻で笑ったくせに、今になってそんなに騒ぐ事かな? 昼食に珍しく委員長こと仙道咲耶と元クラスメイトの”浅木結歌”がこの教室に来て一緒に弁当を食べていたんだよね。夏休み前までは中庭か委員長が”浅木結歌”のクラスに出向いている事が多かったんだ。
世間話に花を咲かせる美少女二人というのは絵になるけど、僕には何故かしっくり来ない風景だったんだよね。夏休み中から委員長は進学塾に本格的に通いだしたし、英知は正式な部長として秋の大会に向けて剣道部中心の学生生活なんだ。当然僕と”浅木結歌”の接点が殆ど無くなっている訳で、”潤い”が欠けている筈なのに不思議だよ!
「天原君、どうだった?」
「あれ、委員長? どうだったってどういう意味かな?」
何時の間にか2人は食事を終えて、”浅木結歌”は自分のクラスに戻ってしまったらしい。残念な気持ちもあるけど、何故かほっとした気持ちもあるんだよね?
「どういう意味って、あの結歌を見たんだよね?」
「もしかして、僕に彼女を見せる為に、この教室でお弁当を食べたの?」
「そう言う訳ではあるんだけど、反応が薄いわよね? 勘違いだったら謝るけど、天原君って結歌が普通になったら告白する積りだったんでしょう?」
はい、委員長にもバレバレでしたよ! そんなに分かり易いんだね僕の考えって……。一応小声で会話していたんだけど、結構精神的に来るものがあるよね?
「否定はしないけど、今はちょっと駄目かな?」
「どうしてか、聞いて良い?」
「さあ、理由は自分でもはっきりしないんだよ。何か違うって感じるんだ」
「天原君って時々怖いよね?」
あれ、怖いって、もしかして委員長まで僕をストーカー認定? 委員長の表情が微妙に硬いのは、引いてる?
「ご、ご免なさい。そう言う意味じゃないのよ。えっと、本当に結歌の事をよく見ているなって、怖い位に」
「それって、フォローになってないよ!」
「一応褒めてるんだけど?」
一応は余分だよね? ”浅木結歌”を見る目に関しては、彼女の両親にも負けない自信があるけどさ!(気持ち悪くなんか無いよ!)
「実を言うとね、結歌の感情は戻りつつあるのは本当よ。でも今のあの子は感情を学んでいる最中らしいわ」
「感情を学ぶ?」
「お医者様の指示らしいわよ。標準的な高校2年生の女の子っぽい言動を心掛けているんだって」
ある意味精神的なリハビリなのかな? でも、”浅木結歌”らしくないと感じた僕の直感は間違っていなかったんだね。”浅木結歌”らしい笑顔って、以前僕が見たあの仄かな微笑みを数倍、数十倍にしたものだと思う。(でも、これって僕の願望の現われかも知れないんだよね?)
こんな事もあって、”浅木結歌”の人気が再燃する事になった訳だけど、”浅木結歌”にとっては災難でしかなかったらしい。目覚めはじめた感情に振り回されているだろう彼女にとって他人からぶつけられる”生の感情”と言う物が厄介なモノだという想像は出来た。
この時点では僕は自分の選択が間違っていなかったと信じて疑わなかったよ。何故、委員長、いや、仙道咲耶という女の子が僕達の教室に”浅木結歌”を来させなかったのかなんて考えもしなかったんだ……。
+ * + * + * +
それは翌週の木曜日の事だった、その日の最後の授業がはじまって10分程が過ぎた頃だったと思う。
”ドゴン!!”(ピギャ~!)
そんな鈍い破壊音と同時にいきなり校舎が揺れたんだ。その直後に教室の窓の外をフェンスと校舎の破片らしきものを落ちて行くのが見えた。妙な声も聞こえたけど、あれは!
「みんな落ち着いて!」
教室内が混乱に陥る前に、鋭い声をあげたのは担当の数学教師ではなく本人も少し青い顔をした委員長だったよ。中々出来る事じゃないと思うよ。だけど僕はとある理由でこの騒動の原因が分かっていたので、混乱してくれた方が良かったんだけどね。
「天原君、落ち着いて!」
そんな委員長の警告を無視して僕は教室から駆け出して屋上を目指したんだ。この騒ぎなら、驚いて外に出ようとする事はおかしくないだろうから、問題にはならないだろうね!
本当に混乱して廊下に出てくる生徒達を掻き分けて、僕は何とか屋上にたどり着いたよ。屋上には想像通りの人物が待ち受けていたよ?
「ヒロ兄、あの黒い馬鹿竜が酷い事言うなの!」
「ジル少し落ち着こうね、黒い馬鹿(ここは重要!)竜ってキョウガだよね?」
「そう、それなの!」
何だろう、もしかしてモニカの身の上に何か起こったのかと心配したんだけど、違うらしいよ。お気楽精霊がここまで慌てるなんて何が起こっているんだろうか? 慌ててこちらを目指したから転移に誤差が出て、屋上というか更に高い所にある時計台が酷い事になっちゃったんだよね? うん、悪いのはあの竜王子という事で屋上の惨状は見なかった事にしよう。
そんな事を考えている間に、誰かが屋上への階段を上ってくる靴音がする。
「拙いな。ジル、とりあえずシングリーフに跳んでくれるかい?」
「分かったの! アイツをやっつけるなの!」
いや、どう考えても勝てる気がしないよ。未だに弱点らしい所もないし、人間と竜じゃ普通に勝負にならないし、あっちは僕より修行できる時間が何十倍も何百倍も多いんだよ!
そんな弱気な事を考えている間に、ジルに引っ張られてまたシングリーフへの転移が行われたんだ。




