第26話 霊獣を招くモノ
ここ迄で終れれば、僕としては良かったんだけど、少しだけ付け足す話があるんだ。勿論、フェンリルの話だよ……、それ以外もあるけどね。
「ここは何処だ、私の山では無い様だが?」
「正気に戻りまして、フェンリル?」
「魔人の娘? いや、この気配は魔王の眷属か?」
「ご明察ですわ、魔王シャミール陛下の娘、ダリヤと申しますわ。ご自分がどんな状態だったか覚えていらっしゃりませんの?」
「この感覚は、我が目覚めた時と同じ……、そうか、魔王には警告を受けていたと言うのに”暴走”してしまったのだな、この歳になって無様な!」
この歳って、何歳だろうね? ただ、霊獣に魔王が警告していたと言うのは新情報だね。あの”魔王”なら抜かり無くやりそうだけど、それ以上は出来なかったんだ……。ホレスさん達と一緒にアクシリスの戻ったシーサーは大丈夫なのかな?
「フェンリル、本当に暴走している間の事は何か覚えていませんの?」
「分からないな、いや、何故か南を目指さなければならない気がしたな……。何かに呼ばれた気がしたと言うべきだろうか?」
「何かに? その声は今は聞こえませんのね?」
誰かにじゃなくて、何かに? 霊獣の視点って分からないね。
「……、いや、何時から聞こえはじめたか分からないが、以前から聞こえていたし、今でも微かに聞こえている気もする」
「くっ、もう一度”暴走”する可能性があるとおっしゃるの」
「否定は出来んな、大した物ではないと思っていたのだが、結果はこの通りなのだからな……」
「……」
これは意外に事態がは深刻だよ、霊獣側としても分かっていても避けられない”暴走”を避ける方法なんて無いだろうにね?
「娘、いや、ダリヤ王女。”魔魂晶”を持っているか?」
「ええ、勿論ですわ。お母様の形見ですもの。まさか! 本気ですの!?」
「無論だ、ダリヤ王女は私にとっては恩人の子孫であって、その上、更に恩を受けたのだ。これを返さずに氷狼を名乗る訳にはいかんのだ」
「でも、霊獣を使役したなんて聞いた事がありませんわ」
「そうでもないぞ、それ程多くは無いが使役された霊獣は居るのだ。簡単に魔人と馴れ合うのは霊獣としての矜持が許さんが、2度も助けられて何もせぬでは霊獣としての尊厳が保てぬ」
うーん、シーサーがここに居たら喧嘩になりそうだよね? 同じ犬型なのに考え方が違い過ぎるよ。
「それにな、何とも分からん物に意識を乗っ取られるよりは、信頼できる者に使役された方が納得できるだろう?」
「それは、確かに……。分かりましたわ!」
ダリヤが苦労して胸元から小さな魔晶石っぽい物を取り出した。皮製のブレストメイル着用なので大変みたいだね、結構胸が大きいのがちらっと見えちゃったよ!
あれ、ちょっと”注目”していた間に、フェンリルが消えてるよ? 小さな狼とかになっている可能性も考えたけど、見当たらない。
「霊獣を使役するなんてはじめて聞きましたけど、魔魂晶の中に入るものですのね?」
「ああ、少し狭く感じるが慣れるだろう」
そう言う事らしいよ? 狭いっていうレベルじゃないと思うけど、魔獣や霊獣にその辺りの常識を求めちゃ駄目だよね?
「ヒロキ、分かっていますわね?」
「へぇ? 何を?」
いきなりダリヤが僕に向かって真剣な表情で、意味不明な質問をしてきたよ? 正直言えば、目の前で起こった事が全然理解出来なかったと言っても言い過ぎじゃないよ!
「何ですの、その反応は。魔人の秘儀を目の前で見たのですわよ?」
「秘儀って言われてのね、霊獣を使役って、凄い事だね!」
しまった、胸の谷間に目を奪われていて、何が起こったか見て無かったよ! 魔獣使いとか僕に向いてると思わない、うん、全てはダリヤの胸が悪いんだ! 自分の若さが憎いよ!
「霊獣もそうですけど、問題は”魔魂晶”の方ですの」
「ああ、あの胸の谷間から出て来た小さな魔晶石?」
「ヒロキ、何か妙な事を考えていませんこと?」
落ち着けヒロキ、気付かれたら絶対に死ぬほど怒られるぞ!
「いいや、そんな小さな石じゃ、価値が無いと思っただけだよ」
「価値が無いですって、これは母様そのものなのですのよ!」
怒られたけど、方向性は違うから大丈夫だよね? お母さんの形見と言っていたし、魔晶石っぽい?
「もしかして、魔魂晶って、魔人の魔晶石?」
「そうですわ、魔人が死んだ時に時々遺される魔晶石の一種ですの」
「そうか、ダリヤのお母さんは亡くなっていたんだね」
つい、しんみりとした声が出てしまう。お母さんが生きていれば、もう少しお淑やかな女性になっていたんだろうにね……。
「会った事も無い母様を悼んでくれますのね、ではなくって、魔魂晶があれば魔獣を操れるという話ですわ!」
「ああ、そっちも重要だったね。僕でも出来るのかな?」
「何故そちらが後になるのか理解に苦しみますわ」
とりあえず目先の危険と、将来の夢だったら目先の危険だよね?
「以前、中央諸島から来た商人と魔人の女性が結ばれた事がありましたの」
「ああ、結婚できるんだね?」
「え? ええ、その夫婦は子供に恵まれなかったのですわ。奥様の方が夫を庇って魔獣に殺されてしまいましたの」
「そうか……。奥さんの残した魔魂晶で旦那さんが魔獣使いになって復讐する訳だね」
「そうですわ、相打ちになったと言う事になっていますわね」
なんで、”なっている”んだろうね?
「ところでヒロキ、貴方魔魂晶が欲しくなくって?」
「……、欲しいけど、欲しくない気がするかな?」
「はっきりしないんですのね?」
「ねえ、ダリヤ。何故僕にこんなに詳しく話してくれるの? 魔人の秘儀なんだろ?」
バックス殿下なら剣を交えた仲だけど、ダリヤには結構酷い事を言っている気がする。
「そんなの決まってますわ。きちんと説明して口止めしないと、重大な情報が漏洩しそうですもの!」
「僕ってダリヤの戦友だよね? そんなに信用無いかな?」
「ヒロキの性格なら概ね見切っていますわ。謁見の間の話ですけど、ヘイルズ伯はこちらの依頼で動いていましたのよ?」
「えっ?」
「ほら、やっぱり気付いていないですわね。ヒロキの事ですから、このままアクシリス王国に戻れば、あたくしとのやり取りを聞き出される事になりますわ」
「……」
ありそうだよ、トーマさん辺りが何気無く”雑談”とか、騎士団長になってたリースさんが魔王軍について”ちょっと”聞かせてくれとかね!
「中途半端に口止めしても、ヒロキは何を隠せば良いか分からないでしょう?」
「ぐっ……」
「適当に嘘を言えば矛盾を指摘されて、慌てて、必要も無い事を喋ってしまうんですわ!」
「うぐっ……」
ダリヤは僕の母さんの生まれ変わりなのか? 会って1日も経っていないのに、反論も出来ない程性格を読まれているよ!
「これでも、人を使う事を学んできましたの、ヒロキみたいに読み易い人間は珍しいですわね?」
「うぐぅ~」
ぐうの音しか出ないよ! そう言えばトーマさんにも読み切られたよね? 師範代にも結構指摘された気がするね……。 正直は美徳だって言われるけど、馬鹿正直は美徳じゃないよね? だからといって、ずる賢く生きて行ける程の頭もないんだよ。
「知らなければ、情報が漏れないと思うけど?」
「いいえ、ヒロキはもう死んでも魔魂晶の話を漏らしませんわ。魔人でなくても魔獣を操れるんですのよ、魔魂晶さえあれば……」
「魔魂晶さえあれば……?」
魔魂晶は魔人が死んだ時に生成されるんだよね、って!? 怖い想像をしちゃったよ! 魔人狩りなんて起こったら洒落にならないし、僕は絶対にこの事を誰にも話せないね。
それに、魔人と結婚した人の相打ちになったという話も怪しくないかな、少なくともこの大陸から出る事は出来なかっただろうし、口を封じられた可能性だってあるよ!
あれ、そうすると僕が魔魂晶を受け取ったら、同じ目に合う気がしない? こ、怖すぎるよ!
「とりあえず、僕は普通の勇者として生きていくことにするよ。ダリヤの想像通り魔魂晶の事は死んでも喋れないね」
「そう? 残念ですわ」
うん、脅しだけで済んだらしいね、助かったよ~。
「ところで、ヒロキは魔王の部下として働く積りは無くって?」
「何か凄く魔王らしい台詞だね?」
あれ、諦めたんじゃないの?
「そうですかしら? 使える者を部下に欲するのは、何処の王だって同じはなくって?」
「いや、そうでもないんじゃないかな? 部下が優秀すぎると困る場合もあるよね」
「随分と器が小さくっていらっしゃいますのね?」
「まあ、そうかもね」
「それで、どうですの? 何でしたら、貴方の事を男性と見て差し上げてもよろしくってよ?」
そんな事を言いながら少し頬が青くなっているよ、少し弱弱しく見えてドキッとしたよ。それに腕を軽く組むものだから胸の谷間が強調されて凄い事に! さすがは34歳の乙女、凄い落差だよ!
だけど、ダリヤの申し入れを受け入れるなんて、ジルと結婚する位有り得ないよね。誰が永久就職(但し奴隷的な意味で)なんて受け入れる物か。しかもご主人様は人を使う家系に生まれて、人をこき使う事を学んで育ってきた様な女性だよ?
それに、肉体的には”男”そのものと言ったバックス殿下や、強さでは未だに敵いそうも無い竜王子キョウガと比較されるんだよ? 考えただけでストレスで死ねそうだよね!
「むっ、何か悪口言われてる気がするなの!」
「ジル逃げる準備だ」
「跳ぶなの、ヒロ兄?」
「ああ」
「なにぶつぶつ言っていますの? は、早く返事をしなさい!」
何故だろう、今回の召喚では2回も告白された気がする。だけど、どっちも絶対に普通の告白じゃないよ!
「ごめんダリヤ、僕には好きな女の子が居るんだ。じゃあね!」
「あ、逃がさないですわ!」
ダリヤはそんな事を言っていたけど、僕はそのまま日本へと跳んで逃げる事になったよ。




